第49話 一方その頃、勇者ビビアたちは⑱ ~勇者パーティー追放(弟子ver)『特訓編(勇者)』

49.一方その頃、勇者ビビアたちは⑱ ~勇者パーティー追放(弟子ver)『特訓編(勇者)』




「いよーし! 特訓はじめっぞ、おら!」


「よ、宜しくお願いします‼ ボク頑張ります!」


聖剣の勇者である俺の言葉に、聖槍とか言うヘボ伝説武器の所有者ラッカライが頷いた。


今、俺たち勇者パーティーは、アリアケとの決闘のため海洋都市『ベルタ』へ馬車で移動中であった。現在は休憩時間であり、ワルダーク宰相の依頼通り、ラッカライに稽古をつけてやろうとしていた。


まずは勇者である俺から、というわけだが……。


(にしても、相変わらずウジウジした奴で、イライラさせやがる。体も華奢で細くて、顔だけは目鼻立ちがはっきりしていて睫毛が長いって感じで妙に整ってやがる。それに「ボクボク」って。これがまたガキっぽくてイラつくんだよなぁ!)


俺はそんなことを思う。


「おら、どっからでもいいからかかって来いや!」


「は、はい! ええーい‼」


聖槍ブリューナクを使い、ラッカライは全力でかかってくる。


聖槍による突き、払い、それらを組み合わせたコンビネーションを必死に繰り出して来る。


そんな必死な様子に俺は、


(ぎ、ぎひひひひひひひひ)


嘲笑をこらえながら、聖剣で楽勝でいなし続けていた。


(まじでコイツ才能ねえよおおおおおおおおおお!)


駄目だ。笑っちゃいけねえ。


だが、まじで笑いをこらえるのがつらい。


余りにもヘボすぎて、嘲笑を浮かべずにはいられねえ!


槍はおせえし、フェイントも何もねえ! 動きが正直すぎて相手に次の行動が丸わかりじゃねえか。これならゴブリンの方がまだマシなくらいだぜえ!


「はぁ……はぁ……」


しかも、こっちは防御してるだけなのに疲弊してやがる。


まじで才能ない! まじで才能ない! 


こーんな奴が『俺を超える潜在能力を秘めているかもしれない』だぁ⁉


プギャラー!


あ・り・え・ねー‼


潜在能力なんてゼロだ、ゼロォオオオ!


俺ははるかに格下の相手の槍を悠々といなしながら、内心で嘲笑あざわらう。このまま稽古も何もつけず、哀れな格下の姿を見続けるのも一興かもしれねえなぁ!


「何だか勇者様……。もしかして、ラッカライさんをいじめて楽しんでいませんか? もし、そうだとしたら最低ですよ?」


おおっと、ローレライに何だか誤解されてるみてえだな。


よし、そこまで言うんならっ……!


「おらぁ!」


「あう⁉」


俺の突然の聖剣によるハードアタック強撃によって、ラッカライが簡単に吹っ飛んだ。


くあああ、良い感じに吹っ飛びやがったなぁ。俺は内心で唇を歪めた。


「ラッカライさんにかかってこいって言っておいて、いきなり攻撃するなんて……。本当のクズでしょうか……」


「勇者失格では?」


ローレライとバシュータが何やら言っているが、ガキを吹っ飛ばした快感に酔いしれてよく聞こえなかった。


「おいおい、隙だらけだったぜぇ? 確かに俺はかかって来いとは言ったけどよぉ、俺から掛かって行かない、なんて一言も言ってないんだよなぁ? そういう油断こそが戦場では一番危険ってことさ。俺はそれをテメェに伝えたかったってわけだ。どうだ、師からの教えをありがたく受け取ってくれたか?」


俺はそうまじめな表情で言う。つっても、多分聞こえちゃいねえだろうがなぁ。何せ、結構本気のハードアタック強撃を放ったからなぁ。急所に命中したろうしなぁ! こんな軟弱な野郎だ、くくく、しばらくは立ち上がることすら……。


「ご、ご指導ありがとうございます。はい、まだまだ大丈夫です。もう一度お願いします!」


「……………………は?」


あれ? 


俺は思いっきり首を傾げる。


なんで平気なんだ?


俺は割とマジで……世間の厳しさを思い知らせるために、師の役割として、ガチハードアタック強撃を決めてやったはずだ。なのに、どうして立ち上がって来られるんだ? 


一見して、あんまりダメージも受けてねえように見える……。


何かの間違いか?


「……へ、へへへ、運が良かったみてえだな。お望みとあらば食らわせてやるぜえ! もう一度だぁ! ハードアタック強撃ゥゥゥウ」


ドゴオオオ!


命中して、ラッカライが再び吹っ飛んだ。


しかし、


「ふ、ふう。今のは危なかったです。もう少しで急所でした。何とか外せましたね」


そう言って冷や汗を拭う仕草をする。


「…………………………………………は?」


俺は呆然とする。


何だよ、その反応は。


確実に当たっているのに、まるでダメージがないような仕草は。


それじゃあ、まるで……。


(まるで俺の方がいなされてるみたいじゃねえかあああああああああああ!)


