第10話 マッカサス王国

魔王による領土拡大により各世界各地に被害が及んでいる。先日の魔王軍の侵攻によりついにマッカサス王国の隣国の首都が滅びた。元隣国の残った地も魔王軍に占領される日も近いだろう。



「ついに我らも魔王軍との領地を接することになってしまったか」

男は嘆かわしくも怒りに満ちていた。その男はマッカサス国の国王であった。



「そしてその魔王軍がいったいどうやって戦っているのかも知りえる情報が無いのはいかんともしがたいな」

魔王軍の襲撃のあとはただ焼野原が残るのみで生存者がまったくいないのだ。目撃者がいないのであれば魔王の戦い方がわからないもの致し方ないことだ。



それでも魔王討伐の手がかりを得るためにも、調査を怠るわけにはいかない。きっと今回の占領された土地にも生存者はいないことだろう。


「三剣士を呼べ」


王は従者の者に三剣士を呼ぶように命じた。




マッカサスが誇る三剣士は、人間の中でもかなりの使い手で魔物の侵攻をたびたび防いできたツワモノである。しかし彼らも直接魔王と戦ったものはいない。想像するに魔王とはやはり相当強力なのだろう。


「王よ、お呼びですか」

高身長の鎧姿の男が3人そろってやってきた。その中で先頭にいた黒い鎧の男が言った。


「隣国の首都が落とされ、いよいよ魔王軍と隣接する時期も近いわけだが、まずは、魔王軍に焼かれた村々を調査だ。魔王の情報を得られるような手がかりが何かあればよいのだがな」と国王は言った。


「は、王よ直ちに調査隊を結成いたします」と青い鎧の男



「すでに魔王軍によって落ちたとなると、危険は避けられないな…誰が行く」と白い鎧の男が言った。



「俺が行く」と黒い鎧の男



「よかろう、しかし、今までのように突発的な戦闘ではない。敵地に向かうとなればそれなりの戦力が必要だろう。残るのは一人でよい。それと異世界の冒険者に協力を仰ぐのだ。戦力になるものはもちろん、調査能力に優れたものの助けを借りてな」



「は、ではわたくしが参りましょう」と白い鎧の男が言った。



「うむ。魔王軍とは縁遠い地上界は魔王の影響をほとんど受けてはいないらしい。そこに勇者が集まる企業とやらがあるらしい。詳しい話はラッセンソンに聞くとよい」


「はっ」





黒い鎧の男と白い鎧の男は作戦室へとやってきた。


「エイダン殿にステンドの殿一体いかがしましたかな?」

忙しく仕事をしていた男、ラッセンソンは手を止めて二人を迎えた。


「魔王の侵略地への調査隊を送ることになった。そこで俺とステンドが行くことになったわけだが、他にも調査能力のあるやつがいる」

黒い鎧の男はそう話した。


「もちろん戦力もな」

とステンドと呼ばれた白い鎧の男がつけ加えた。


「それでエイダンと私に、勇者が集まるという企業についてラッセンソンに詳しく聞けという王のご命令だ。」


「なるほど左様でしたか」

ラッセンソンは事情を呑み込んだようだ。


「私も直接見たわけではありませんが、様々な世界から人材を集めているそうです。特に勇者も大勢いるそうですな。手練れの者もその企業に所属している者でかなりの数になるようです」とラッセンソンが言った。



「なるほど、そりゃー期待が持てそうだ」

と黒い鎧の男エイダンは首を左右に小さく傾げながらそう言った。どうやら話だけではあまり信じられないようだ。


「なんにせよ、人でも戦力もあればあるだけいいさ。魔王軍からこの国を守るためにはな」

勇者を大勢募集しているとなれば、少しくらいは使えるやつもいるだろうとステンドは思った。


「様々な世界にギルドだの組織だのがあるが、皆自分たちの世界からは出たがらない。当然と言えば当然だが、異世界人たちも皆守りたいのは自分の命と故郷と縄張りというわけだ」

エイダンは他の世界からの援軍が見込めそうもない理由を口にした。実際エイダンの予想はおおむね当たっているだろう。


「地上にある日本のネオ人材派遣会社田中マックスというところは、金さえ出せばどんな世界にも人を派遣するらしいです。まぁその仕事を受けるかどうかは請け負う方の都合しだいらしいですけどね」

