第19話 冒険者募集2

ネオ人材派遣会社田中マックスのミーユはマッカサス王国の戦士の面接を行っていた。一度に大勢が国を離れられないということで、転移門を使って一人ずつ面接をする運びとなった。



「お名前をお願いします」

ミーユはノートを開いて質問を開始した。


「俺の名はジョバンだ」

背の高いガタイのいい青い鎧のおじさんはミーユにそう答えた。


「マッカサス国の所属の剣士と聞いていますが間違いないでしょうか?」


「ああ、そうだが、ただの剣士ではないぞ。マッカサスが誇る三剣士の一人だ。凄腕ということだな」

ジョバンは誇らしげに言った。


「なるほど、わかりました」


「冒険者に登録する目的は、ラッセンソンさんに聞いた通り、軍資金を稼ぐためと仲間集めのためということで間違いないでしょうか?」


「それもあるが、身を鍛える目的もある。国にいるとモンスターを倒す機会が限られるからな」


「ふむふむ」

ミーユはノートにメモを取った。


「お使いの武器はどのようなものですか?」


「剣士だからな。当然剣を使う。この名剣ライドギアでどんなモンスターも一刀両断にしてやるさ」

ジョバンは立ち上がって剣を抜いて見せた。


「なるほど」

ミーユは感心しつつもどんなモンスターもとはちょと言いすぎじゃないかなと思っていた。


「すごいのは剣だけではないぞ、コォッオーの青鎧にニブンの兜、ホイドンの手甲にルマーサスの鋼靴だ」

ジョバンはそのすごさを話したくて仕方がないという風に話した。


ミーユは男の人は装備品を自慢するのが好きな人が多いのかなと思った。


ジョバンは装備品のすごさを詳しく説明したが、ミーユは半分聞き流していた。冒険者ではないミーユにはそれらのすごさがわからなかったからだ。


「歳は48歳だ」

ジョバンは話の途中で言い忘れていたと言わんばかりに年齢を教えてくれた。一応未成年かどうか知るために年齢は必要な情報ではあるのだが、どっからどう見ても未成年ではない人からは特に年齢を聞かなくても困らないのだが。


「妻子もいるぞ」


ミーユはまぁその年なら驚くこともないなと思った。この後少々奥さんの自慢話を聞かされた。



「あとでモンスターを倒していただきます。それで力量を測らせていただきます」

とミーユは言った。


「おお、わかった。モンスターなぞ、100でも200でも切ってやるさ」

ジョバンは自身満々でそう言った。早く実力を見せたくて仕方がないという風だ。


ジョバンには会社の説明をしたあと、モンスターを倒してもらうことになった。


勇者を募集した時と同じく、ゴブリン100匹か、ミノタウロス1匹か、メデューサ1匹かという話になった。ペガサスの捕獲の話もあったのだが、モンスターを倒す方がいいと言って、早々にペガサスは断られた。


