第37話 一方その頃、勇者ビビアたちは⑮ ~勇者は犯罪者を憎む~

37.一方その頃、勇者ビビアたちは⑮ ~勇者は犯罪者を憎む~






ファイナル・ソードによってボロボロになった俺たち全員は、駆けつけた憲兵たちによって取り押さえられラクスミーの街へと連行された。


連行されるや否や『牢屋』へと連行される。


ガシャーン!


という鉄格子の閉まるけたたましい音が響いた。


鉄格子の向こうでは担当の看守が侮蔑の表情で冷ややかな視線を俺たちへと向けていた。


「くそ! 出せ! 俺は勇者なんだぞ⁉ どうして、こんなところに捕らわれなくちゃならないんだ! 冤罪だ! 許されることじゃないぞ! うお! うおおおおお!!」


俺は余りに不当な扱いに鉄格子をガンガンと叩きまくる。


ファイナル・ソードでワイバーンを倒し、街を救った英雄に対する扱いでは絶対にないと抗議したのだ。


「そうよ、そうよ! どうして牢屋になんて入らないといけないのよ⁉ 街を救うために私たちは出来る限りのことをしたのに‼」


「その通りだ! ワイバーンの脅威から未然に防いだのだぞ! 迎えるべきは牢屋ではなく、感謝のうたげではないのか⁉ さっさとここから出せ!」


「そうだよ! アタシたち勇敢に、必死にワイバーンと戦ったのにさ!」


デリア、エルガー、プララも抗議の声を上げた。


しかし、看守は眉根を寄せると、


「何を言っている。この呆れた犯罪者どもめが」


そう冷徹に言ったのである。


「は?」


俺はその言葉に唖然とする。


「ゆ、勇者の俺が、は、犯罪者だとっ・・・!? お前、言っていいことと悪いことがあるぞ! この勇者をつかまえて犯罪者だなんて!」


「私は勇者パーティーの一員なのよ⁉ 超エリートなのよ!」


「うむ! この世界の盾たる俺をつかまえて犯罪者だと⁉ 許されることではないぞ!」


「少なくともアタシは無実だし!!!」


看守のあり得ない罵倒の言葉に、俺たちは猛然と反論する。


だが、


「町の重要な資源を消滅させておいて何を言っている! この勇者とは名ばかりの犯罪者パーティーが! 聞いているぞ、呪いの洞窟でクエストを失敗したらしいじゃないか。その時は仲間を放っておいて逃げたらしいな! そして今回は重要な冒険者たちの狩場を破壊した。街のインフラの破壊だぞ! 殺人未遂にインフラ破壊! そんな奴らが犯罪者以外の何だと言うんだ! この犯罪勇者パーティーが!」


看守が改めて怒声を上げて俺たちを罵倒した。


はぁ、と看守は自分を落ち着かすように首を横に振ると、


「これだけの犯罪だ。すぐに刑が確定するだろう。ま、二度と檻から出られないかもしれんが、犯罪を犯した者として、しっかりと更生することだ」


「くそっ! ちくしょう・・・何てことだ。ちくしょう・・・」


俺は悔しくて歯ぎしりする。


と、その時である。


「看守さん? 看守さん?」


ローレライが穏やかな声で看守に呼びかけた。







「何かね?」


看守が反応した。


きっと、ローレライも俺を擁護しようとしてくれるんだろう。


「・・・看守さん。私は、皆さんを止めました」


「・・・は?」


俺はローレライが突然何を言ったのか理解できず、思わず変な声を上げてしまう。


だが、ローレライは気にせず言葉をつづけた。


「今回の一件は、勇者様が暴走したことが原因です。しかも、私は、わが身をかえりみずに止めようとしました。被害がこの程度で済んでいるのは、私の少なからぬ犠牲があったからだと思います」


