第69話 ~VS.モンスター・ビビア・ハルノア その④ 勇者 対 勇者パーティー 悲しき戦い その2~

69.~VS.モンスター・ビビア・ハルノア その④ 勇者 対 勇者パーティー 悲しき戦い その2~





雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせに雑魚のくせにぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!


俺はエルガーにひっくり返されたまま、触手を振り乱した! 


いら立ちを抑えきれないいいいい!


金魚のフンごときが俺に逆らいやがったのだ! 


あっていいはずがない! 


(そうだ、これは現実じゃなぃぃいいい!)


たまたまだ! 偶然だ! 


いかに支援スキルがあったとしても、神たる俺がエルガーなんかに打ち負けるはずがねえんだ!!!


「うんぎょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


ちくしょうちくしょうちくしょうっ……! まぐれとは言え、この神たる俺に土をつけるなんてぇっ……!!!


「ゼッ"タ"イ"に"ユ"ル"さ"ん"ぞ"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"!!!!!!」


エルガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


だが、そんな俺の咆哮をまるで意に介さず、涼やかな女の声が、耳元で聞こえたのである。


「いつまで寝ているのかしら、化け物さん?」


「ぐげぎょ!?!?!?」


俺は狼狽する。その声は――!


「デリ"ア"□―――■□!?」


そんな俺のうめき声に、真横でデリアは余裕な様子で微笑みすらたたえている。


(馬鹿な! いつの間に!?!?)


俺は内心で更に驚愕する。


なぜなら、


(わざわざ、ダウンしている俺に近づけないように、めちゃくちゃに触手をぶん回していたんだぞ!!!)


触れれば即死級の威力を誇るこの嵐のような攻撃をかいくぐって、俺に近づける存在などいるはずがねえんだ!!!


(特にテメエみたいな、俺の金魚のフンごときが、余裕のある声で、俺に話しかけることなんて出来る訳がなっ……!!!)


だが、そんな俺の内心の悲鳴をさえぎるかのように、遠くからブツブツと、腹立たしい声が耳に届く。


「≪回避付与≫」


「≪神速付与≫」


「≪巨大モンスター必滅≫」


「≪クリティカル威力アップ≫」


「≪星属性強化≫」


「≪火属性強化≫」


「≪魔法威力アップ≫」


「≪詠唱レベルアップ≫……」


この声は……っ!


「ア"リ"ア"ゲ・ミ"ハ"っ……!」


忌々しい男の名を叫ぼうとするが、


「よそ見してる余裕はありませんわよ! 化け物! はぁ!!!」


ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


「ん"ぎい"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"!?!?!」


俺は横面を思い切り張り倒される!


だが、それはパンチなどという生易なまやさしいレベルのものではない! 


顔面で魔法を爆発させたようなすさまじい衝撃だった!


その威力に俺は一瞬意識を飛ばしそうになる。


「な"ん"だ、こ"の"い"り"ょ"く"は"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」


デリアはこんなに強くなかったはずだ! 


雑魚のはずだ! 


神たる俺にダメージを与えられるような強さはないはずだ!!


なのに、


「あら、化け物さん、今のはただのウォーミングアップですわよ?」


「は”?????」


(ウォ、ウォーミングアップ!?)


するとデリアは俺の内心が読めるかのように微笑むと、


「あらあら、何を驚いているのかしら? ……行きますわよ?」


俺は間近で凝集する魔力の威力に本能的な危機を感じる。


(ひ、ひいいいい!? つ、強すぎる……、ど、どうしてっ……。い、いや、んなことより、は、はやく逃げねえとっ……!)


俺はジタバタともがく。その一方でデリアの異名を思い出していた。


俺たち勇者パーティーの中にあって、あらゆる難敵をいとも簡単に打ち砕く、神より授けられた唯一無二のギフト持ち。


勇者パーティーに貫けぬ敵はなしと、大陸中にその名を轟かせた神の拳。


その名はっ……!