「パーティーなんて必要ねえ。この程度俺一人で十分よ」

そう言ってジョバンは転移門から旅立っていった。


2時間後、ジョバンは戻って来た。

計測器を調べるとミノタウロスを16匹を倒していた。


「もっとモンスターがいればもっと倒せたがな、いなくて残念だった」

とジョバン言った。


「ミノタウロス1匹18万円で16匹で288万円です」

ミーユは報酬を渡した。


ジョバンは報酬を受け取って、愉快そうな顔をした。

「モンスターを倒して金がもらえるというのはなかなか面白いものだな」


ジョバンはマッカサスの軍人なので、特に強いモンスターを倒した時にたまに特別褒賞があるだけで、普段はモンスターをいくら倒しても給料は変わらない。

モンスターを倒せばそのまま金になるというのは彼にとってなかなか面白い制度のようだ。


「何はともあれ、これで魔王関係の仕事をするときには、金が稼げて、情報も手に入るわけだ」

ジョバンはこれからが楽しみだと言いたげだった。


「そうですね。魔王関係のお仕事をこなせる人材は貴重ですし大歓迎です。ジョバンさんのように名のある戦士にはどんどんうちで登録いただきたいですね」

とミーユは言った。


「まぁ安心しな、あとで来る俺以外の三剣士も実力は俺と同じくらいだ。いや少し俺の方が上だがな」

ジョバンは自分が勝っているとつけ加えた。そういう性格なのかもしれない。


ミーユは一応ノートにメモしておいた。


三剣士というからどんなに癖のつよい人だろうと思っていたら案外あっさりした人だった。


ジョバンはマッカサス国へと帰り、交代して今度はステンドがやって来た。



「ジョバンは粗相をしませんでしたかな?」

白い鎧に白い髪と髭で、ジョバンよりも長身のおじさんステンドは言葉とは裏腹にジョバンが何かをやらかしていないかと期待していた。


「特にございませんでした」

ミーユは特に面白味の無い答えをした。


ミーユとステンドはお互いにこんにちはと挨拶をして話を始めた。


「それで、今日はどんなことを聞かれるのかな」


「ではまず、お名前からお願いしたします」


ステンドはもう知っているだろう? と首を軽く傾げたがその疑問は口には出さずに名を名乗った。


「名はステンドだ」


「はい、ステンドさんで間違いないですね」

ミーユは書類に名前の間違いがないことを確認した。


「職業は剣士で間違いないでしょうか」


「ああ」


「冒険者に登録する目的は、軍資金を稼ぐためと仲間集めのためということで間違いないでしょうか?」


「ああ、間違いない。ジョバンはなんと答えた?」


「その目的の他に、身を鍛えるためだとおっしゃっていました」


「なるほどそれはいい考えだ、私もそうしよう」


ミーユはノートにメモした。


「それでは使う武器はなんでしょうか?」


「剣だ」


ステンドは剣を鞘から抜いて見せた。かなり長い剣だ。


「名剣シナソウスという。どんなモンスターでも私の技で切り裂いて見せる」

ステンドは自信ありげに答えた。


ミーユは、この人もと言うなぁと思った。


「防具の説明もいるか?」


「一応聞いておきます」

防具の情報は盗難や紛失時に捜索用に必要なくらいで、冒険者の登録には直接必要なかったが、ステンドが話したそうなのでミーユは一応聞くことにした。


ステンドは剣を鞘に納めてから防具の話をし始めた。


「これはクライドの白鎧だ。高い防御力をほこる。これはマールンの手甲だ。ハーゲッテルの鋼靴、どれも軽くて動きやすいのに高い防御力がある。名品だ。そしてこれはセルダンソンの兜だ」


「武器や防具の名前って、どうやって決まっているんですか?」

ミーユはつい聞いてしまった。


「だいたいは鍛冶屋の名前がついているな。有名なものになると使用者の名前がついていることもある。それ以外だと鍛冶屋が何かを思って付けているな」


「なるほど」


「魔王軍の幹部や魔人はやはりお強いんですか?」


「ああ、この前倒したやつもかなりの強敵だった。悔しいが、一人では勝てなかっただろう」


ステンドは険しい顔で言った。


「それほどの相手ですか」


「それほどの相手だ」

ステンドは決して魔王軍を侮ってはいなかった。


「魔王軍の幹部とか魔人とかってどのように決まっているのでしょう?」


「さあな、詳しいことは知らぬが、魔人は生まれついての強力な力を持っている。それ単独でも強いのが魔人だ。魔王の血から生まれているのだから魔王の血縁者と言ったところか。たいして魔王軍の幹部というものは実力でのし上がった者と考えればいい、リザードマンだろうがスケルトンだろうが詳しくはわからんが種族は様々だろう。そして部下がいる。軍団を持っているのが幹部で、個人で遊撃をを行うのが魔人と考えればわかりやすいだろう。あくまで憶測だがな。魔王軍の詳しい内部事情などは人間は誰も知らぬのだから」


「それもそうですね」

とミーユは納得した。


「それはそうと、エルエ殿には我がマッカサス王国に駐留いただけないだろうか?」

ステンドは話題を変えた。


「どうゆうことでしょう?」

ミーユは首を傾げた。


「対魔王軍最前線のマッカサス王国はいつ魔王軍の襲撃を受けるともわからん。扉政景とびらまさかげどのの協力もあって敵は転移を使えぬが、飛行や徒歩で近づいてくることもある。こちらから強敵の居場所がわかっていれば、迎撃も進撃も思いのままというわけだ。とは言えどちらにしても戦力は必要だ」


