第57話 御前試合 その① ~まずは賢者の小手調べ~
57.御前試合 その① ~まずは賢者の小手調べ~
御前試合当日になった。場所は海洋都市『ベルタ』に設けられたコロシアムだ。観客は超満員、王族もはるか上方の特別席でご観覧といった具合だ。
俺とラッカライはフィールドに立っている。
そして、アリシアとコレットは後方のやや離れた位置で見守る様にしていた。なお、アリシアは顔を半分フードで隠している。何せ有名人だからだ。余り大聖女を連れまわしている賢者パーティーなどと噂をされて注目を集めるのは本意ではない。目立ちたくないのでな。
一方、勇者パーティーの方は、勇者ビビア、拳闘士デリア、タンクのエルガー、魔法使いプララ、回復術士ローレライ、ポーターのバシューがフィールドに立っていた。
向こうからは、誰が出場するのか詳しく聞いていないが、見たところビビアと回復術士ローレライが出場するようだ。
さて、戦いの進め方としては、①まずは俺が勇者パーティーがどれほどの力をこの期間で成長させたのかを軽く
と、そんなことを考えていると、勇者ビビアがいやらしく口を歪めながら言った。
「アリアケぇ。お前みてえな無能がよくこんな華々しい場所にノコノコと出てこれたもんだなぁ。ええ~、この勇者パーティーを追放された無能のくせによぉ~。こんな大勢の前で恥をかかされるのに平気だなんて、頭がおかしいんじゃねえのかぁ~? ああーん?」
そう言うと、更に鬼の首を取ったように。
「しかも、俺の追放した無能弟子のラッカライを、無能なお前が拾うとはぁ、何の冗談だぁ! 無能が無能を育てるってか? わーはっはっはっはっはっは! 成長の余地なんて全くねえじゃねえか! 無能はいくら集まっても無能! 俺の勝利は今の時点でもう確定したようなもんだ! この大陸の希望であり、魔法討伐に最も近しい勇者ビビア様のなぁ!」
そんな意気揚々とした勝利宣言をスタジアムの中心で雄たけびのように叫んだ。
「きゃー、勇者様ー! 素敵よー!」
「この世界の希望だわ! 最高!」
「さすが勇者様は風格からして違うわ! 何てたくましいの!」
大衆たちがドっと湧き、黄色い声援が飛び交った。
その声援に勇者は唇を更に歪めて笑うと、
「あーっはっはっははは! ったりめえだぁ! 聖剣ラングリスの正当なる選定者、勇者ビビア様が負ける確率なんてこれっぽっちもねえ! あり得るとすれば、強すぎることに嫉妬した神様が俺を罪な男となじる事くらいだなぁ!」
そう言って聖剣をかかげると、コロシアムの熱狂は更に高まった。
それと同時に、アリアケへの罵声も飛び交う。
「そんなヘボポーター吹っ飛ばしてー!」
「勇者パーティーの足を引っ張って、冒険を阻害して来た無能なんてやっつけちゃって!」
「よく御前試合に顔なんて出せたわよね! ずうずうしい!」
そんな罵声の嵐の中にあって、
「信じております、救世主アリアケ様! エルフ一同、アリアケ様の勝利を心より確信しています!」
エルフの姫セラ。お転婆だな。また森を抜け出してわざわざ来のか。
「世間の噂なんてくそくらえだ! アリアケの旦那‼ 頑張ってくださせえよ! 全額あんたに賭けましたぜ!」
恐らくメディスンの町で助けた冒険者たちだろう。呑気な奴らだ。
「獣人族一同、ご主人様の凱旋をお待ちしています!」
獣人たちか。ていうかご主人様ではないのだが……。
ともかく、俺のことを知る者たちがあらん限りの声援を送ってくれているようだ。……が、多勢に無勢。その声はあまりに小さく、罵声にかき消されてしまうほどのものだ。
勇者はその様子を見て、侮蔑する視線を寄越す。
「人望がねえなあ。アリアケえ。全くお前への声援がねえじゃねえかあ。一方の俺への声援を聞いてみろよ! これだよ、これが本当の俺の力ってわけだ。優れているからこそ、これだけ大衆が支持し、俺に熱狂するんだ! はははは! やっぱり俺はすげえ!」
ビビアは熱に浮かされた様に言う。
だが、俺は首を横に振りつつ、
「俺に対する声援は、俺のことを本当に信じた者たちの声援だ。彼らエルフや獣人といった種族全体からの声、俺が命を救い英雄の姿を目の当たりにした冒険者たち。そんな奴らの心からの声だ。それは百万の価値がある。お前のが受けているものとは違うものだ」
「かはははは、つまらねえ屁理屈しか言えねえとはな! それにとんでもない嘘つきやがって! 種族の応援? 身勝手な冒険者たちの声援? んなもんあるわけねえだろうが! 勇者パーティーを追放になるような無能にそんなことできる訳ねえ!」
そう馬鹿にするようにビビアは言った。
すると、
「そんなことありません‼ 一緒にいれば分かるはずです‼ アリアケ先生のおっしゃることが全て真実だと!」
ラッカライが溜まらず、といった具合で反論する。
しかし、
「は~?才能無しがほえんじゃねえぞ、ああ!」
恫喝するようにすごんだ。そして、
「へへへ、今からでも後ろに控えてる奴らに代わった方が良いんじゃねえかぁー? ま、そいつらも大したことねえんだろうけどなぁ」
そう後ろのメンバーを指さして、嘲笑った。
すると、それに乗じるように、デリア、エルガー、プララがニヤニヤしながら口を開く。
「ていうか、後ろの人たちも含めて、私たちのパーティーの下働きでもしたらどうかしらねえ。無能アリアケなんかについてないで」
「うむ、それがいい。そんな軟弱な男についていってもろくなことはないぞ。やはり筋肉がないとな」
「あたしのお世話させてあげるよ。やっぱ美人のあたしには、美しい下働きがいると思うんだよねえ。見た感じ、顔だけは良さそうじゃん。一人はフードかぶってっけど!」
彼らの言葉に、ビビアはクククと笑いながら、
「ってことだ。どうだー、お前ら、勇者パーティーの優しい提案だぞ。今なら俺たちの下僕にしてやってもいいんだぜえ」
そう言って見下す様に言ったのだった。
だが、
「残念ながら、この方から離れる気は終生ありませんので」
と言うと、
「わしもじゃよ。末永く一緒におることは既に
額に角を生やした
……終生? 契り?
