第146話 勇者パーティー、魔王に助けられる

146.勇者パーティー、魔王に助けられる


(前回の続きです)



~勇者ビビア視点~


「お、おい、あれはもしかして……」


「あ、ああ。魔王だ。手配書で見たことがある」


「あろうことか、勇者が魔王に助けられたってのか。あのクソ勇者は……。どこまで人類の恥をさらすんだ」


そんな声を兵士たちから聞かされて、改めて屈辱と恥辱で頭を思わずかきむしる。


そして、


「ぐぎ、ぐぎぎぎっぎぎぎぎぎぎっぎいぎっぎいいいいいいいいいいいい!」


悔しさの余り、歯ぎしりと怨嗟の絶叫を上げてしまうのであった。


「よ、余計なことをすんじゃねえ!!! クソ魔王!! 俺たちにかかれば、こんな雑魚どもを一掃するくらい訳ねーんだよ!!! なぁ、お前ら」


「も、もちろんですわ!(せっかく評価が上がりかけていたのに台無しにするわけには!)」


「よ、余裕に決まってるっしょ!(またあたしをチヤホヤする未来をゲットしなくちゃじゃん!)」


「お、俺の鋼の体ならば、鎌の方が砕け散っていた可能性は高いだろうな!(また俺の筋肉が一番だと王都で証明せねばならん!!)」


デリアたちも、やはり俺と同意見のようだ。


そう。


そうだよ。


「俺たち英雄たる勇者パーティーが魔族どもなんかに負けるはずがあるわけっ……!」


「ちょっと! 他の魔族の攻撃が来ます! 危ないです!!」


「「「「ひいいいいいいいい! 嫌だ! 死にたくないぁぁあああああああああ!?!?!??!」」」」


俺がかっこよく宣言をぶちかまそうとしたところで、またしてもティリスの警告の声が響く。


さきほど命を奪われそうになったトラウマのせいで、俺たち勇者パーティー四人は思わずしょんべんをちびりながら頭を抱えて、その場で腰を抜かした。


すると、


「ええい、もう。世話のかかる奴らなのだ! 雑魚は下がってるのだ。この魔王のあてぃしに任せておけ! なのだ!!!! はあああああああああああああああ!!!」


ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


『ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ』


その圧倒的な魔力によって、前方の魔族どもを完全に塵へと還す。


俺たちのように中途半端でない圧倒的な力の奔流は、不死という概念そのものを破壊した。


だが、魔王は喜ばず、むしろ儚い瞳を空へと向け、


「すまぬのだ、同胞たちよ。だが、この不死の術は一度死した者を操る下法なのだ。この魔王のかいなの中で安らかに眠るのだ」


そう言って、儚い様子で塵となり舞い上がる同胞たちを見上げた。


その様子を見て、後ろからは、


「す、すごいぞ、さすが魔王だ……」


「あ、ああ。勇者だか何だか知らないが、あんなクソ野郎たちよりよほど強い……」


「あれが魔族の頂点。魔族の王の力……。それに決して強いだけじゃなに。慈悲深さすら持ち合わせている」


「敵ながら天晴と言わざるを得ない。さすが魔王、あれが俺たちが倒さないといけない敵なのか。それに比べて……」


「ああ、それに比べて、人類の切り札があんなクソ勇者だなんて……絶望しかないじゃないか……」


「一度どころか、二度も助けられて……」


クソ兵士どもが、魔王をあたかも称賛し、逆に俺たちをクソ呼ばわりしているのが聞こえて来た。


一気に人間どもの士気がゼロになったのが分かる。


(くそが! くそが! くそが! くそが! あのクソ兵士どもを一人残らずボコってやりてえ)


だが、事実として、


「二度も助けられるなんて! くそ、くそ、じぐしょおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


またしても魔王に命を救われた。


しかも、その上、まだ残る恐怖で腰を抜かして立てない俺たちが、今何を言っても説得力がないことだけは分かった。


クソ兵士どもの俺たちへの罵倒を聞き続けないといけない状況と屈辱。


何より魔王に助けられてしょんべんをちびっている俺たちは、この恥辱の状況に顔を真っ赤にし、歯ぎしりをしながら悔しがることしかできなかったのである。


とはいえ、


「魔族軍の第1波としてはこれで終わりなのだ? えーっと、確かティリス? だったのだ?」


「あっ、はいそうですよ。どうやら向こうもあなたの登場により、一旦兵を引いたようですね」


「勇者はしばらく再起不能だと思うのだ。心が折れた戦士は毛虫ほども役には立たぬのだ。なので、一旦後ろの救護施設に連れて行って休ませるとよいのだ」


「お気遣い感謝します、魔王さん」


魔王にいたわられる。


後ろで聞いていた兵士たちが、もはや憐れみの目で、魔王にいたわられる俺たちを見下ろしていた。


そのことについても、俺は悔しさの余り血が滴り落ちるほどに更に歯噛みする。


だが、魔王は少し怪訝な表情を浮かべて、ティリスに言葉をかけた。


「なぁティリス。お前、あたしとどこかで会ったことはないのだ?」


「はい? どういう意味ですか? オールティ村では時折お会いしていたと思いますが……」


「うーん、違うのだ。もっともっと。昔昔なのだ。あてぃしがまだ魔王ではなかった頃、どこかで……」


だが、そんな二人の会話の最中に、それは起こったのである。


『どういうつもりだ? 魔王リスキス・エルゲージメントよ?』


どこからともなく、不気味な、しわがれ声が戦場に響いたのだった。

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