「急に戦力を集めなくてはならないときでも、判断は早い方がいい。そのために魔王や魔人や幹部級の位置を把握できるエルエ殿には我が国にいてもらいたいのだ」


「なるほどそういうことでしたか。私だけでは決められませんが直接エルエさんに打診してみましょう」

ミーユは現代型の携帯電話を取り出してエルエの連絡先を探しながら話した


「エルエさんの調査能力なら魔王関係の情報も多く集められるでしょうから、エルエさんへの依頼料は各世界の政府で共同で支払われる可能性もありますね」


「それはありがたいな。軍事費はできることなら、少しでも多くの戦士を雇うのに使いたいところだからな」


「エルエさんへ、マッカサス王国のステンドさんから、マッカサス王国への駐留の打診がありました。可能でしたら正式に依頼の形をとりたいと思います。ミーユ。送信っと」


ミーユはエルエへの文章を送信した。


ピロン


すぐに返事が返って来た。

「可能です。詳しいお話を聞かせてくださいませ。よろしければネオ人材派遣会社田中マックスにすぐに伺います」



「可能だそうです。それで詳しいお話を聞きたいらしいです。すぐにここへ来れるそうですがお呼びしてもよろしいですか?」

とミーユは質問した。


「それは願ったりかなったりだ」

とステンドは答えた。


「今、こちらにステンドさんが来ていますが、ステンドさんもお話がしたいそうなので、ぜひ弊社へお越しください。お待ちしております。送信」


ピロン


またすぐに返事が返って来た。


「かしこまりました。すぐにまいります」




「お待たせいたしました」

エルエが扉を開けて部屋に入って来た。


「いらっしゃいませエルエさん」

そう言ってミーユはエルエを出迎えた。


「これはエルエ殿よくぞ来てくださいました」

ステンドも立ち上がってエルエを歓迎した。


「私のことはエルエさんでもエルエ殿でもなく、親しみを込めてエルエとお呼びください」

エルエには何かこだわりがあるらしい。


「わかりましたエルエ」

ミーユは承諾した。


「それではエルエ、マッカサス王国に駐留してもらいたい件についてだが、こちらが素早く動くためには、敵の位置を常時知っておきたい。迎撃でも進撃でもだ」

ステンドは簡潔に述べた。


「わかりました。現在最も魔王軍と衝突する可能性の高いのはマッカサス王国で間違いありません。人類の悲願、魔王討伐を果たすためにもご協力いたしましょう」

エルエは素早く理解して承諾した。


「私への依頼料については、魔王関係の業務ということで、各世界の政府から共同で拠出きょしゅつされるように手配しておきます」


「そこまでやっていただけるなんて、非常に助かります」

ミーユは感激した。


「ただ、稼働時間の関係で常駐はできませんので、166NA通称イロロンとの交代でお仕事をさせていただくことになります」


「イロロンさんですか?」

ミーユは少し不安に思った。


「私達AIに敬称はいりません、イロロンに不安を感じる気持ちご理解いたしますが、あの子も魔族は嫌いですから魔王討伐のための仕事はきちんとこなすはずです」


「わかりました」

とミーユ


「そのイロロンというのは?」

ステンドはイロロンのことがわからずに聞いた。


「私と同じくAIプログラムで私とほぼ同じ能力を持つ者です。イロロンとは作られた目的と形式が異なりますが、あの子は私を姉と慕っておりますので、私も妹のように思っております」

