第59話 御前試合 その③ ~勇者の仇をうつべく立ち上がる仲間たち デリア編~

59.御前試合 その③ ~勇者の仇をうつべく立ち上がる仲間たち デリア編~






~デリア視点~


「「「なっ⁉」」」


私とエルガー、そしてプララは思わず驚きの声を上げる。


勇者の切り札である煉獄打突武神剣オーロラ・バーストエンドが防がれたばかりか、反撃の一撃を食らい、ダウンしたからだ。


たちまち、私は「不味いことになった」と舌打ちをする。


今日勝利することを前提に、宝石や服をツケで買いこんでいるのだ。


このままでは借金でクビが回らなくなるじゃない!


思わずギリギリと唇をかみしめる。


(……でも、焦るほどのことではないわよねぇ)


私はゲロを吐く勇者から距離を取りつつ、冷静さを取り戻す。


噛んでしまった唇をなめてから、ニヤリとほくそ笑んだ。


(なぜなら、私がラッカライごときに負けるなんてあり得ないから)


その正鵠を射た考えにますます唇を歪める。


(だって、私にはこれがあるんだものねえ)


拳に魔力を込めた。


すると美しい青白い炎で燃え上がる。


ユニーク・スキル『祝福された拳』だ。


神をも貫くと讃えられた特別な才能。その姿にウットリとする。


あらゆる防御を貫通するこの防御不可攻撃スキルによって、私は無敵のファイターという名声を得ているのだ。


(確かに、勇者は攻撃力も高いし、剣戟も早かった。……だけど、私のようにいかなる防御をも打ち崩すユニーク・スキルは持っていなかった。ラッカライの行動はあくまで『後の先』。さっきだって、勇者の攻撃を待ってから、攻撃に転じていた)


つまり、


(あなたの天敵は私と言う事ねえ、ラッカライぃ。ふ、ふ、ふ、ふ。防げない攻撃にどう対応するのかしらぁ⁉ いいえ、あなたは対応できない! 私の攻撃を防いだ時があなたが無様に敗北する時なのよ!)


勝利の確信に、私は思わず陶然となる。


し・か・も・だ!


私はますます喜悦をかみしめた。


勇者が倒せなかった相手を私が倒すのだ! この王族や大衆が見守る晴れ舞台で! それがどういう意味を持つのか?


(決まっていますわ!)


ラッカライ何ていう、私にとってカモ! 雑魚! アリンコを潰すだけで、私は、勇者以上の繁栄と名声を得ることが出来るのよ!


(今まで私はNo.2の座に甘んじて来たっ……!)


確かにビビアは聖剣に選ばれた勇者で、強さも段違いだった。


でも、それはある意味、誤った認識だったのだ。


私はゲロを吐き、天へ絶叫を上げている勇者を、横目で見て哀れに思いつつ確信する。


(勇者パーティーがピンチのこんな時にこそ、窮地を救える英雄。勇者が勝てないような敵を華麗に倒す私という存在こそが、この勇者パーティー最強の存在だったと言う訳ですわ)


勇者が倒れた今こそ、No.1になるチャンスなのだわ!


そうすれば、私はもっとチヤホヤされるし、もっと宝石や服やこびへつらう人間が集まって来るに違いない!


しかもそれは、ラッカライ何ていう雑魚を倒すだけでやすやすと手に入るのよ!


(ふ、ふふふ、ふふふふふふふふふ)


「おーっほっほっほっほっほっほっほ! ローレライは体調が悪いから私と交代よ! 審判!」


私はもはや高ぶる感情を抑えることが出来ず、哄笑しながら、ラッカライへと拳を振り上げ突っ込んでいく。


審判の返事を待つこともしない。なぜなら、すでに審判はワルダーク宰相を通じて買収済みだから!


(いいえ! 何より! 確定した勝利を、私の約束された栄光を、これ以上待ってはいられない!)


今すぐ、私はこの大陸でもっとも偉大な英雄になって、あらゆる富を手に入れるのよ!