ギリギリと内心で歯噛みする。余りにも悔しくて血涙が出そうなほどだ。


と、その時、


「どうしたんだ、勇者、調子が悪いのか?」


「ふふふ、手加減しすぎては訓練になりませんわよ」


「そうだよ、早くぶちのめしちゃってよ!」


エルガー、デリア、プララが声を上げた。


俺は思わず、


「う、うるせえぞ、てめえらあ!」


そう怒鳴り返してしまう。


「そ、そんな風に言わなくてもよいではないか……。お、大人げのない……」


「そ、そうですわ。確かに指導内容に口を出して悪かったかもですが……」


「ただの冗談じゃん。あはは……マジになんないでよ……」


引いた様子で、仲間たちが言った。


このクソどもが! い、いや、こんな奴らのことはどうでもいい!


んなことより、目の前の敵を倒すことの方が先だ!


俺にこんな屈辱を与えたこと、絶対に後悔させてやる! 許さねえんだからなあ!


「なら、これをくらいやがれええええ! 勇者最終奥義の一つ! 究極的終局乱舞ロンドミア・ワルツだぁあああああああああ!」


俺は聖剣の最上級スキルで切りかかる!


まるで聖剣が踊る様に連続で相手に攻撃を加えるという最強スキルの一つだ!


「う、うわぁあああああああああああ!?」


俺の本気の剣戟はまさしく嵐の夜の稲妻ようにラッカライに降り注いだ。


「は、ははは……」


ぎゃーっはっはっはっはっは!


そうだ、これだ、これこそが俺の力なんだ!


槍ごときに剣が負けるはずがねえんだ!


俺こそが最強なんだからなあ。所詮槍の使い手なんて雑魚よ、雑魚!


「ゆ、勇者様、やりすぎですわ⁉」


「ち、致命傷になるぞ! 勇者よ、何をしてる!」


「さすがに死んだら寝覚めが悪いよっ!」


デリア、エルガー、プララが悲鳴を上げた。


「ああん? うるせえなぁ。さすがに殺すまではしてねえよ」


その言葉に、3人はホッとした表情を浮かべる。


ま、ちょっとムカついたから、少しは本気でボコっちまったけどなぁ。


ま、これで俺との実力の差ってもんが分かっただろ。


槍が剣にかなうわけねえんだ。


俺こそが最強、俺こそが唯一無二の勇者なんだ。


No.1! No.1だ!


俺の剣さばきについてこれる奴は一人もいねえ!


と、倒れていたラッカライが起き上がった。


そして、


「はぁ、はぁ……。すごい攻撃でした。さすが勇者様です」


そう尊敬の言葉を口にする。


「く、くはははははははは! そうだろうそうだろう! ま、俺が本気になったら、太刀筋を見る事すら叶わな……」


「斜め上から振り下ろしたと思ったら、その反動を利用して下からの跳ね上げ。かと思えば、重力に逆らわない切り落とし。とても理にかなった動きでした。あと、素早く移動される時に足運びに特徴がありますよね。さすが、勇者様です」


ラッカライはそう言いながら、


「目で追うのがやっとですよ。余りの早さに体がついていきませんでした」


そうニコリと微笑んだのである。


「…………は?」


俺は一瞬何を言われたのか分からなかった。


なぜならコイツは言ったのだ。


『目で追うのがやっと』だったと。


しかも、俺自身が気づいていなかった体を動かす時のクセまで見えていた、と言ったのである。


ならば、もしラッカライ自身の身体さえ素早く動けば、俺の攻撃を防げたと言っているようなものなのだ。


……いや。


いやいやいやいやいや!


「見えてるわけねえ!」


「へ? あの、勇者様?」


ラッカライはポカンとしている。


だが、この純朴そうに見せる表情こそが、こいつの一番の刃だ。


そうだ、この嘘つきめ!


あたかも、俺の攻撃が見えていたと思わせておいて、聖剣の勇者たる俺をたばかり、動揺させて倒そうって魂胆だろう。


俺の方が優れてるから、そういった姑息な手段にうったえるしかねえんだ!


俺のように真っ直ぐに生きていくことができねえんだ!


嘘をつかなきゃ、俺とまともに戦うことすらできねえ可哀そうな野郎ってわけだ!


俺は相手の言う事が嘘だと理解することで、やっと落ち着いて来た。


「ぜぇ……ぜぇ……」


だが、あまりの興奮に息が切れて疲労の色が濃くなる。


くそ……休息をとりたい……。


「お、俺はもう休むぞ! 次はデリアたちが相手をしてやれ! ふん‼」


それだけ何とか言うと、俺は適当な場所にふて寝するのであった。


クソ! うそつきめ!


俺は正義感から内心で相手を罵り、最悪な気分で横になったのである。

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