ラッセンソンはネオ人材派遣会社田中マックスについて話した。

「会社に転移門があるとのことですよ。我々の世界にも人材やら勇者募集の話が来たことがあるようです」


「ほう」

とステンドは興味深げに相槌をうった。


「何はともあれ行ってみるしかねえな」とエイダンだ。


「私も興味があります。ご一緒しても?」とラッセンソン


「国王に、参謀殿に、ジェバンもいる。転移門もあちらにあるとなれば何かあってもすぐに戻れるだろう。軍師殿がいれば人選を間違えることもあるまい。ご同行願おう」

ステンドはラッセンソンに共に来るように促した。


「うし、決まりだな。すぐに行こうぜ」

エイダンは左の掌を右手の拳で打ち付け気合を入れた。


「はい、すぐに転移門の準備をさせましょう」


エイダン、ステンド、ラッセンソンの3名は転移門を通り、ネオ人材派遣会社田中マックスへと向かった。




「ネオ人材派遣会社田中マックスへようこそいらっしゃいました」

受付係のミーユ・ホレットはいつものように笑顔で客人を迎えた。



ラッセンソンは一通りの事情をミーユに話した。


「わかりました。魔王の侵略地への調査ということで、それに適した人物の派遣ですね」





「初めまして、私は人類化プログラムのAI、LA38えるえーさんはちです、エルエとお呼びください。」

ミーユの隣、テーブルの上に座っていたのは15cmほどの女性型の人形のようだった。

LA38のお使い型マスコットデバイスは立ち上がって可愛らしくお辞儀をした。


「人形か?」とエイダンは言葉をもらした。


「いいえ、人形ではありません。私は科学の発展が人類を作れることを証明するために生まれましたAIです。今は人間用の体がメンテナンス中のため、お使い型マスコットデバイスに入っていますが、あくまでも人間型であることが人間に近づくための本筋ですので、今は借りの姿だと思ってください」


「なるほどな、小型のゴーレムのようなものか」とステンド。

「はー」

エイダンはほとんど何を言っているのかわからなかった。


「これが科学の発展というやつか、やはり地上界は科学が進んでいますね」とラッセンソンは理解をしたうえで感心したようだった。


「魔王軍の調査ということで私にお声がかかりました。調査、分析はお任せください」



よろしく頼むとラッセンソンとステンド。

エイダンはいぶかしんだ。


ミーユが連れてきたのはエルエの他には、男が二人。変わった格好の男と鎧武者だった。もっともエイダン達にとって日本式の鎧武者の姿も珍しい物には違いなかったが、それでも戦士にとってはそれが戦闘用に作られた物、すなわち戦士であるとすぐにわかる。わからないのは変わった格好の男の方だ。


「私の名はメーラム、踊り子だが、勇者を目指している」

メーラムは自己紹介をした。


「踊り子?」

今度はステンドが不思議そうな顔をした。


「メーラムさんは弊社に登録してから日は浅いですが、すでに危険なクエストもこなしていますし、まじめな方です。たまたま今日居合わせたのですが、魔王関係と聞いて是非ともご一緒したいとの申し出がありました。実力は中級者以上の冒険者で間違い無いですよ」

ミーユ・ホレットはメーラムについて説明した。


エイダンは中級者とは何だろうと思った? マッカサス国では冒険者はほとんどいない。戦えるものは皆戦士になっているし、弱いものは死んでしまう。冒険者にランク付けなどしている暇がないのが実情だったからだ。


