第50話 一方その頃、勇者ビビアたちは⑲ ~勇者パーティー追放(弟子ver)『特訓編(デリア、プララ、エルガー)』

50.一方その頃、勇者ビビアたちは⑲ ~勇者パーティー追放(弟子ver)『特訓編(デリア、プララ、エルガー)』




~勇者ビビア視点~


俺は横になりながら、ヘボ聖槍の使い手ラッカライの修業風景を見学していた。


インチキで俺の攻撃をかわし、あまつさえ俺の攻撃が『見えた』などと言うウソツキ野郎だ。


正義の使者であり、世界の救世主である俺という聖人からすれば、そういった薄汚い思考は理解に苦しむものだ。


ああ、思いだしただけで腹立たしくなってきた。


俺の超必殺技である究極的終局乱舞ロンドミア・ワルツでも大して驚きもしなかったことも、その後笑っていやがったことも、はらわたが煮えくり返る程悔しい! 何で俺がこんな思いをしなくちゃならねえ! 何で! なぁんで⁉


……ああ、そうだ、そうだよな。


なぜ聖剣の使い手である優れた俺様が、ヘボ聖槍に遠慮する必要がある。しかも俺は王国指定勇者。特権階級の人間なんだ。


俺は目の前の修業風景を見ながら決意する。


やはり、ラッカライは俺のパーティーにはふさわしくない。正義を標榜する勇者パーティーに卑しい考えの持ち主は相応しくねえ。


ならば、


「おい、デリア、プララ、エルガー! いっちょ揉んでやれ! そして、ラッカライ、お前程度の力じゃぁ、いくら俺たちが稽古をつけてやっても無駄だ! お前の実力をこれから見極めて、場合によってはこの勇者パーティーから追放する!」


「「「了解!」」」


デリアたちの声と共に、


「そっ、そんなっ⁉」


ラッカライがショックを受けた顔をする。


ひ、ひっひっひ。クックックックッ。その顔‼ そうだ、その表情が見たかった!


俺は内心で笑う。


それに、『場合によっては追放』などではない。この修行の後に、奴に言う言葉はもう決まっている。


そうすれば、ラッカライは、


『勇者パーティーを追放された、ヘボ聖槍の使い手ラッカライ』


そう言われ、侮蔑される未来が待っているのだ。


俺はそんな考えを浮かべると、内心で激しく唇を歪めたのであった。





~デリア視点~


「了解!」


私は勇者の言葉に軽快に応じながら、内心で忙しく思考を回転させる。


先ほどの勇者の修業風景を見て私は少し驚いていた。


なぜなら、ラッカライが勇者ビビアの放った必殺技の一つ、聖剣所有者が持つユニークスキル『究極的終局乱舞ロンドミア・ワルツ』を受けながらも、その一つ一つの剣筋をしっかりと把握していたからよ。


勇者の攻撃は素早くて鋭い。


その攻撃を、身体がついて行かないまでも、見えていたとするならば、しっかりと育てれば『勇者には無い部分』をカバーできる人材に育つ才能があると思ったのだ。


というのは、勇者ビビアには致命的な欠点があるのよね……。


それは、戦闘時に熱くなり過ぎて冷静さを失い、突出気味になるということだわ。


これは、こと戦闘において、大きな失点で……。あまりリーダーに向いていないタイプとも言えるかもしれないわね。


だから、私たちパーティーはそんな勇者の行動に合わせながら、全体としてフォローしつつ戦闘行動をすることになっているの。


でも、ラッカライの性格はその反対のように見えたわ。


攻撃はヘボかったわね。私の方が何倍も優れていると思うわ。


だけど、こと防御と言う点については、いいものを持っている気がするのよね。


それこそ、熱くなりすぎる戦士として致命的な欠点を持つ勇者をフォローしつつ、その背中を守れるような。


だからこそ。


(だからこそ、早急に追放せねばなりませんわねっ……!)