エルエは丁寧に説明した。


ステンドはイロロンの性格のことは知らなかったが、それならば問題ないだろうと思った。


「性格に少々問題がある子ですが…人間と触れ合ううちに、ちゃんとした人間の心を持ってくれるはずです」


エルエは、イロロンの問題点を一応説明したのだが、ステンドは特に気にしていなかった。

エルエの丁寧な性格を見ている人間にとって、その妹と言われれば無条件に信頼してしまうのも無理はない。


メンテナンス時期はエルエは駐留できないのだから、どのみちイロロンとの交代を断る選択肢などはない。


「君がそう言うならそれを信じよう。君と妹ともども世話になる」

ステンドはそう言ってエルエに握手を求めた。


「はい。こちらこそよろしくお願い致します。精一杯働かせていただきます」

とエルエは握手に答えた。


エルエは移動の準備があるからと帰って行った。



「ステンドさんの面接中ということでしたが、ステンドさんの実力はすでにわかっているので、モンスター討伐は無しで構いませんね?」

ミーユがそう言うとステンドは首を横に振った。


「せっかくの機会だ。やらせてくれ。軍資金も稼ぎたいしな」

ステンドは真面目に言った。


「わかりました。それでは冒険者としての力量を測らせてもらいます」

ミーユはそう言うと、いつものように討伐候補を説明した。


「ジョバンはどれを選んだんだ?」

ステンドはジョバンについて聞いた。


「ジョバンさんはミノタウロスの討伐ですね」


「結果は?」


「2時間でミノタウロス16匹です」


「なるほどなぁ。それでいくらになる?」

ステンドは自分の白い髭を撫でながら聞いた。


「288万円です」


「2時間でそれか。私たちの世界の通貨に換算しても結構なものになるな。冒険者というものはやはり儲かるらしいな。よし、私は2時間で17匹は倒してこよう」



ステンドは転移門をくぐって出発した。



そして2時間後本当に17匹のミノタウロスを倒して戻って来た。


「まあ、こんなもんだろう。もう少し余裕はあったが、ジョバンよりも多く倒しておけば十分じゅうぶんだろう」



「18万円が17匹で306万円です」

ミーユはステンドに報酬を渡した。


「ふむ、この金額でどれくらい人を雇える?」


「初級の冒険者でしたら丸一日で100人くらいです。中級なら10人ほどです。上級ですと1人を2~3時間程度ですかね」

ミーユはだいたいの答えを出した。


「ふむ、その計算だと私は上級者ということか」


「そうですね」


「私を同じくくらいの力量の物を雇おうと思えば、まるまる私の働きとほぼ同じというわけか。やはり軍資金は足りなくなりそうだな。しかし、金で戦力を雇えるのは大きいな」

ステンドは真面目に考えていた。



「私も暇なときは積極的に仕事をさせてもらおう。そろそろ交代の時間だな。私は国へ帰るとする。それではお嬢さんまた会おう」

ステンドは手を軽く上げて別れの挨拶をした。


「はい、よろしくお願いします。またのお越しをお待ちしております」


「ああ、近いうちにな」

そう言ってステンドは転移門をくぐって行った。



「よぉー来たぜ―」

ステンドに代わってやって来たのはモジャモジャ頭と髭でガタイのいい、黒い鎧を着たおじさん、エイダンだった。身長はジョバンよりは低いようだ。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」