「こ、この子、自分だけ助かろうとしてるわよ⁉」


デリアが叫び声をあげるが、ローレライは表情すら変えない。


看守はローレライの言葉に首を傾げた。


「確かに君の名前は、聞いていた勇者パーティーのメンバーには入っていない。だが、冒険者ギルドで勇者パーティーに入ったとの情報があるのだが?」


そう厳しく言ってから、


「君は彼ら勇者パーティーの仲間ではないのかね?」


そう鋭く質問したのである。


「あ、はい、全然仲間ではありません」


あっさりと即答したのである。


「え、あ、そ、そうなのか・・・?」


余りにもためらいのない回答に、少し引きながら看守は言った。


一方の俺は余りのことに怒りに打ち震える。


「は、恥を知れ‼ ローレライ! 仲間を売るなんて! そんなのは最低の奴がやることだ! なぁ、お前ら!!」


そう叫んだのである。


すると、デリアも頷きながら口を開く。


「・・・あの、私も勇者を止めようとしました」


「えっ?」


言われた意味が分からず、俺はまた変な声を上げてしまう。


「止めきれなかったことの責任は感じておりますが、勇者様の力は私たちに比べて飛びぬけております。被害を縮小化させるだけで精一杯だったことをご理解ください。そして・・・」


少し咳払いしてから、


「私より強い勇者様を止めるために、自分の身を削ってボロボロになった私は、ある意味、『被害者』であることをご理解ください」


「お、おま・・・お前・・・」


余りのことに言葉が出ない。


すると、エルガーも口を開く。


「ええ、デリアの言う通りです。俺も全力で止めようとしたんですが。そう、バシュータ殿と一緒に。そうだったな? バシュータ殿」


バシュータは一瞬考えるそぶりをしてから、


「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。そうです」


は? 俺は更に混乱する。


「このように中立である雇ったポーターの証言もあります。けっして犯罪行為に加担したわけではありません。むしろ、俺たちは暴走する勇者を止めようとしました。つまり犯罪者側では決してないのです。このことは調書に明記頂けますか?」


プララも遅れまいとでもいうかのように早口で、


「あたしも一緒です。一度ダンジョンに置き去りにされたにも関わらず、今回暴走する勇者を助けようと尽力したんです。自分で言うのもなんですが人道的な行動ですし、情状酌量の余地があるのは明白だと思います!」


看守は俺の方を憐れむような視線で見下ろしながら、


「・・・つまり犯罪を犯したのは『加害者』のこの勇者だけであり、他のメンバーはむしろそれを防ごうとした『被害者』ということか?」


「「「「「その通りです!」」」」」


俺以外のメンバー全員が声をそろえて断言した。


「こ、この裏切者たちがあああああああああああああ⁉」


俺は血涙を流しながら絶叫する。


信頼する仲間たち全員に裏切られたのだから当然だった。


しかし、裏切った仲間たちはどこか憐れむような表情をしている。


「大丈夫よ勇者。落ち着いて。また会いに来るわ。だからしっかり罪を償って」


「ああ、そうだぞ。俺たちは幼馴染じゃないか。決して裏切らない」


「あたしも、色々あったけど、溺れる犬を叩こうとは思わないよ。勇者は今回の件の反省してちゃんと更生するんだよ? 応援してるから」


「お元気で、勇者様。一緒に旅ができたこと(ある意味)忘れません」


「さようなら勇者さん」


パーティーメンバー全員が言った。


「う、うがああああああああああああああ! お前らぁああああああああああああ⁉」


俺は絶叫する。


俺だけを犯罪者に仕立てるために、一瞬で口裏をあわせた邪悪なこいつらに、ありったけの憎しみの声を上げた。


その声はこの牢屋の並ぶ地下施設に大きく響き木霊する。


と、その時であった。


「まったく、何を騒いでおるのか」


その声はどこかよく響く抑揚を持つ男のものであった。









「ああ⁉ あなた様は⁉」


看守が背筋を伸ばし、気をつけの姿勢になる。


その男が鉄格子の向こうに現れた時、俺は思わず目を丸くしてしまった。


「あ、あんたは・・・なんでここに⁉」


その男はゆっくりと頷いた。


「ふむ、ちょっと近くに用事があったものでね」


そう言いながら、その男は次の瞬間には看守に鍵を開けるように命じる。


看守は命じられるままに、あっさりと俺たちを解放したのである。


その男の名は『ワルダーク』。


このグランハイム王国の宰相である。


初対面だが顔くらいは知っている。


「実は君と少し話がしたくてね」


「俺と・・・?」


いきなりなんだ?


だが、とにかくこうして俺たちは突然現れたこのワルダーク宰相によって牢屋から解放されたのである。


そして、俺たち勇者パーティー全員へ、王城への出頭命令が下ったのだ。

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