私は焦燥感から乾いた唇をなめた。


私たちは全員寒村の村の出身だ。けれど勇者パーティーの一員という肩書のおかげで、周りの人間が頭を下げてくれる。


宝石もいっぱい買えるし、お金ももうかるし、賞賛の声を浴びられて気持ちがいい!


こんな生活をやめられるはずもないわ!


貧乏はもう嫌よ! 私は贅沢に生きるのよ!


だから、私の勇者パーティーにおける地位。勇者ビビアの補佐、No.2として助言者する有能な秘書的ポジション! リーダーに不向きな勇者にこそ必要とされるこのポジション!


ああ、この美味しい地位を、あのラッカライなんていうポッと出に渡すわけには断じて行かない。


最近はちょっとパーティーの評判が落ちてるけど、きっと一時的なものよ。絶対また人気が出て、賞賛とお金を運んできてくれるわ。


そう、だから、勇者の背中を任される相棒は、私ではなくてはいけないのよ。


この地位を脅かすものは、社会的に抹殺せねばならないのだわ!


(だから、ごめんなさいね、ラッカライ君)


私は内心の冷笑をもって、ラッカライを見やる。


(あなたがいたほうが勇者の欠点をフォローできそうだけど、私の揺るがぬ安寧ために(社会的に)死んでちょうだい)


そんな思いを胸に私は拳を握りしめたのだ。





~プララ視点~


「了解!」


あたしは返事をしながら、頭を激しく回転させていた。


ラッカライの魔法力は正直言って大したことない。ヘボい。


あの魔力じゃあ、身体強化に回せる魔力量に限界があるから、攻撃にスピードや威力が乗んないし、防御だって機敏に出来ないに決まってんじゃん。


(だけど……)


あたしはこっそりと、寝そべる勇者を見て正直に思う。


勇者とは違って・・・・・・・、魔力コントロールはできてんだよね~)


そう素直に感想を浮かべた。


勇者の魔力量は戦士タイプとしてはすごくて、その膨大な魔力を身体強化とかに使ってる。


だから威力のある攻撃とか、素早い攻撃が出来るってわけ。


ただ、魔法使い視点のあたしから言うと、あの魔力量で、その程度? という気はいつもしてんだよね~。


勇者のは、言ってみれば、大量の水があるから、それをジャブジャブ使いまくって強さを水増ししてるって感じ?


ウソっていうか、ズルっていうか。そういう類の強さなんだよね。


でもラッカライのは真逆。


あいつは魔力量が足んないから、逆に勇者が全然持ってない技術で補ってんの。


魔力コントロールをきっちりやることで、少ない魔力量でも、あそこまでの戦闘を勇者と繰り広げることができたってわけ。


どっちが魔力的な意味で才能があるか言うまでもないっしょ。


そう言う意味では、ラッカライがこのパーティーにいることで、勇者は成長できるかもしんないんだよね。


エルガーの脳筋馬鹿野郎とはまた違う、同じ聖武器の戦士だし、やっぱり魔力の使い方なんて、言われるより、目の前で見た方がイメージしやすいっしょ。勇者みたいなヘボでも魔力コントロールを覚えられっかもしんない。そしたら、パーティーの力はグッと上がるかも。


そんなことを思う。


だからあたしは、


(さっさと追い出さないとやべえかもっ……!)


焦燥感から、思わず綺麗に整えたネイルを噛んじゃう。


あたしがこの勇者パーティーに所属しているのは、単に後ろの方で楽が出来るからだ。弱い敵を後ろから魔法ぶっ放して倒すのが快感だからってわけ。


だって、面倒なのは嫌じゃん?


怪我するのも最悪っしょ?


楽しければそれでオッケーっしょ?


だから魔法使いになったし、しかも勇者パーティーは前衛が強かったから、めっちゃ楽させてもらってたわけ。


後ろからファイヤーボールとかブリザードボールを撃ってたらいいだけなんだから、楽勝だったんだよね。ネイルも傷まないし(笑)


だから、あたしの今の『パーティーで最も優れた魔法の使い手』っていうポジションを、少しでも脅かすものは即刻排除しないとっ……!


