知らない間に婚約していたようですが、好みじゃないので諦めてください:意
仲仁へび(旧:離久)
第1話
もうすぐ隣国のお姫様になるはずだった私は、婚約した覚えのない間抜け王子から婚約破棄されてしまった。
公衆の面前で。
国の広場で。
「お前との婚約は、破棄だぁぁぁ!」
「いや、結婚の約束なんて交わした覚えがないんだけど」
「うううっ、うるさぁぁぁい!」
で、そのせいで、かねてからお付き合いしていた男性(隣国の王子)に、浮気を疑われて距離をとられてしまう事になった。
「まさか、他の人と婚約していたなんてね。しらばっくれるつもりか? 目撃者は大勢いるんだぞ」
「ちっ、違うんです。それは誤解でっ」
「信じられるものか!」
その結果私は、酒場でのんだくれる事になった。
「なぁにが、婚約破棄よ! 私はあんたにプロポーズされた覚え、一回もないっつーの」
べろんべろんに酔っぱらうまでお酒をのんだ。
めちゃくちゃのんだくれた。
けれど、どんなにお酒をあおっても、気は晴れなかった。
憂鬱な気分が「やあ!」「僕だ!」「俺だ!」「来たヨ!」と、次から次へとやってくる。
何の冗談だろう。
あの、男!
私と婚約した気になっていた幼馴染は、いつもそう。
あんの間抜けアホ勘違い王子は、子供の頃からそうだったのだ。
この国の王子は、様々な事で私を困らせてくる。
踊り子の旅に出ようする私を毎回、「いかないでよ」と泣いては困らせ、勝負ごとに負けては「こんなの負けてないもん」と困らせ。
いい加減大人になったかと思ったら、私とつきあっていると思い込んでいたとは。
私があんたみたいな困ったちゃんと婚約するわけないでしょーが。
いくらお金持ちで、権力の頂点に立つ王様だっていっても、好みじゃないの!
その日、私は朝がやってくるまで、お酒と仲良しこよししていた。
その時の私はまだ、つきあっていた男性に一生懸命弁解すれば、誤解が解けると思っていた。
しかし、すれ違いは続いた。
説明しようとしても、その男性は私を避ける。
「あの、先日の件についてなんですけど」
どんなに話しかけても、避ける。
「あれは、本当に嘘で。まったくの出鱈目で」
直接男性の家に赴いても、中へはいれてくれない。
「話しだけでも、聞いてくれませんかね?」(シーン)
そんな事が続いた。
やがて一か月も経つ頃には、関係が自然消滅してしまった。
「あんのくそ王子~! 思い込みで人の恋路を邪魔するなんて~!」
というわけで、私は再び酒場でのんだくれるはめになった。
子供の頃から、この国の間抜け王子は私に迷惑をかけっぱなしなのだ。
出かければ迷子になるし、何かすれば怪我をするし。
運動神経悪いのに、私の後ろをくっつてくるからだ。
互いに五歳頃の時、王子がたまたま王宮の外に出た時に、自慢の踊りを披露してしまったのが運の尽きだ。
「僕は運動ができないから、そんなにひらひらできるなんてすごいね! 尊敬しちゃうよ!」
って言って、なつかれて、それからずっと遊び相手をする事になった。
「私以外の人とも遊びなよ」といったのだけど、ぜんぜん結果はだめだった。
あの間抜け王子は、人見知りな欠点もあるから。
だから私は意地悪する事にしたのだ。
架空のお話を作って、「元彼と復縁! 隣国の王子様とくっついちゃいました~。今幸せです~。王子ざまぁ」みたいな手紙も書いた。
長く書くとボロがでるから、偉そうに「分かるとこだけ書きましたよ、デデーン!」、とだいぶ省略したけど、どんなに間抜けでもあれで十分に通じると思う。
だから書き上げたそれを、情けない王子におくりつけてやったのだ。
そしたら、顔を真っ青にした護衛がやってきて、王子が失恋して寝込んでるとか知らせてきた。
だから?
どうして私が好きでもない男を慰めなくちゃいけないのよ。
いい気味よ。
復讐ができたと思えば、笑えるわ!
放っておいてもこれを機に、あの間抜け王子にはかわいい女性が励ましにやってくるでしょう?
そのうち、立ち直るに違いないって。
「あの、あなたと王子との婚約は、まだ解消されていないんですが」
えっ?
あんの間抜け王子、なんでまだ解消してないのよ!
勝手に結んだ婚約が有効状態になってる事も驚きだけど、普通それだけの事があったら解消するでしょ!
私が好きじゃないって言ってるんだから、普通とっとと解消しておくもんよ!?
というか、イチャイチャしてるって手紙送ったじゃないの、私に馬鹿にされてんのよ?
なのになんで、まだ何もしてないの!?
私とあんたとの間には恋愛関係の「れ」の字もないくせに。
なに渋ってるのよ!
それ以来、私はなぜかもやもやしていた。
どうしてか分からないけれど、イライラする日が多くなったのだ。
今までは間抜け王子のアホさぶりに怒っていたけれど、今回のはどうしてなにか分からない。
悩んで悩みきった末に私は、もしかして、とその可能性に気が付いた。
「えっ、私があの間抜けの事心配してるの!?」
それしか思いつかない。
まあ、あんなでも一応子供の頃からの付き合いだし。
不幸になるよりは幸せになってほしいとは思うから。
だから、いつまでも嫁をつくらない王子を心配しているのかもしれない。
「実らない恋なんて諦めればいいのに」
私はすっぱり諦めた。
もう元彼の事なんてなんとも思っていないというのに。
そんなにあの間抜け王子がひきずる性格だったとは。
はぁ、これは顔をあわせて叱ってやった方がいいだろうか。
けれど、そんな暇はなかったらしい。
私が以前お付き合いしていた隣国の王子(イケメンで頭よくて困ったちゃでんもない……と思っていた)が、自分の親、つまり王様に「俺に恥をかかせた女がいる国に向けて戦争やろうぜ」とか言ったらしい。
それで、戦が勃発。
開戦となった。
嘘でしょ!
