1.見知らぬ人間

*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー




瞼が重い。



 うっ…!頭が…痛いっ……!一体何がどうなっているっ……



「うぅ……」


「お嬢様!お目覚めになられましたか!?」


 (は?お、お嬢様……?)



「今すぐ旦那様にお知らせしないと!」


メイド服を着た人族の女が、バタバタと足音を立てながら何やら大慌てで部屋を去って行った。


 (なんだ……?)


と、思ったすぐ、今度は大声で叫びながらこちらへ向かってくる複数の足音。


 (二人…いや、三人だな)


「シャルロッテ!!!!」


バンッと激しく今にも扉を蹴破りそうな勢いで二人の男女が扉を開けて入ってきた。その後ろを少し遅れて一人の少年が入ってくる。


「シャルロッテ!大丈夫なのか⁉︎どこか辛くないか⁉︎本当に心配だったんだぞっ!ああよかった、私の愛しいシャルロッテ……!」


最初に入ってきた男に肩を掴まれガクガクとゆらされ抱きしめられ、矢継ぎ早に聞かれた。


 (シャルロッテ?いったい誰のことだ?)


「あなたっ、シャルロッテは病み上がりなのですからそういった行動は謹んでください。シャルロッテ、もう大丈夫なの?あなたが高熱で倒れたと聞いたときはどれほど心配したことか。もう何日も目を覚さなかったのよ」


身に覚えのない呼び名、異様に距離が近い人族の男女。 


 (これは何かの罠かもしれないな。警戒を怠ることは許されない状況のようだ)


「お前たちは誰だ」


 (決して目を逸らしてはいけないな。相手から目を逸らせば自ら負けを認めたことと等しい。自分の弱点は絶対に見せない。常に前を向き、相手に屈しない姿勢を見せなければ……)


相手を見極めるため、鋭い視線を向ける。


途端、息を飲む音が聞こえた。


男の方は顔が真っ青になり、女の方は今すぐにでも倒れてしまいそうな顔色だ。


 (なんだ?私をここに連れてきたのはお前たちだろう?どうしてそのような顔をする……)


目の前にいる男女と少年から集中を逸らさず、さりげなく今いる部屋を見回す。

今自分がいるのは、魔王城の自分の部屋と趣向はかなり違うが比較的豪華と言えるであろう部屋。

周りに人間がいることを見ると、ここは魔界ではないのだろう。かと言って人間の敵である魔族、しかもそのトップである魔王を匿う理由はないはずだ。


 (いったい何が目的だ?魔族領の資源か?それとも魔王である私を人質にとり、我が国を脅すつもりか?)


「あなたっ!すぐにお医者様を呼んでください!早く!」


女が血相を変えて叫んだ。隣にいる男もすぐに同意し、辺りが先ほどの何倍もうるさくなった。


 (何が起こっているのかはわからないが、今が敵の状況を知るチャンスだな)


耳をすまし、いつものように身体中に満ちる魔力を精錬し、魔法を発動……




 (できない!?一体どういうことだっ!禁忌の魔封じの魔具か!?くそ……いつの間に人族がそんなものをっ……)


ヴァレリアが知る限り、着用したものの魔力を無効化し魔法の類を一切使えなくする魔封じの魔具は、首につけるタイプか腕につけるタイプの二種類しかない。


 (何とかして魔界と連絡を取らなければ……)


まだ重い体を起こし、首元に手をやる。


 (首元にはない、か。だとすれば手首のほ……う……?)


自身の手元に目線を落とすと、見慣れない手首が映る。


 (は……?)


具体的に言うならばそう、



「こ……ども……」



そう、子供である。

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