「喰らいなさい! ≪祝福された拳≫極拳! ≪火流星の渦メテオ・シュトローム≫!!」


防御無効というあり得ないユニーク・スキルから繰り出されるのは、星が降り注ぐインパクトを直接体内に送り込むというデリアのみが使える必殺の一撃!


S級ゴーレムさえ一撃で粉砕し、魔王すら恐れさせたと言われた究極の一!


その衝撃が今、俺の体内を駆け巡った!


「ん"ぎあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!? お、おげえ"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"!?!?!?!?!」


俺はダウンした状態から、軽々と空高く殴りとばされた!


いでえ!?


いだずぎるううぅうぅうぅぅうぅううううう!?!?


さっきの攻撃の比ではない。


この数百トンに及ぶ巨体が楽々と打ち上げられてしまうほどの圧倒的な威力!


「す、すごいわ……」


「あれが、『無敵』の異名を持つ女拳闘士デリアの実力なのねっ……!」


観客たちの歓声が聞こえた。


ぐ……。


ぐっ……。


ぐや"し"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"!


ぐやじいし、いでえええええええええええええええええええええ!!!!


俺は吹き飛ばされながらも、憎しみにあえぐ!


あり得ないあり得ないあり得ないいいいい!


雑魚なんだ!


金魚のフンなんだ!!


そんな奴が主人の俺にこんな仕打ちをしていいはずがねえ!


(あああああああああ…………)


だが、体内に直接叩き込まれた流星の衝撃に、俺は悲鳴を上げ続ける。


あまりの痛さに絶叫し、気を失わないようにするだけで精いっぱいだ。


しかし、


「あは♪ 空に舞い上がる化け物。い~いまとじゃん♬」


彼女たち・・・・の攻撃は、まだ済んではいなかった。






(その舐め腐った口調はプララかっ……!)


この俺様が『まと』だとおおおおお!?!?


空中で苦痛と屈辱に身もだえ、打ち震える。


今頃プララは真下で俺に攻撃魔法を撃とうと詠唱を始めているってところか!


だが、


(なんだ、それなら、安心じゃねえかあ)


ニチャリと、俺は逆に冷静になって、テラテラとした唇を歪めた。


(プララごときヘボ魔法使いが俺に何が出来るってんだ! ぐげげげげげげげげげげええええ)


俺は痛みにさいなまれながらも、笑いをこらえることが出来ない。


エルガーが俺の攻撃を防ぐことが出来たのも、デリアが俺に攻撃することが出来たのも、ひとえに偶々たまたま俺との相性が良かったからに過ぎない。


エルガーは物理攻撃に対して変人じみた防御力を誇るし、デリアは俺の無敵の防御を無効化しやがる!


だが、もちろんそれは偶然だ! 


あいつらにとって運が良すぎた! 俺にとっては運が悪すぎた! それだけのことに過ぎねえ!!


絶対に次はねえ!


エルガーに対しては、魔法攻撃か特殊攻撃をすれば終わりだぁ……。


デリアには遠距離攻撃で近づけないようにすれば良いだけなんだからなぁ……。


そうだ、俺は全然負けてねえ!


むしろ勝ってる! 雑魚どもの攻略法を確認したんだ! 必要な手順だったって訳だ!!! お前らはもう終わりだ! 終わり! ジ・エンドオオオオオオオオオオ!


(だが、プララ! てめえはダメだ! それ以前の問題だ! なぜなら、なぜならぁ!)


てめえにはそんな偶然の相性の良さすらねえからだよお!


(ギョギョギョギョギョギョギョオオオオオオオオオオオオオオ!!!!)


そう、それが俺の余裕の理由だ!


完全に論理的な帰結!


奴はただのヘボ魔法使いに過ぎない!


デリアのようなユニーク・スキルがない限り、俺の分厚い皮膚を通してダメージを与えることはまず無理!


だから、


「ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ム"リ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」


俺は、無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理! と高笑いとともに絶叫する。


待っていろよ雑魚どもがああああ。


俺が地面に降りた時がてめえらの最期だ! 首を洗って待って……!