「私のために無様に敗北するがいいわ、ラッカライ! おーっほっほっほっほっほっほっほ! 雑魚のあなたには相応しい役割だわ!」


そう唇を歪めて叫びながら、私は『祝福された拳』で殴りかかっていく!


だけど、次の瞬間、


爆雷ソイル……」


「……へ?」


「……重力落としランサー‼」


ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ‼


「はぁ⁉ 何のよ、これはぁ!」


私は地面から突然巨大な土の槍が生える光景に思わず驚く。


でも、


「ふ、ふふふふふふふふ! あーっはっはっはっは、残念だったわねえ! あなたの使うこーんなヘボ技じゃぁ、私は倒せなかったみたいよ! おーっほっほっほっほ!」


その土の槍は私にダメージを与えることに失敗していた。ぎりぎり私の身体を貫けず、目の前に隆起した状態で静止している。


恐らく切り札用の攻撃だったのね。


「無様ね! 哀れね! さあ、待っていなさい、ラッカライっ。今すぐあなたをボコボコにして差し上げますからね!」


私が唇を厭らしく歪めながら、目の前の邪魔な土の槍を拳で殴り破壊する。


この程度の攻撃で私を倒せると思ったの?


片腹痛いですわ!


と、その時、


「いえ、哀れなのは、デリアさん、あなたの方ですよ?」


「え」


どうして耳元でラッカライの声が聞こえるのだろう。そう思った瞬間、


「聖槍スキル! 蛟竜衝こうりゅうしょう!」


バキイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!


「⁉ ひんぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉」


私はいつの間にか宙を舞っていた。


気付けば、ラッカライの魔力を伴った強力な聖槍の一撃を顎でモロに受けて吹っ飛ばされていたのだ。


そして、高く高く天を舞った私は、


ドオオオオオオオオオオオオン!


「ああああああああああああああああああああああああ⁉」


悲鳴と共に大地へと落下したのだった。


せっかく昨日セットした髪やお肌はボロボロになり、ネイルは割れて台無しになっている。


いや、そんなことより、何よりも、


「うぐ、お、おええええええええええええええええええええええええええええええええええ……」


顎を殴られたことによる嘔吐感から、美しく可憐なる私が、あろうことか衆人環視の中、勇者と同じように胃の中のものをぶちまけるはめになったのだった。


「もうやだぁ、勇者パーティーの人また吐いてる」


「最悪だよ、勇者もその仲間も……」


「デリアのファンやめよっかな。幻滅したよ……」


観衆の悲鳴や非難が聞こえて来た。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"。なんで、どうしてええええ……」


どうして私がこんな目にあわないといけないのおぉぉぉぉ……。


私は心からの怨嗟の声を上げる。


だが、


「うふふ、簡単でした」


一方のラッカライはアリアケの傍に戻り、嬉しそうに頬を染め、笑いかけていた。


「ボクのさっきの技が『防御』だと気づかなかったようです。どうでしたか、うまくやれてましたか、先生?」


(! そ、そうか、あれは私を攻撃するためのものじゃなくて、私の防御無視攻撃をラッカライ自身で受けないための『防御用デコイ』おとりだったのねっ……)


それを私は攻撃だと思い、防いだことで安心してしまった。


そして、邪魔なデコイを破壊するために防御無視攻撃をまんまとデコイの方に放ってしまったのだ。


ラッカライの思惑通りに!


とんだ間抜けじゃないの!


そんな私の『攻撃の隙』をラッカライが見逃すはずがない。


で、でも、そもそも、こんなに短期間のうちに、私の『祝福された拳』に対応できるほどの技を磨き実戦で使えるようになるまで腕をあげるなんてっ……!


「じ、じんじられない! ぐ、ぐやじいですわ、うっ、おえええええええええええええええええええ」


ラッカライみたいな防御特化のヘボ戦士に負けるなんてえ!


私は唇から血が出るほどきつくかみしめつつ、しかし、衆人環視の中、ケロケロと餌付き続けたのだった。

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