ちびくろサンボ
絶坊主
第1話
先日、ある結婚式に招待された。私が経営している治療院の患者さんの息子さん(28歳)の結婚式。
その患者さんは、年の頃は私たちと同じくらいのKさんという女性(51歳)。何度か来院され、嫁さんとウマがあったみたいで仲良くなった。
そのうち、旦那さんも施術したり、お子さんも連れてきたりするようになった。結婚する息子さんが、まだ小6、12歳の頃。
その後も治療だけでなく、一緒に食事にも行くくらい親しくなっていた。向こうの家族からも私は“パパ”と呼ばれていた。家族ぐるみでかれこれ16年のお付き合いになる。
こんな出会いもあるのかなと不思議に思う。
その息子さんの花嫁さんAちゃんも結婚式の数日前に来院された。
そして、結婚式当日。今どきの素敵でお洒落な結婚式場。家族4人とも招待して頂き、開式を待っていた。
「パパ!Aが気持ち悪くて吐きそうなんよ!来てくれる?」
Kさんが焦った様子で私たちの席に駆け寄ってきた。
開式15分前。
さぁ~!タクシーで来たから今日は飲むぞ~!なんて呑気に座っていた“静”からの~緊急事態の“動”!
四の五の考える余裕のないまま、花嫁の控え室へ。すでにウェディングドレスに着替えたAちゃんが具合悪そうに青い顔をして座っていた。その側では新郎のMくんが心配そうにいた。
「パパ、ゴメンね。お願いします!」
「ええねん、ええねん!それより大丈夫?」
心配そうなMくん。早速、施術に取りかかる。過度の緊張の為、まずは自律神経を落ち着かせる指先のツボを刺激。首、手のひら、自分の持っている知識を総動員して施術。
10分ほどで落ち着き始めたAちゃん。リラックスさせようと、しばし雑談。
私も何だかんだと20年を越える夫婦。
「夫婦ってね、これから長く続けていくと、大好き、大嫌いをぐるぐる繰り返して・・・」
そして、私がよく例える話。
「ちびくろサンボっていう話あるやんか?あれの虎が木の回りをぐるぐる回って、最後、バターになる・・みたいな。夫婦って、そんな感じかな。」
「え?ちびくろサンボ?トラ?バター?何の話?」
2人とも不思議そうな顔をしていた。私がお馴染みののアレ的な言い方にもピンときていなかった。
「え?ちびくろサンボやん!あのバターになる話、知らん?」
首を傾げる2人。
「お姉さんは知ってますよね?」
控え室には、新郎新婦、私、あと、結婚式場のスタッフの女性(ギリギリ40くらいか?)がいた。あー世代が違うからかな?と、新郎新婦よりも少し年齢が上そうな女性スタッフに問うてみた。
「・・・いや~知らないです。」
おーーい、何やねん、このアウェー感!
「・・ま、まぁ、禍福は糾える縄の如しって感じかな。」
「あーそれなら知ってます。そういう事ですね。」
最後はカッチカチの諺で何とか乗りきった私。控え室に笑いが起きて、無事、新婦もリラックス。これが1番効果があったのかもしれない。
そして結婚式が執り行われた。チャペルに皆が座り、花嫁花婿入場。
事前に皆、花を一輪づつスタッフから渡されていて、それを新郎が皆からもらっていく。後にわかったんだけれど、それらがまとめられ、新婦の持つブーケとなるという意気な演出。
人前結婚式らしく、司会者が見届け人の名前をアナウンス。
「それでは見届け人の・・・エレジーさんご夫妻、ご署名をお願い致します!」
「え~~聞いてないよーー!」
ダチョウ倶楽部ばりのリアクションをとり妻と二人壇上へ。
なんというサプライズ!
さながら仲人的な位置付けというところか。嬉しすぎるやないかい!
その後の披露宴でのビデオ上映。
お父さんのいないAちゃん。お母さんは仕事に追われていた為、おじいちゃんおばあちゃんに育てられていた。映像の中の写真、Aちゃんの幼い頃、一緒に写っているおじいちゃんおばあちゃんは若かった。でも、披露宴の席に座っているおじいちゃんとおばあちゃんは年月が経ち年老いていた。
写真のおじいちゃんおばあちゃん、黒髪だったのが席に座っているおじいちゃんおばあちゃんは白髪になっていて、おばあちゃんは車椅子に座っていた。
あ!あのおじいちゃんおばあちゃんか・・と席に目をやると、手塩にかけて育てた孫の結婚に感極まっていたのかハンカチを目に押し当てていた・・・
もう、そんなん見たら泣いてまうやろーー!って、妻も泣いてんのかなぁと、向かいに座っている妻を見ると・・夜叉みたいな顔をして本意気で泣いていた。不謹慎ながら少し笑ってしまった。
Mくんもイタリアン料理屋のシェフとして頑張っている映像を見て、小学生だった子が立派になったものだと、また、涙を誘われるし、向かいで妻は相変わらず夜叉だし。(笑)
最後、チャペルの2階に上がった新郎新婦。私たちは表に出て下さいとの事で、何が行われるのかな?と思いながら外に出た。
どうやら花嫁が、あのブーケを階下の女性陣に投げるとの事だった。後で聞いたら、花嫁のAちゃんは私の娘目掛けて投げてくれたとの事だった。
たくさんの女性陣の中で、私の娘もスーパーマリオよろしくジャンプしてブーケを取りにいったところ・・・・・・頭に直撃!(笑)
見事に命中し、束ねたブーケがバラバラになり、複数の女性で花を分けあっていた。回りでは笑いが起きていた。流石、我が娘!もってるな~!と感心してしまった。
後日、Mくん、Aちゃんが施術に来て、聞いた話によると、私の隣に座っていたMくんの友人が私の事を「隣の人、めちゃくちゃ酒飲んでたよ」と言っていたらしい。
通りで妻や子供たちから「アンタ、顔真っ赤っかで赤鬼みたいやで、大丈夫?」と、しきりに聞かれたわけた。
ま、それだけ嬉しかったんだろう。
しかし、久々に笑いあり、涙ありの感動する結婚式だったな~。
Mくん、Aちゃん!末長くお幸せに!
因みに、ちび黒サンボをWikipediaで調べると、差別的表現が含まれているとの事で、一斉絶版問題に発展したとの事。だから、若い世代は知らないのだろう。
ちびくろサンボ 絶坊主 @zetubouzu
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