サナギの国の少女

水街ミト

アルプトラムⅠ ―夢見ぬ少女―

〘お前ハ又■■ノ夢ヲ見てイルナ?〙

 

 遥か■残響とノイズが次■に収まっ■■く■



「君は夢を見なくちゃいけないんだ」


「なんで?」

 くりりとした無垢な目がこちらを振り返る。

「……そういう、決まりだから」


「ふーん」

 彼女は納得なさげに歩を進める。

 一面、闇に塗りつぶされた奥底のない空間で、彼女の小さな歩幅が黒い水面に波紋を広げていく。



〘■■■■■■■ ■■■■■■■■■■〙



「じゃあ私と手を繋いでるのは?」

 僕の左手には、まだ幼く小さな手が不釣り合いに握られていた。

「君を見失わないため」

 言葉にすると無意識に握る手に力が入る。ないとは思うが逃げられても困るので。


「本当は真っ暗なのが怖いんじゃない?」

 僕をおどかそうとしているのか、彼女はすこし笑いながら、なぜか嬉しそうに言う。

 たしかに彼女の世界は闇一色だ。他のものにはみられない、何もない夢。

「怖くないよ。僕は……■■■だから」

「本当かなぁ」

 そう言ってまた彼女は僕の顔を悪戯っぽく覗きこんでくる。


「君は怖くないの?」

 得体の知れない化け物と二人きり。不安にならないはずがない。

 しかし僕の問いが意外だったのか、少女は少し驚いたようにこちらを見返す。


 それから彼女は顔を隠すように「少しね…」と答えたものの、顎に小さな手を当て 考え込んでしまう。


「ううん。やっぱり こわくない」

 ふと足元の波紋が止まった。

 彼女が突然に立ち止まったのでバランスを崩しかける。どうしたのか とこちらも歩みを止め、前を歩く彼女を見る。

 くるりとターンして丸い目がこちらを見据える。


「こわいけど………あなたが来てくれた」

 手、うれしいと、握られたふたつの手をあげてみせ、彼女はうららかな笑顔を向けてくる。


 怖いけど嬉しい……か。〘■■■か?〙やはり、人間というのは変な演算機を持っているのだなと、遠く続く闇をみつめながらそう思った。

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