「おー、おー、こんな美人のお嬢さんにお待ちされていたとは光栄だね」

エイダンは大きな身振りでミーユに近づき握手の手を差し出した。

ミーユがその手を握ると、エイダンはさらに両手で強く握った。


「ところでお嬢さん、彼氏とかいるの?」

エイダンはぶしつけに聞いた。


「お仕事と関係ない話にはお答えいたしません」

ミーユは毅然とした態度でその話を打ち切った。


「つれないねぇ」

エイダンは椅子を逆向きにして座ると、背もたれに腕を乗せてもたれかかった。


「面接をはじめさせていただきます!」


「はいよ」


「まずはお名前をお願いいたします」


「マッカサスの三剣士が1人エイダンだ」

エイダン威厳を持って答えた。


「エイダンさんですね」


「登録の理由としてラッセンソンさんに聞いているのは、軍資金を稼ぐためと仲間集めのためということでよろしいでしょうか?」


「ああ、いーよー。ラッセンソンがそう言うならそれでいい」

エイダンはまた、だらりと姿勢を崩して適当に答えた。


「ああ、そうだ、それと可愛い女の子と出会いたいからってのも足しておいてくれ」


ミーユはこの人がこれで凄腕の実力者だというのはちょっと信じがたかった。


「ちなみに歳は44だ」

ミーユにとっては特にいらない情報だったが一応メモしておいた


「はぁ」


「使う武器はどのような物でしょうか?」

ミーユはエイダンに扱う武器について聞いた。


「この名剣ホルビットに切れぬものは無しだ。どんなモンスターでも切って見せるぞ」

エイダンは剣を抜くと斜めに掲げてれてみせた。


この人もと言うんだなとミーユは思った。



「防具は…」

エイダンは続いて聞いてもいないのに防具の説明に入った。


この人もかと思ったが、ミーユは止めることなく続きを聞いた。


「このバーテルの黒鎧は防御力がとても高いぞ。こいつはモイゴンの手甲だ。モイゴンに頼み込んで作ってもらったんだ。軽くて丈夫だ。そしてシャバルの鋼靴だ。防御力はもちろん素早さの補正もしっかりある。最後はエタナフティの兜だ。こいつはとびっきり丈夫にできてる」

エイダンは楽しそうにこれらを語った。



ミーユは一応ノートにメモしておいた。


「他に俺から話しておくことはあるのかい?」

エイダンはミーユに聞いた。


「いえ、ありません。他の冒険者ですと、弊社の説明をしてから、モンスターを倒してもらって実力を測って終わりです」


「それだけか? もっと武勇伝を聞くとかないのか?」


「ええ、口がうまい人がたまにいますが、実力が伴わないことも多いので、その点モンスターを倒してもらえば実力はわかりますから」


「なるほどなぁ…」

エイダンは顎鬚あごひげをなでながら首を左右へ傾げた。


「それじゃあモンスター退治するとしよう」

エイダンは張り切って立ち上がり剣を抜いて方にかついだ。


「いえ、エイダンさんは先日のクエストでの実績がありますから、モンスター退治はしなくても大丈夫です」


「なんだぁ、そういうもんかぁ。ジョバンやステンドもモンスター討伐はしなかったわけか?」


「いえ、ジョバンさんはもともとやってもらう必要がありましたし、ステンドさんはジョバンさんよりもモンスターを倒すといって、討伐をやりました」


「それなら、俺もやらねーとな」


ああ、やっぱりこうなったかとミーユは思った。今日はマッカサス王国の登録者だけなので、半日ほどで終わるかと思ったが、ステンドに続きエイダンも討伐に行くとなると結構時間がかかってしまうなぁ。