だが、そんな俺の喜悦の叫びを遮るかのように、


召喚サモンサラマンダー、発現ウィザード完全憑依炎陣術式エクスハラティオ・オメガ……」


プララの詠唱が俺の耳に届いたのである。





(完全憑依術式だとおおおおおおおおおお!?)


俺は慌てる。


その魔法はプララの魔力量1万という規格外のキャパシティーをもって可能とする唯一無二の術式!


召喚によって招来した精霊を、あろうことか体内に完全に取り込み、その力を自在に操るという反則技だ!


普通の人間には精霊を体内に受け入れるような魔力キャパシティーがないから、部分的に憑依させるだけでも、神経がズタズタになって死んでしまう。


だが、プララはその『魔王に勝るとも劣らない』と言われる魔力量によって、その常識外の術式を操ることが出来る!


(最近は使えねえって言ってたはずなのにっ……! どうしてっ……!?)


いや、んなことは考えてても仕方ねえ。


(そ、それに、あれほどの高位魔術なら、発動まで時間がかかるはずだ! 発動までにぶっ殺してやればいいだけっ……!)


俺はそう思うが、


接続リンキング! 完了!スケール! もう撃てるよ!!」


(あれほどの高位魔術なのに≪詠唱破棄≫だとおおおおおおおお!?)


俺は空中でジタバタと四肢を振り回す。


触手を出来るだけ地面のほうに向けて盾にしようとあがく!


大地に。プララに。恐るべき火の精霊たちの加護が宿るのを感じる。太陽よりもなお濃い、濃縮された魔力マナの凝集を感じる。


(ああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?)


死にたくない!


死にたくない!


死にたくないっ……!


誰かたすけっ……!


「いけ、プララ! 哀れな化け物をあの世に送ってやれ!」


エルガー!?


「ええ、あれはもう勇者じゃない。ひと思いにやってあげて!」


デリア!?


て、てめえええらああああああああああああああっ…………!


「分かった……バイバイじゃん、勇者。今まで楽しかったよ。……最後は笑顔でサヨナラじゃん!」


プララアアアアアアアアアアアア!!!


キュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!


魔力が集中しすぎて空間を震わせるような異音がとどろいた。


「喰らうじゃん、化け物!」


「じ、じにだく"な"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"い"!!!」


俺は絶叫した。


だが、無慈悲にもプララから最大級の魔術が放たれる!


世界崩壊アザエル・狂熱地獄インフェルノ!!!」


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!?!?!?」


焼ける!


燃える!


無敵の装甲をも貫くほどの熱線! 俺の体が内部からぐつぐつと煮立つ!


熱い! 熱い!


(あづいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。あああああああああああああああああああああああ!?!?!?)


神たる俺が卑しい雑魚どもなんかに、こんな目にあわされるなんてええええええ!!!!!


ちくしょう……。


ちくしょう……。


俺は薄らいでいく意識とともに、


「この無敵のデリア・マフィーの『祝福の拳』の前に立ちふさがる者は、すべて粉砕される運命さだめと知りなさい!」


「同じく魔王を超える女、プララ・リフレムの魔術の前で、モンスターが闊歩することなんて許されないってね♪」


その名乗りに、


「わあ! すごいぞ!」


「化け物を倒してくれた!」


「助かった、俺たちは助かったんだ!」


そんな歓声が上がる、そして、


「さすがアリアケ・ミハマ大賢者様が率いるパーティーだ!」


「本当にそうだ! 勇者が率いていたころは全くダメだったパーティーメンバーすら、真なる賢者、アリアケ・ミハマ様がバックアップすれば、こんなにすごくなるんだからなぁ! いや、本当にアリアケ様はすごい! それに比べて……」


「ああ! 本当に勇者はダメだ! アリアケ様の爪の垢を煎じて飲むべきだよ!」


そんな大衆たちのアリアケへの絶賛の声が響くのと同時に、対照的に、あろうことかこの俺へは、侮蔑の合唱が沸き起こったのであった。

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