ラッセンソンはステータス確認と、虚偽看破のスキルを使ってメーラムを確かめてみた。

「実力は確かなようだ」



「ラッセンソンがそういうなら間違いなかろう」ステンドはメーラムの実力を疑うことをやめた。これはラッセンソンに対する信頼でもある。


メーラムは表情を変えること無く言った。

「よろしく頼む」


「ああ」とエイダンが答えて、ステンドとラッセンソンも軽く会釈を返した。


次は鎧武者の番だ。

「俺の名は、扉政影とびらまさかげ。あんたらのいうところの異世界ゲートの門番を代々やっている」


「代々? ほう? それは珍しい」

ステンドは顎を撫でながらそれを聞いた。


「魔王の調査をするということだが、魔王の魔力の性質がわかれば、ゲートを通れないようにできる。俺の力が役に立つはずだ」

と扉政影は言った」


「ほう、それはすごいですね」とラッセンソン。

それが本当なら、魔王のワープや異世界間の移動を防げる。魔王の居場所がわかれば反攻作戦を立てるのもずいぶん楽になる。

「実力も確かなようだ」と付け加えた。


「今回の件は魔王は直接かかわっているのでしょうか?」

エルエは丁寧に聞いた。


「さぁな、それはわからん。それも調査してみないことにはな」とステンド。


「そのための調査団だ」とエイダン。


「魔王だけでなく魔人だろうが何だろうが、魔力の性質がわかったものはすべてゲートを通れないようにする」

扉政影は厳格に言った。


「それはいい。早速調査へいこう」

メーラムは表情を変えず、皆をかした。



天上界、マッカサス国の西側


「ここから先は魔王軍の領地だ」

エイダンが真剣な面持ちでいう。

「どんなモンスターが出てきたとしてもおかしくはない、最悪魔王と遭遇戦なんてこともありえる。皆、気を引き締めていけ」

エイダンは抱えていた兜をかぶった。


ステンドもこれに倣い兜を被った。


調査隊のメンバーは天上界マッカサスの剣士、エイダンとステンド、軍師ラッセンソン。勇者候補のメーラム、異世界ゲートの守り手扉政影、そしてお使い型マスコットデバイスに入っているAIのエルエだ。


一同は慎重に魔王の領地を、先日まで村のあった場所まで進む。


案の定モンスターに出くわすが、幸い大したモンスターではなかった。エイダンとステンド、扉正影が剣を振ってモンスターを切り倒し、メーラムが踊ってバフをかけ、魔法を放てばそれで終わった。ラッセンソンは特にすることもなく、エルエはラッセンソンの肩に座っていればよかった。


調査する村へとたどり着いた一行。

村全体がひどく焼け焦げている。調査をするといっても一体何をするのやら? この調子では生依存者などまったく期待はできないだろう。


「これはひどい」とエルエは引きつった顔で言った。


「魔王軍が来たあとはどこもひどいが、この村は今まで見たものとは違う焼け方をしているな。何か変わったやつでも来てたのかもな」

とエイダンは焼け焦げた木をいくつか持ち上げては転がしながら言った。


「ふうっ、まったくこれだから魔王を倒さなければならぬ」

ステンドの怒りがにじみ出ている発言だ。


「その通りだ」メーラムもこれに賛同した。表情はいつものよりも石のように硬い。


「調査を開始します」エルエは調査を開始した。エルエは村全体にスキャンめいた光を照射した。

「魔力量はかなり多いようです…使われた魔法を調査します…村を焼いたのは火の魔法で間違いないようです…魔法を使ったのは一名…」


「ほう」ラッセンソンはエルエに感心した。

「そんなことまでわかるのか」と驚きのエイダン


「炎の魔法の前に使われた魔法は…これはっ…”魔王レーザー!?”」


「!」


「魔王かっ!」

皆も驚きの声をあげた。


「当たりです」エルエは釣り上げた魚が狙いどうりだった時のように力強く言った。


「見つけたぞ、ついに魔王の痕跡を…」

ラッセンソンは迫真に迫った。


「この村には他の魔族の魔力の痕跡はありません」エルエは再び丁寧に言った。


「これが魔王の魔力の質か、覚えたぞ」扉政影は独自に魔力を感じ取っていた。それが魔王のものと分かった今、魔王は自由にワープや世界間の移動ができなくなるだろう。なぜならこの扉政影が魔王の性質をもつものをゲートの流れから締め出すからだ。

「魔王はもう、ワープも世界間移動もできないようにした」



「本当か? やはり世界間移動をしていたのか?」とステンドは扉政影に聞いた。


「それはわからん。俺にわかるのはこれからは、今日痕跡を見つけた魔王がそれをできなくなるということだけだ」

扉政影はふんと鼻息をならした。


「調査範囲を広域に拡大します…いました…魔王です」エルエはそう言った。


「なにっ!? どこだ!?」

エイダンは前のめりに聞いた。


「西に4千200キロ付近です。その場所に強力な魔力反応多数…衛星でもあれば画像が見れるのですが…」

エルエは残念そうだ。


「大丈夫、予想はつきます。魔王と魔物が多くいる場所など予想はつきます。そこが魔王城で間違いないでしょう。ようやく魔王の居所がわかりましたね」

ラッセンソンは悲願がかなったという風だ。


人間界の魔王軍の領地を奥深く探索する者が、偶然魔王に出会ったり魔王の居所を突き止めることはあっても、彼らは帰らぬ人となるのだから、魔王の所在は人間世界ではわからぬままだ。この情報を持ち帰れば広大な魔王軍の領地の中で戦力を集中して魔王や魔王軍の中枢にぶつけられる。値千金の情報なのだ。何としてもこの情報は持ち帰らなければならない。


