第2話 少女



 無作為に選んだ人間に、ループの力を与える。


 神である自分には、それくらいたやすい事だった。


 今までにもそれらしい事はしてきた。


 この世ならざる力を授け、その後の経過を見つめてきた。


 人の物語は、その都度さまざまな側面をみせてきた。


 破滅する事もあれば、それを活かし幸せになる事も。


 多くの人を巻き込む事もあれば、ひっそりと隠し続けている事も。


 それらの物語は千差万別。 


 様々な形と色を見せてきた。


 だから、神は見たくなった。


 自分をもまきこむ力を人に、与えてみたくなった。


 小さな命でしか過ぎない人間が、神をも世界をも翻弄する力を持ったた時、何を見せてくれるのか。


 それはささやかな気まぐれ。


 退屈しのぎも思い付きの、ほんのいったん。


 ほんのささやかな、悪戯心。


 けれどそれが想像以上の苦痛になる事は、知らずに。


 神が選んだ人間は、繰り返しの力を得て、無意識に日々をループさせていった。


 代わり映えのない世界は、神も飽く世界。


 既知ばかりの世界は、未知を渇望する世界。


 しかし、うんざりしつつも神はその力を止める事ができない。


 力は人間の物で、神のものではないからだ。


 神がその人間を消し飛ばし、力を止める事はできるだろう。


 しかし、それはあまりにも勝手すぎる道理というもの。


 万能を統べる神は、道理の通らぬ行いを嫌う。


 全ての命の頂に立つゆえに、もっとも厳格なルールを己に定めていた。


 人の力に翻弄される神は、やがて狂い、世界の終わりを望む事になる。


 神の身で道理の通らぬ行いができないのなら、神である事をやめてしまおうと考えた。


 そうして、人の世界に降り立ったそれは、しかし想像以上の負荷を受けたため、記憶を失っていた。


 少女になり果てた神は、純粋な心で既知ばかりの世界の未知を楽しんだ。


 不便さが、刺激となる。


 弱々しさが、儚さが、救いとなる。


 そして神は出会った。


 自分を狂わせたその存在に。


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ループ世界で過ごし続ける少年少女の話 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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