「それで、あいつらの成果はどんなもんだった?」


「ジョバンさんがミノタウロス16匹、ステンドさんはそれならばと17匹を、二人とも2時間で倒しました」


「よぉっし、それじゃあ、俺はミノタウロス18匹だな。お嬢さん案内してくれや」


ミーユはエイダンを転移門のある部屋まで案内した。


「そいじゃ行ってくるぜ」


エイダンは脇に抱えていた兜を被ると転移門をくぐって行った。



2時間後エイダンは戻って来た。

「やったぞ18匹だ」

エイダンは満面の笑みで笑いながら兜を脱いだ。


ミーユは計測器をチェックすると確かにミノタウロスを18匹倒していた。



「報酬は18万円が18匹で324万円です」


「おうおう、ありがとうよ。これで酒でも買うかなぁ?」


「お酒ですか?」

怪訝な顔のミーユは冒険者はもっと装備品とかにお金をかけたがるものかと思っていた。


エイダンはミーユの表情から察してそれ以上酒の話はしなかった。

「それじゃあもうやることはねえな?」


「はい、お疲れさまでした」



「クラスアのやつは来なかったみたいだな」

エイダンはクラスアのことを気にしているようだ。


「そうですね。クラスアさんは今日は来ないのかもしれませんね」

ミーユは特にクラスアが来ない理由を聞いていなかったのでそれ以上深く話すことはできなかった。


「会ったらよろしく言っといてくれや」


エイダンからの依頼をミーユは承諾した。

「はいかしこまりました」


エイダンは転移門を通ってマッカサス王国へと帰って行った。



しばらくして、若いひょろっとした男が転移門をくぐってやって来た。マッカサス王国からの本日の登録者の最後の一人だ。


「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

ミーユがそう言うと男はああと答えた。


「こんにちは」

男はあたりをキョロキョロ見回していた。


場所を転移門のある部屋から面接室へと移した。


「ではお名前をお願いいたします」


「タイボーと言います」

タイボーは部屋の中が珍しいのかあたりを見回している。なんだか落ち着かない様子だ。


「それではご職業をお願いいたします」


「マッカサスの参謀です」

タイボーは緊張して答えた。


それを見たミーユはタイボーに直接聞いてみた。


「タイボーさん。緊張していますか?」


「はい、緊張してます」


「あまり緊張なさらなくても大丈夫ですよ。ラッセンソンさんから一応のお話は聞いていますので、不採用ということはありませんので」


「はあ」

タイボーは緊張のためか気のない返事をした


「ちなみに歳はおいくつですか?」


「17です」


「ずいぶんお若いですね」


「そうですか? 軍にはもっと若いのもいますし、冒険者も結構若いころからやってる人が多いって聞いてますけど」

タイボーは椅子にきっちりと座って握りこぶしを両ひざの上に置いている。やはり緊張しているようだ。


「ああ、いえ、参謀という地位の割にはお若いなぁと思いまして」


「ああ、それですか、軍に入って、あれをやれこれをやれと言われて、言われたことをやっているうちに何だがどんどん昇格してしまいまして、気づいたら参謀になってました。まぁ、参謀は肉体労働が無いだけいいですけど」

なんだかタイボーはあまりやる気が無いようだ。覇気がない。


「それは、大変でしたね」

とミーユは愛想笑いをした。他人の苦労などは他人にはわからないのだ。


「ええ」

とタイボーは答えた。


「参謀というお仕事はどんなことをするんですか?」


「作戦立案に、軍団指揮に、兵士の指導に、昼寝、あとは仕事を丸投げすることかな」


なんかおかしいのが混ざってた気がするが聞き間違いかな?とミーユは思った。


「なるほど、なんとなく大変そうですね」


「ええ、それが本当に大変なんですよ。次から次へと仕事が来るし、軍師殿とか王とか他も偉い人と話さなきゃならないし、本当に疲れますよ。唯一の心のオアシスである昼寝も見つかると怒られるからコッソリやらないといけないしで…ブツブツ」


タイボーは早口で、仕事の不満を述べているようだ。途中から声が小さくなってよく聞こえなかった。


ミーユはあまり面接の内容とは関係ない話だと判断して、面接を続けた。


「どのような武器を使いますか?」


「武器は一応持ってるだけで使いません」


「そうなんですか? そちらが?」

ミーユはタイボーの腰にぶら下がった剣を見て尋ねた。


「ナックルガードのついた普通のブロードソードですよ」

タイボーは鞘ごと外してミーユに渡した。


ミーユは剣を少し抜いてみたが真新しいものだった。


「剣は重いから持ちたくないって言ってるのに、恰好がつかないとかいざという時のそなえだとか言って持てって言われるんですよ。参謀が剣を抜かなきゃならない時なんて、もう敗北が決してるときなんだから意味ないのに。ラッセンソンさんみたいに戦場に立つわけでもないのに」


タイボーはなかなかストレスの多い人間のようだ。


「はあ」

ミーユはわかったようなわからないようなと言った面持ちだ。


「あとは何か聞くことあります? 無いなら寝ていいですか?」

タイボーはもう寝る準備に入りそうだった。


「聞くことはります」

ミーユはタイボーが寝る前に言葉を発した。


「なんですか」


「冒険者になる動機などを皆様に聞いております」


「えー。冒険者になんてなりたくないよぉ。城の仕事だけでも忙しいのに、外の仕事にも駆り出されるだけだよぉ」


「ラッセンソンさんからは軍資金を稼ぐためと仲間集めのためと聞いていますが違うんですか?」


「参謀が軍資金を集めるっておかしいと思うんですけどぉ、まぁいいやそれでいいです。動機はそれにしておいてください」



「はぁ」

ミーユは仕方なくうなずいた。


「これでもう終わりですか? 帰っていいですか? 帰る前に寝てっていいですか? いいですよね?」

タイボーの早く終わって寝たいという強い意志が伝わって来た。


「まだ終わりじゃありません」


「まだ何かあるんですか?」

最初の緊張はどこへやら、結構ふてぶてしい態度だった。


「冒険者の実力を測るため、モンスターを倒してもらっています」


「ああ、無理ですね。モンスターとか強くて倒せません。不合格にしてください」

タイボーは完全にやる気0だった。


「そうはいきません。ラッセンソンさんに今日は凄腕の冒険者たちを送ると言われています。冒険者として登録することを約束していますから、せめてモンスターに挑んでもらわないと」