何だか話が大きすぎるような気がするが……。
「はっ、まあ、そんなこと言ってられるのも今の内だがな! そいつはすぐに情けなく敗北するんだからよお」
そう言ってビビアが厭らしく笑う。
やれやれ、少しおしゃべりが過ぎるな。
「おいビビア、戦いの前のおしゃべりは敗北を呼び寄せるぞ? そう教えたろう?」
「くくく、くひひひひ。情けない奴。これだけ言われても、そんなくだらねえ反論しかできねえのかよ。まったくつまらない奴だぜ」
失望したとばかりに肩をすくめた。
「反論も何も必要ないだろう。いつも通りにやるだけだ」
「かはは、それくらいの強がりが精々ってか!」
そう言って嗤うと、ビビアはぽつりと、
「ぎひひひ、これは俺たちの勝利確定だな。アリアケの奴ぶるっちまって、ろくに反論もできねえ」
内心を吐露するようにつぶやく。
と、そんなお喋りもそこまでだった。審判が出て来て、戦いの幕を切ろうとする。
「それでは御前試合を開始する。出場者は前に!」
その言葉に俺とラッカライは前に出る。
勇者ビビア、ローレライも前に出た。
勇者は厭らしく笑いながら、
「いきなり必殺技でK.O.だ。へへへへへ、これで俺たちの栄光は取り戻される」
「では、御前試合を始める。双方、王の目を汚さぬ素晴らしい戦いを披露せよ。では…………はじめえええええ!」
ワッ!
大衆が沸き立った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼ くらええええええええええええええええ‼
ドドドドドドドドドドドドドドドドド!
「はーっはっはっはっは! 聖剣に魔力を集中させポテンシャルを解放させ、いかなる敵をも消滅させる超強力な波動を放つ聖剣所持者のユニークスキルだあ! かわせるわけがねえええええ! 終わりだああああああああ!!!!!!」
その一撃は勇者の哄笑とともに、コロシアムの石を吹き飛ばしながら俺たちへと迫る。
だが、
『鉄壁』『剣攻撃ダメージ軽減』『防御力アップ』『飛び道具ダメージ軽減』
スキル同時使用によって、身体を強化する。
これで、そもそも、相手の攻撃をかわす必要がなくなった。
だから、俺はそのまま奴の攻撃を弾き飛ばしながら、真っ直ぐに勇者へと突っ込む。
そして、
『杖攻撃アップ』『物理攻撃アップ』『クリティカル率アップ』
自分に支援スキルを使用すると同時に、
バッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン‼
「うっぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉⁉⁉」
ゴロゴロゴロゴロゴロ!
俺の杖で思いっきり鳩尾をぶん殴られた勇者ビビアは、コロシアムの床を泥だらけになりながら転がっていく。
「ぶべあああああああああああああああああああ⁉⁉⁉」
悲鳴が止まることなくコロシアム中に轟き、
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
壁に激突することでやっと止まった。
「お、おえ。おええええええええええええええええええええええ。うええええええええええええええええええ。ゲえええええええええええええ」
と、勇者は予想だにしていなかった反撃と鳩尾へのダメージで、御前試合にも関わらず、衆人環視の元、胃の中の物をその場でぶちまけ始めた。
「ひっ⁉」
「や、やだ……吐いてる……」
「気持ち悪い……」
観衆は静まり返るとともに、先ほどまで黄色い声援を送っていた女性たちから悲鳴じみた声が上がった。
「こ、これは……な、何かの間違いよ……」
デリアの絞り出すような声が響いた。
その声は、ゲロゲロと未だ胃の中のものを吐き出し、顔を涙と苦痛でぐしゃぐしゃにする勇者の嗚咽と一緒になって、スタジアムによく響いた。
そして、観客の一人から、
「あれ? 勇者様……? まさか、一瞬で……負……け……た? あれだけ大口叩いてたのに……ザ……コ……?」
そんなつぶやきが漏れたのだった。
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