私が原因?
一応市民達には戦の情報はふせられているし、まだ兵士達が戦うような段階ではないらしいけれど。
各地で災害復興とか、他国の支援活動とかしている兵士達の活動に妨害が入っているらしい。
そんな最中、私は国の内部にもぐりこんできたスパイに捕まって、隣国に拉致られた。
幼馴染の間抜け王子に「命が危ないから、保護する」とか言われてたけど、突っぱねたのがあだになったようだ。
それで、隣国の牢屋に投獄された。
もしかして、死ぬ?
このまま殺されてしまう?
私は、自分の未来を悲観して、震える事しかできなかった。
しかし、状況は一変。
なぜか、私は釈放されたらしい。
ええ?
どういう事?
きょとんとしていたら、隣国の王子(イケメン天才かつ元彼)が事情を説明していた。
「あの浮気の話は嘘だったのだな。疑ってすまなかった。お前はまだ俺の事が好きだったとは知らなかったんだ」
よく分からないが、誤解がとけたらしい。
それなら、良かった。
このまま国に帰らせてもらおう。
と、私はほっとしたのだが。
隣国の王子(兼元彼そしてよく分からない人)は「何を言っているんだ?」と言う顔をした。
「例の話が嘘だったのなら、やるべき事は一つだろう。戦が終わった記念に結婚式を挙げよう」
私は「えぇ…?」という反応をするしかない。
恋愛事で戦をおこすような人への愛なんて、ゼロに等しい。
もうとっくに冷めてるんですけど。
それに、私の言い分をいっさい聞かずに関係を終わらせたときに、恋愛感情はなくなってしまっているのに。
すると、その隣国王子(何か勘違い中)は間抜け王子から手紙の事を聞いたと話してくる。
「復縁したとか仲良く暮らしているとか、あんな手紙を書くくらい、俺の事が好きだったんなんて! 嬉しいよ!」
ちっ、違いますから!
ただ、幼馴染の馬鹿で勘違いで間抜けな王子に仕返ししたかっただけなんですから!
「さぁ、これからは忙しくなるぞ!」
真っ青になっている私を連行するその隣国王子(うきうき状態)。
せっかく牢屋を出られたのに、彼の気分を害する事ができるだろうか。
いや、できない。
私はそのまま、隣国の王宮に住むことになってしまった。
って、嘘でしょ!?
いや、あのもう貴方の事なんて好きじゃないんですけど!!
そして、誤解がとけないまま、およそ一か月がすぎた。。
リンゴーン。
リンゴーン。
教会の鐘が鳴り響く中、私はウエディングドレスに身を包んでいた。
対面には隣国王子(にこにこ状態)。
だめだ、とうとう訂正できずにここまで来てしまった。
神父様が何かお祝い事かなんか言ってるけど、私はまったく気分がさえない、何にも耳に入ってこない。
どうしよう、まったく好きでもない人と結婚なんてしたくないんだけど。
この男もあの間抜け王子と同じで思い込みが激しいみたいだし。
それならまだ、あっちの方がマシだ。あいつは一人でふさぎ込むだけだったし。迷惑をかけるのも私だけだったし。
なんて、思っていたら協会の扉がばあんと勢いよく開かれた。
えっ。
そこにいたのは兵を率いた幼馴染(ただし仮面をつけている)だった。
隣国王子(ご立腹中)が「何者だ!」と言うが、幼馴染の間抜け王子は何も答えない。
唐突にやってきた不法侵入な兵士達は、教会内部に控えていた警備をあっという間にのしていく。
そして、間抜け王子が私をかついでその場から逃走。
私は小声で抗議した。
「ちょっ、ちょっとこんな事してどうすんのよ!」
「大丈夫! 正体はばれてないはず」
「これから捕まってばれたりするかもしれないでしょ! 何考えてるのよ!」
「だって、君が好きなんだ! 嫌だったから!」
私はこの後に及んで諦められない王子に、はぁとため息をついた。
ある意味ぶれない。
「戦争になったら、大変じゃない」
「それでも、君の方が大切だ」
つきぬけてる。
そこまで一途だとは思わなかった。
もう、これは他の嫁なんて見つけられないだろうな。
何となくそう思った。
そうなら、もうしょうがない。
だからお礼に頬にキスをして「いまはそれだけだからね」はっぱをかける。
「せっかく顔隠してきたんだから。最後まで正体不明で逃げ切りなさいよ」
彼は「うん!」と子供の様な声で走るスピードを上げていった。
私はどうやら地元の国のお姫様になるしかないみたいだ。
私は、彼から紙を借りて、さくっと短文をつづり手紙を作成。
そこらへんに倒れていた警備兵の懐にねじ込んでもらった。
頭に思い浮かべるのは、元彼に婚約破棄された時の事。
あの出来事がなければ、あの時私の事を信じてくれていたら。
こうはならなかったのに。
「ごめんなさいね」
「どことも名の知れない小国の人間が私に猛アピールしてきたので。攫われちゃいます」
「探さないでください。遠い辺境の国なので、見つけられると思いませんけど。バイバイ、私に愛されていると思った勘違いの王子様」
知らない間に婚約していたようですが、好みじゃないので諦めてください:意 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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