「しょうがないなー」

タイボーは渋々承諾した。


「では転移門から移動しましょう」


ミーユはタイボーの袖をつかんで引っ張って転移門のある部屋へと連れてきた。

そして転移門の部屋から彼を見送った


「じゃあ、一応行ってきますね」


タイボーが転移門をくぐってから5分後彼が帰って来た。


速い。やはり参謀になるほどの実力はあったのだろうか?



ミーユは早速計測器を調べた。

「タイボーさん討伐数…0。え? ゼロ?」


「イヤー、モンスターとか強くて無理でしたわー、ああ、残念、残念」

タイボーは全く残念ではなさそうな笑顔でそう言った。


「そもそもバッファーにモンスターと戦えとか無理な話しだし。しょうがない、しょうがない」


ミーユがなんと声をかけようか迷っていた時、遠くから大きな声でクラスアの声がした。


「こんにちはー」

その声のあとすぐにクラスアがやって来た。

「ミーユさん、エイダン達は?」


「げぇ、クラスア」

タイボーは見たくはないものを見たという反応をした。


「エイダンさんとジョバンさんとステンドさんならもう帰りましたよ」

ミーユは親切にクラスアに教えてあげた。


「ウワー遅かったかー、そしているのはタイボーだけかぁー」

クラスアは残念そうだった。


「ミーユさん今はどうゆう状態?」


「タイボーさんの冒険者としての力量を測るためにモンスターを倒しに行ってもらったんですが、モンスターを倒さずに戻ってきたところです」


「倒さなかったんじゃない、倒せなかったんだ」

タイボーは必死に取り繕おうとしたがクラスアはお見通しだ。


「そんなこと言って。ゴブリンくらいなら倒せるでしょう?」


「100匹だぞ、めんどくさいじゃないか」

ついに本当の理由を言った。


「それに僕はバッファーなんだ。モンスターと戦闘させようという方が間違っている」

タイボーは力強く演説した。


「確かにラッセンソンと違って本人が高度な戦闘できるわけじゃないけど、それにしても手を抜きすぎよね」

とクラスアは言った


「ミーユさん、バッファーの冒険者はどれくらいできれば冒険者として認められるの?」

クラスアはミーユの方を向いて質問した。


「そうですね。本来ですと本人の討伐実績が欲しい所ですが、バッファーだと言い切られてしまえば…パーティーで討伐目的のモンスターを倒せれば合格といったところでしょうか」

ミーユは人差し指を頬に当てて首を傾げた。


「わかったわ。私がこいつとパーティーを組んで討伐をやってくる」

クラスアはもうやる気満々だ。


「クラスア、余計なことはするな。俺は今、高度に寝られた戦略によって冒険者として不合格になるところなんだ」

タイボーはクラスアを止めるのに必死だ。


「高度に寝られた? 寝ることばっかり考えているなら少しは国のために戦略を考えなさい」


「ただの言い間違いだろう高度に練られただよ」


「ミーユさんどれくらいモンスターを倒せばいいの?」

クラスアはもうタイボーの話を聞いていない。


「クラスアさんたちを募集した時と同じように、ゴブリン100かミノタウロス1かメデューサ1ですね。ペガサスの捕獲でもいいですよ」

とミーユは言った


「手っ取り早いのはミノか。1と言わず100倒せると言いたいところだけど、面倒だから1匹で終わらせるわよ」

クラスアはタイボーの後ろ襟をつかんで転移門へ向かった。


「うわー、やめろー」


クラスアとタイボーは旅立った。


3分後クラスアとタイボーが戻って来た。


「終わったわよ」

クラスアは計測器を付けた腕をミーユの方に出して見せた。


「確認しました。ミノタウロスの討伐1ですね」


「これでタイボーも冒険者ね。しっかり働いてラッセンソンや三剣士や国王を助けるのよ」

クラスアは両手を腰に当ててタイボーにそう言った。


正直なところ、クラスアが強すぎてタイボーがバッファーとして機能していたのかどうかわからないが、パーティーでミノタウロスを倒してきたのは事実なので、一応タイボーを冒険者として登録することにした。