「しかし、それを知るのはお前らだけだ」

突如として魔族が現れた。


皆は一斉に身構え、エルエはラッセンソンの肩を離れた。


「お前らが死ねば、情報は遮断できる」

魔族はどう見てもるきだ。


エイダンは魔族に斬ってかかった。しかし、魔族はその攻撃をかわした。


「こいつやるぞ、魔人級だ」エイダンは次の攻撃を続けず、一旦距離を取った。


「ご明察、しかしいきなり切りかかってくるとは無粋だね」

魔人はナルシストっぽいしゃべり方をした。


「まぁ魔人で間違いないが、どんな魔人かと言えば名乗る必要もない。お前らはどうせすぐ死ぬのだからな」魔人は名乗りもしない。


かこめ」ラッセンソンは短く指示を出した。ラッセンソンの支援効果でパーティーメンバーはパワーアップしている。ラッセンソンは右手に十手刀、左手に軍配を構えている。


エイダン、ステンド、メーラム、扉政影は魔人を取り囲んで剣を構えた。


「やはり無粋だな」魔人は面倒くさそうだった。


「馬鹿め、そんな手に乗るか。魔人が相手なら数の利を生かすのは当然のこと」

エイダンは大きな声で言った。


「チッ つまらなぬ、そういうやつらか」

魔人は気取っている風を装って人間を騙す。どんな形であれ、そんな手口に引っかかるのは、せいぜい中級者かバカな人間だけだ。歴戦の勇士たちにとって、魔人を倒すことの前に小さな見栄などどうでもいいことなのだ。


