第20話 地下水道、再攻略
「前と同じところまで来れたな」
「邪魔さえ入らなければ、苦戦も特にしませんしね」
土偶のシーラと再集合し、俺たちは再び地下水道を攻略していた。
俺がエトナのところで準備を行っている間シーラを待たせる形になってしまったが、彼女は彼女でやることがあったようだ。
具体的には、この地下水道で見聞きしたものを【生きペディア】の保管するための編纂作業があったらしい。
熱心なことだ。ドーリスにも思ったことが、プレイヤーが違えばゲームの楽しみ方のまた異なる。
同じゲームを遊ぶにしても、どこに楽しみを見出すかは人次第ということらしい。まさに十人十色というやつだな。
「ここから先は、もう事前情報なしだ」
「ダンジョンの中層になりますか」
「濁り水も増えてきた。敵の顔ぶれも変わってくるかもしれん」
「今の所は雑魚ばかりですけれど」
言いながらシーラが濁り水を蒸発させる。
すごく手際が良い。苦戦要素無しだ。
この分なら濁り水が他のモンスターとセットで来ても対応可能だろうな。
「先も対処しやすい相手であればいいんだが」
後から遅れて駆けつけてきたヒトネズミに飛び蹴りをかまして撃破。
現状、負ける要素はない。
「アリマさんも属性攻撃の手段を用意できたということですし、何とかなると思いますわ」
エトナに用意してもらった刃薬の存在は、シーラとも共有してある。
だが刃薬はあくまで保険として扱い、液体系の対処はシーラに任せることにしてある。
刃薬は有限のリソースだからな、温存させてほしいと頼んだ。
せっかくエトナに作ってもらったとはいえ、必要に迫られない限りは使わん。
「おや。早速新手ですわ、アリマさん」
とかなんとか言ってたらさっそく新種のモンスター出現。
ヒョロっと長くてトゲトゲしたデザインの、灰色をした騎士の石像。
だが妙に動きが鈍臭く、直立の姿勢がゆっくりと歩みを進めてきていた。
「とりあえず照射ですわ~」
様子見も兼ねてシーラがビームを発射。
騎士の石像は避ける素振りすらなく、無抵抗のまま熱線を受けた。
「ううん。ダメージの通りが悪いですわ」
「今度は特殊攻撃耐性か?」
熱線を突き刺すことしばらく。石像は表面に焦げが付いた程度で、ちっとも効いた様子がなかった。
向こうの動きが遅いから間合いを取り続けてひたすらビームは撃てるだろうが、これじゃ拉致が明かないな。
「とりあえず蹴ってみる」
「お願いいたしますわ」
シーラの了承を得てから石像に飛び蹴り。
石の体はさっきまでが嘘のように爆砕、すぐにポリゴンに変わった。
「おや。さしずめ物理が弱点といったところでしょうか」
「濁り水とは逆のパターンか」
「わたくし一人だとここまで限界でしたわね」
豊富な攻撃手段か、パーティ編成。どちらかを用意しないと攻略が困難なダンジョンということらしい。
俺たちは忘れがちだが前半の疫病持ちたちの事を考えれば、生身の体を持つプレイヤーたちは遠距離攻撃も必要か。
最初の街、大鐘楼からの最寄りダンジョンというには癖が強い。いや、だからこそなのか。
一人じゃしんどくとも、種族という特色を持つプレイヤーたちで協力すれば進めやすい。そういうダンジョンの構造になってる。
俺とシーラが序盤の近接お断り地帯を無機物の体で無視できてしまったせいで気づくのが遅れたな。
その後も出るわ出るわ新エネミー。
より固く素早くなった三つ目コウモリ、長槍で間合いを埋めてくる騎士の石像、水量の増えた濁り水。
明確に対策出来てないまま先に進もうとするプレイヤーはここで死ねと言わんばかりの面子。
だが、俺とシーラなら全て対応できる。
こいつらの特徴はもう一つあり、対処が可能であればほとんど無力な雑魚にすぎないということだ。
マップの構造もそうだ。一本の通路が続く地下水道は戦いやすく撤退しやすい。
勝てない敵と遭遇したら引けるし、事前に視認もできる。
このダンジョンはきちんと初心者がこのゲームを学べるような構造になっていた。
知らずにぶちあたった当初は不条理に感じるのに、乗り越えてから見つめ直すと意図がよく考えられていたと分かる。
これは確かにトカマク社のゲームの特徴だ。
その後も苦戦することなくダンジョンの地図を埋め、モンスター図鑑の内容も充実させていく。
そして、俺たちは深部といえる領域まで踏み込んだ。
地下水道の最奥。ずしりと重厚な鉄扉を、側のクランクを回してゆっくり持ち上げていく。
さりげにこの扉も、人型じゃなかったら開けるの苦労しただろうな……。
扉の奥は、大型のポンプが上下する大広間。あちこちに巨大なパイプが張り巡らされている。
この感じ、要するに。
「ボスエリアだな」
血が滾るな。
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