「ミーユさん、安心してこいつ自身はやる気ないけど、バッファーとしてはちゃんと機能するわよ。それも一流のね。さすがにラッセンソンには負けるけどね」


「わかりました。クラスアさんがそういうのなら信じましょう」

ミーユはタイボーの冒険者登録を開始した。


「はい。タイボーさんの冒険者登録は終わりました」

ミーユはにこやかにそう言った。


「なんてことだ、これで城の中の仕事だけでなく、外の仕事もしなくてはならないじゃないか」

タイボーは悲壮感にあふれていた。


「そんなこと言って、外の仕事もさぼるんでしょう?」


「そんなわけない。バッファーはいるだけで仕事してるんだ…そうだ。外仕事を増やせば中の仕事ができなくっても仕方ないな。うん。そうだろう?」


「こいつ外仕事を適当にやってその分中の仕事をサボる気ね」

クラスアはすでにタイボーをさぼりの犯人のように扱っている。


「ミーユさん。ラッセンソンにしっかり言っておいた方がいいわ。さぼると仕事の量を増やすようにって!」

クラスアはミーユに言った。


「そうですね。マッカサス王国は対魔王の最前線ですから、どこかにほころびがあってはいけないですね。ラッセンソンさんには今日の出来事を含めしっかりと伝えておきます」

ミーユは気を利かせた。


「鬼だ。鬼がいる」

タイボーはミーユを鬼といった。


ミーユはそんなことは気にもとめず、タイボーについて最初の印象とは違ってかなり砕けた人物だなと思った。


「では報酬の方ですが、ミノタウロス一匹で18万円ですがどうしましょう?」


「そんなに金を貰えるのか?」

とタイボーは驚いたようだ。


「これは軍をやめて正式に冒険者になった方がいいのかも」

タイボーは次のキャリアアップを考え始めてしまった。


ドス

クラスアの軽め(クラスアにとっては)のボディーブローがタイボーを襲った。


ゲフ


「バカなこと言ってないでさっさと帰りなさい。お金は私がもらっておくわ」


「そんな横暴な」


「真面目にモンスター退治をやらなかったばつよ。それともラッセンソンか、むしろ国王を経由して渡してもらおうかしら」


「バカなことを言うな。そのくらいの金額で余計なストレスを増やそうとするんじゃない。金はやる。僕はもう帰るぞ」

タイボーは今すぐにでもここから離れたいと言わんばかりだ


「変なのには会ったけど、他のみんなと会えなかったのは残念だったなー」

とクラスアは言った。


「エイダンさんからクラスアにあったらよろしくと伝言がありましたよ」


「そうかぁ、エイダンからよろしくかー。エヘヘ」

クラスアは他の人には理解できない謎の笑いを繰り出した。


「それじゃ面接も終わったことだし、気分を変えて僕はここで寝てから帰るとしよう」


「今すぐ帰りなさい」

とクラスアにタイボーは転移門へ放り込まれた。



「クラスアさん今日は何をしてたんですか? 今日は彼らが来る日だと知ってましたよね?」とミーユ


「モンスターを倒してた。モンスターを倒すのが楽しくって次から次へと倒し続けてたら、こんな時間になっちゃたの」


ミーユは言葉にはしなかったら、この子は結構な戦闘狂だなぁと思った。


「それじゃ私も帰るわね」


クラスアは手を上げて別れの挨拶をすると転移門を通って帰って行った。


「今日はなんだか騒がしい一日でした」


こうしてこの日のミーユの仕事は終わった。また明日の冒険者たちはネオ人材派遣会社田中マックスを賑わせてくれることだろう。

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