赤色のパーカー

黒木裕一

赤色のパーカー

私には色が認識できない。

病院の先生は「白黒写真のように見えている」と言っていた。

診察室の椅子は少し高くて、足をぶらぶらさせて遊んでいる。

幼かった私はどこか他人事だった。


テレビで見る宝石は、形のいいただの石に見える。

あたたかいココアも、私にはコーヒーと区別がつかない。

山を見ても、川を見ても、私には美しさを感じられない

そうして姿見に映る私は、精気がない。

なんとなく宙ぶらりんに息をしている。

大人になった私も変わらず他人事だ。


ただ、空に輝く星だけは綺麗で、彩のない私の世界にも鮮やかに映る。

星を眺めているときだけは、私も生きていると思える。

姿見に映る背中は、赤色のパーカーを羽織っていた。

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赤色のパーカー 黒木裕一 @yuuichi_write

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