メーラムは踊りを始めた。パーティーメンバーは攻撃力アップ。


「そこのお前目障りだぞ。」

魔人はメーラムを攻撃。

しかしメーラムは踊りながら鼻先でそれを躱す、躱す連続で躱す。


側面からのステンドの攻撃を腕で受け止めて、押し返す。逆に魔人のパンチでステンドは吹っ飛ばされた。


続けてエイダンの縦斬り、躱す。

横斬り、躱す。

メーラムのバジュラの突き、躱す、扉政影の斬りも受け止められて扉政影は蹴り返される。

掌から衝撃波を放ってエイダンを叩く。

回転しながらの裏拳でメーラムを狙う、メーラムは回避してカウンターが命中した。

ドッ

しかし固い。


今度は魔人の口から魔力弾が連続で発射される、ステンドも扉政影も、ラッセンソンもこれを躱す。


再びステンドが切りかかる。腕、腕、腕! ステンドの攻撃を次々と腕で受け止める魔人。ステンドは衝撃波や口からの魔力弾をよけながら攻撃を繰り出す。


続いて扉政影の攻撃、脇腹をかすった。

しかし大したダメージもなく、爪攻撃で反撃をした。扉政影はこれを刀で受ける。

からの肘。

扉政影は吹っ飛ばされそうになるところを踏みとどまった。


そしてステンドとメーラムの同時攻撃。そしてラッセンソンの魔法攻撃。


しかしそれらを避ける魔人。


魔人は少し距離を取った。


さすが魔人と言ったところだ。

人間側も手練れの戦士たちだし、メーラムやラッセンソンのバフ効果でパワーアップし、デバフ効果で魔人が弱くなっているにも関わらずこの有様ありさまだ。


全員が一度魔人との距離をとった。


「こいつ、本当にやるなぁ」エイダンは剣を握ったままの手の甲で唇から出た血を拭いた。


「手ごわい相手だ」とステンド。


「ふーっ」

扉政影は言葉を発っせず息だけを整えた。


メーラムは踊りながら間合いをはかっている。


ラッセンソンは魔人の弱点を探ろうと思案しながら戦っていた。


エルエは邪魔にならないように上空で皆を見ていた。



「なかなか手ごわいじゃないか、ええ? 君たち。こないだ殺した人間たちより、よほど強いな。」

簡単に殺せると思った人間が思いのほか強く、魔人の方も人間たちに感心しているようだった。



魔人であれば人間くらい殺していて当然だ、この程度の挑発に引っかかるような人間はここにはいない。


しかしエルエは、その言葉を聞いて憤りを感じていた。


エイダン達と魔人は互いに距離を詰め合いじりじりと迫っていく。


「イヤァァァアア」

扉政影は魔人に切りかかる。


「はっ」

「ふんぬっ」


それに合わせてエイダンとステンドも切りかかる。


魔人はこれを受け止めた。


そこに氷の刃と火の玉が飛んできた。メーラムとラッセンソンの魔法だ。


「ぐ」


魔人に命中したが大したダメージは与えられていないようだ。


「ふんっ」


魔人は刃を押し戻すとそのまま後ろ回し蹴げりを扉政影に当てる。追撃の魔力弾をさらに命中させた。

「うっぐ」

しかし扉政影も倒れずにこれをこらえた。


ラッセンソンも右手の十手刀で魔人に切りかかった。


が十手刀の刃を掌で押さえらえる。


ラッセンソンは至近距離で軍配から火の玉を放った。


ドウゥ


エイダンが魔人に切りかかる。魔人はつかんでいる十手刀を引っぱってラッセンソンごとエイダンにぶつけた。


「はあぁ」

ステンドは魔人の肩口から袈裟切けさぎりにしたが、浅い。


反撃に魔人の口から魔力弾をもらった。


「うぐ」

ステンドへの追撃の魔人の爪を扉政影が刀で跳ね上げ扉政影も胴体を切る。やはり浅い。大ダメージには至らない。


メーラムは踊りを変えてバジュラで攻撃しながら魔法を放つ。しかし魔人はメーラムの放った魔法を防御して反撃を行う。

メーラムはこれを回避しながら魔人に更なるデバフをかけた。魔人の防御力が下がった。


メーラムが踊る、魔人の右手攻撃を回避、メーラムが体をくねらせる、魔人の左手攻撃を回避、カウンター!


ザク


魔人の蹴り、メーラムが側転回避、からの次の一撃もバク転回避、メーラムは器用に魔人の攻撃をよけながら、攻撃を繰り返し、魔法を放つ。じわじわと魔人の体力を削っていく。