魔力コントロールはまだ流石にあたしの方が上だけど、あいつは聖槍の使い手っていう、めっちゃムカつく才能持ち。考えすぎかもだけど、万が一にもあたしを追い越す可能性もあるってわけ! 


才能あるとかまじチョーむかつく!


そういう才能があるかもってだけで、危険なんだよ!


あたしのポジションを万が一にでも不当に奪う可能性がある。そんなこと許せるわけないじゃん!


それに、もしラッカライがいるせいで勇者が成長しちゃったら、あたしも努力して同じくらい強くなんなくちゃいけないっしょ?


それは楽じゃないし、嫌じゃん?


だからあたしは決意する。


全力でラッカライを勇者パーティーから追放しよう、って。


あはは、あたしったら相変わらず冴えてる~!


そんなことを思いながら、あたしは特大のファイヤーボールを詠唱したんだ。





~エルガー視点~


「了解!」


俺は勇者の言葉に返事をしながら、目の前の少年ラッカライを見る。


正直言って、圧倒的に筋肉が足りない。その体はまるで少女のように華奢きゃしゃだ。


(ただ、勇者のように攻撃偏重型ではないことは評価できるか)


俺は率直にそう思った。


勇者はどうしても熱くなるタイプで、周囲の見えない猪突猛進な、攻撃型の戦闘スタイルになってしまう。


そのせいで突出しがちであり、防御のプロである俺からすれば「非常に危うい」戦いをしていると感じる時が多々ある。


俺が助けなければ「あわや」ということもあった。


まぁ、本人は気づいていないかもしれんが……。


それに比べると、勇者とは違い、ラッカライは攻撃よりも防御の方が得意なようだった。


勇者にはないバランスのようなものを感じる。


俺が鍛えれば、勇者のような猪突猛進型ではなく、しっかりとした防御を視野に入れた戦士に成長することができるかもしれない。


また、その姿を見ることで、勇者も防御を意識し、足りない部分をおぎない、成長することができるかもしれない。


それはひいては勇者パーティー全体の戦力アップにつながるかもしれない。


(……だが、防御は筋肉でするものだ。それに、防御のプロは俺一人で良い!)


俺はそう考えて、重々しく頷いた。


このパーティーの防御の要はこの俺だ。国の盾とも言われる俺がいなければ、この勇者パーティーは立ち行かない。


そして、このパーティーの防御の考え方は、基本的には『正面からの防御』であり、『回避』型のような、小細工を弄する卑怯者がする防御ではない!


ああいうのは、筋肉がない非力な者がするズルである。


もしも、ラッカライが成長し、回避型防御のプロになってしまったら、この勇者パーティーに悪しき防御スタイルを広めてしまうかもしれない。


それは、ひいては俺の立場の低下を招き、国の盾と称賛される俺のポジションを奪う可能性も否定できないっ……!


そんなことは断じて許されない!


可能性ごと排除しなくてはならない。そう、脅威は根元から事前に断つ! これこそが正しい防御というものなのだっ……!


俺はそんな正しい防御思想に基づき、ラッカライが回避しきれない攻撃を本気で仕掛けたのである。回避防御という悪しきスタイルをこれ以上広めないためにっ……!


そして、偶然か否か、俺の行動に呼応するように、デリアやプララも恐るべきレベルの攻撃をラッカライへ放ったのである。


示し合わせてもいない、なんの合図もしていないのに、なぜか俺たちの息はピッタリだった。


(やはり、仲間だからか)


そう考えるしかないだろう。


そんな一斉攻撃にさらされたラッカライは、


「きゃああああああっ⁉」


まるで少女のような悲鳴をあげた。


軟弱者め!


俺は鼻で嗤う。


やはり俺の判断は正しかった。


こんな軟弱者のために、今の地位を失うわけには行かない!


俺たちはなりふり構わずラッカライに攻撃をしかけたのである。


この少年ラッカライを勇者パーティーから追放するために!

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