第58話 回復アイテムお買い求め
カノンに一杯食わされた俺は、そのまま忘我サロンを出て大鐘楼の店までカノンに連れていかれた。
目的はもちろん彼女のための回復アイテムを購入するため。
あのときは勢いで回復アイテムを買わずにおけばなんて思ったが、冷静に自分の思考を思い返すとあまりに不誠実だったな。
カノンは事前に条件を提示していたわけだし。平静さを失って浅はかな真似をするところだった。
思考を先回りするように釘を刺してきたカノンには感謝せねばなるまい。
しかしカノンにはしてやれたものの、あの三人では他に選択肢もなかったし彼女の戦闘スペックも申し分はない。
もちろん釈然としない気持ちはあるが、この気持ちは一旦飲み下そう。
複雑な気持ちを整理しながらカノンに案内されて辿り着いた店は、リサイクルショップ。
店内は明らかに中古とわかるような品が値札付きで並べられている。
ちょうど最近行ったシャルロッテの工房をお行儀よくしたような店構えだ。置かれている品物の用途が不明なのも含めて既視感がある。
「リビングアーマーのアリマには縁が無いかもだけど、ここはからくり系の種族御用達の店だぜ」
「そうなのか? 言っちゃ悪いがガラクタだらけに見えるんだが……」
用途不明のプロペラとかタンスとか鍋のフタとか。どれも役に立つようには思えないぞ。
あ、でも中には拡声器やランプなど、考えようによっては使えそうなものもある。
玉石混交ではあるのかもしれないな。まあ、だとしても全てジャンク品のようなで俺には使い道がないだろうが。
「機械系は部品を後付けできるからな。私から見たらお宝だらけだぞ」
「なに? そういうことなら一気に話が変わってくるぞ」
まっさきにガラクタ認定したプロペラとかかなり悪さができそうだ。機械系統の種族特有の楽しみ方とかあるに違いない。
俺は種族リビングアーマーとして遊んでこそいるが、こうも種族固有の楽しみ方があるのを観測し続けていると他の種族にもついつい誘惑されてしまうな。
たぶん、俺以外にも他種族特有の楽しさに誘惑されてサブキャラを作っている人もいるんじゃないか?
俺は一個のデータをじっくり進めたい派なのでまだサブキャラを作る予定はないが、思いを馳せるだけならタダだ。
魔法使いとかオートマタとか、このリビングアーマーのデータをやることがなくなるくらいやり込んだら作ってみたいな。
まあこの調子じゃあいつになるかわかったもんじゃないけどな。このデータの進行度が半端な状態で新データを作るつもりはないし。
俺の性格上、データを複数作ってしまうとやり込みの集中が分散してしまい、結果すべてのデータが中途半端になってしまうのだ。
これはばっかりは性格だな。
「お、アリマも興味が湧いてきたか? なんなら私のために手ごろな部品を買ってくれてもいいんだぜ?」
「馬鹿いえ、無駄遣いする予算はないぞ」
「わかってるわかってる、言ってみただけだ」
俺の手持ちの金額はざっくり4万程度。沼地をスムーズに移動するための足装備についてはリリアの方で人数分用意できると連絡があった。
そのために予算を残す必要がないことは確認済みだが、どうしたもんかな。
彼女が後衛になる都合上、被弾する頻度は最も低くなるはずだが備えるに越したことはない。
事実、前回の沼探索では背後から奇襲されて危機に瀕したばかりだ。
あれは濃霧で周囲の視界が悪かったという前提もあったが、それに限らず不測の事態というのは常に起きるものだ。
「そこの棚のやつ、それがオートマタ用の回復アイテムだぜ」
「これか。『応急修理材』。ひとつ5000ギルは高いな……」
「だろー? 私も参ってるんだよなぁ、おかげでおちおち冒険もできないぜ」
後頭部に手を組んで呟くカノンの声色には、不安と苦労が滲んでいる。
ああ、わかるよその気持ち。俺も手軽に回復が出来ない身の上でな……。
エトナと出会えてなかったら俺も冒険に出られなくて困っていたわけだし。
金策ができないと身動きが取れなくなるオートマタも中々に世知辛そうだ。
オートマタなら外装パーツも買い集めたいだろうに、資金の扱いがカツカツの難しい種族だな。
さて、オートマタ用と回復アイテムとやらの見た目はやや大きめの瓶。とろみのあるねずみ色の液体が満ちている。
オートマタに使えるんなら俺にぶっかけたら鎧修復したりしないかな。無理か、オートマタ用だって言ってるもんな。
にしても俺の全財産を投じも購入できるのは8つか。8つを過剰と思うか、不安と思うかは人に依って別れるところだが……。
俺としては正直なところ8つは過剰だと思う。カノンは後衛だし頻繁にダメージを食らうような立ち位置にはない。
沼の攻略に限って考えれば、3つ。多くとも5つ程度で十分なのではないか。
と、最初はそう思っていたのだが、ふと気づいた。
リリアと女王蜂の頼みを聞いて沼の奥地を探索するのが現状の目的だ。それには8つという数は過剰かもしれない。
しかし俺にはその後も湿地エリア全域の探索という第二の目標があるのだ。
マップを埋めればドーリスからマップ代として更なる情報料がもらえる。
このマップ埋めという行為が、ぶっちゃけるとかなり大変なのだ。時間もかかるし敵と遭遇する回数も多い。
地下水道のマップ埋めが容易に行えたのも同行してくれたシーラの後方射撃が心強かったからこそできたことだ。
湿地探索にリリアが手伝ってくれるかは不明だが、契約を結んだカノンは必ず同行してくれる。
沼地攻略と毒霧の根絶。しかるのちの湿地全域探索。
説明を聞いた限りでは、時間経過で投擲アイテムを生成できるカノンの性質は探索や長期戦に強い。
この二つの目的のために彼女を連れまわすことを思えば、全財産を叩いて回復アイテムを購入する価値はあるだろう。
俺はそう結論づけ、棚から8つの修復材を手に取った。
「マジかよ、8個も!? 私が言うのもなんだがいいのか?」
「おう。使えるものは何でも使う主義でな。長い付き合いになるぞ」
赤ずきんの少女は俺の選択に驚いた様子だった。なんだかんだで俺がもっとお金を節約すると思っていたのだろう。
しかし俺が考えも無くアイテムを買い込んだわけではないことを察し、びしっと俺を指さした。
「……さてはお前、私のこと相当酷使する気だな!」
「ハッハッハ! 大枚はたいた分の仕事はしてもらうぞ!」
ぶっちゃけ期待しているからな、この赤ずきんには。
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