ドフ

魔人の拳がメーラムに当たった。メーラムは側転受け身ですぐさま体勢を整える。


ステンドが右から切りかかる。エイダンが背後から脇腹を刺そうとする。扉政影が正面から縦に切る。ラッセンソンが左から首を突く。


しかし魔人もすべて躱し受け止め反撃に扉政影に頭突きをくらわせる。


魔人が口から魔力弾を放とうとした時、


「今だ」

吹っ飛ばされながら扉正影がいうと、空中に虹色の裂け目がでてそこから虹の風呂敷が魔人の口と両手足を縛った。


ドゥ


魔人の魔力弾は魔人の口の中で爆発した。


そして左右の手足を空中で別方向に引っ張られ魔人は身動きが取れない。


そこにエイダンの一撃が腹に刺さった。続けてメーラムの1撃、もう1撃。

ステンドの攻撃は魔人のももを貫いた。


ラッセンソンは魔法を放つ。

「光弾よ魔を払い敵を討て。ライトスプラッ」

無数の光の弾が曲線を描いて魔人にめがけて一点に集まってくる。


ズドドドド


「ウグウ」


メーラムは側転で魔人の背後に回り込み両手のバジュラで切り付けてから体を貫く氷の魔法を放った。


正面に回ったエイダンは魔人にとどめを刺そうと魔人に近づいた。


「これで終わりだ」


エイダンが剣を大きく振りかぶって魔人の首をねた。


しかし首半分というところで剣は止まり、虹の風呂敷を引きちぎった右手でエイダンの腹を貫いた。


「ぬうぅん」

ステンドが残りの首半分を切り飛ばすと、魔人の体と頭は地面に倒れ込み、燃えカスのように崩れ去った。


「ゴフッ」

エイダンは口から血を吹いた。


倒れそうになったエイダンの体をメーラムが支えた。


「馬鹿ものが、最後まで油断をするな」ステンドは血を払って剣をしまうと急いでエイダンに駆け寄った。


メーラムはゆっくりとエイダンを地面に寝かせた。


「大変です。すぐに治療しないと死んでしまいます。誰かポーションを持っていませんか」


「持っていない」

「ない」

「私もだ」

「今日に限ってこれか」

メーラムも扉政影もステンドもラッセンソンもポーションを持ってはいなかった。

普段傷を負うことなど無い手練れの戦士たちは、ただの調査でこれほどまでに苦戦するとは思ってもみなかったのだ。これは全員の油断であった。


「扉政影さん、急いでゲートを開いてください」エルエはひどく焦った様子で言った。

「ゲートはひらける、しかし、到達地点を探すには少しばかり時間がかかるぞ」


「緊急脱出プログラムON、扉政影さん、私を使って座標を調べてください。地上界の派遣会社のゲートにつながるはずです」


「承知」


ゲートが開いた。ステンドとメーラムがエイダンの両脇から支えて全員が虹色に光るゲートをくぐった。


そして扉政影はゲートを閉じた。


ゲートを抜けるとエルエは急いで上の階へと向かった。ヒーラーかポーションを調達するためだ。


ステンドたちはエイダンの鎧を脱がせて床に寝かせた。

床に寝かされたエイダンの腹からは今も大量の血が流れている。


エルエは急いで戻ってきた両腕にポーションを沢山抱えている。ポーションの瓶のふたを開けるとエイダンの腹の傷に中身を掛け始めた。

みるみる傷が治っていく、1本かけきったところで、まだ傷は残っている。2本目のポーションを今度はラッセンソンがかけた。


エルエは3本目のポーションを開けるとエイダンの口に突っ込んだ。


今度はエイダンはうつ伏せにされて背中側の傷にポーションをかけられた。ついでというか念のためもう一本。エイダンに使われたポーションは全部で5本だった。


もう大丈夫エイダンの危機は去った。


「ふー、何とかなっりましたね」とラッセンソンは息をついた。

ああ、と男たちは頷いた。


「おー、痛てて、まったく油断しちまったぜ」エイダンは兜を脱ぎながら状態を起こした。

エイダンは腹の傷があった場所をさすっている。


「まったく」とステンドはあきれつつ立ち上がって両腕を組んだ。


「しかし、無事で何よりだ」とメーラムは言った。


「死にそうなほど大けがをして、それが治ったらそれは無事なのか?」エイダンはふざけて言った。


「無事でしょう」とラッセンソンが言い、皆は笑った。



「どいた、どいたー」

嵐のようにゲート部屋に飛び込んできたのはクラスアだ。

「エイダン、エイダンが死にそうって本当なの?」

クラスアは部屋に飛び込むなり、特性ポーションを取り出してエイダンの口に突っ込んだ。


「ほら、これ飲んで、特性ポーションよ」


エイダンはポーションを無理やり飲まされた。


「ほらっエイダン傷を見せて」

クラスアはエイダンの血まみれになっているシャツを破り捨てた。


「どこ、傷はどこなの?」


「おいおい、クラスア」エイダンはクラスアの勢いを緩めようとした。


「ほらじっとしてて」

クラスアに肩を引っぱられてエイダンは再び寝かされてしまった。


ゴン


エイダンは頭を打った。


「クラスア…クラスア!」

ステンドの呼びかけにようやくクラスアは顔を向けて反応した。


「なあにステンド? 忙しいから後にして」


「エイダンはもう大丈夫だ。傷もふさがった。それにこんなとこで何をやっている」

「そうなの!? でも死にそうって」


「先ほどまではね。今はもう大丈夫です」とラッセンソンが言った。


「よお、クラスア奇遇だな」とエイダンが言った。


扉政影とメーラムは無言でその様子を見守っていた。


「なんだー。よかった。エイダンが死にそうっていうからびっくりしちゃった。あのエイダンが死ぬわけなんてないもんね。ステンドにラッセンソンもいるんだし」

クラスアはようやく勢いが収まってきたようだ。


「いやぁ、さっきまで死にかけていたのは本当だ」とエイダンは笑って言った。


「うそ、ステンドとラッセンソンもいたのに?」クラスアは驚きを隠しきれない。


「そうだ。それだけ手ごわい相手と戦ったんだ。魔人だった」エイダンは立ち上がって体の動きを確かめた。問題は無いようだ。


「魔人ってそんなに強いの?」クラスアは興味ありげに聞いた。


「ああ」とエイダン。


「我々全員掛かりで何とか勝った。そこのお嬢さんを除いてな。危うくエイダンが死にそうになりながらだ」

ステンドはエルエを目で捉えてから、魔人の強さを説明した。


「ああ」とメーラム

「手ごわい相手だった」と扉政影。


「そんな強い相手なら私を呼んでくれればいいのに」とクラスアは言った。


「そんな危ない所に呼ぶわけにはまいりませんね」とラッセンソン。


「いいじゃーん」クラスアは駄々をこねた。


「良いわけないだろ」とエイダンは強めに言った。


「なんでー、また子供扱いして、エイダンの意地悪、ケチィ」クラスアはエイダンの悪口を言った。


「そういうところが子供だってんだよ」エイダンはどうしても危ない所へはクラスアを連れて行きたくは無いようだ。


「あ~はいはい。私がもっと強くなってみんなの力になれるようになりますよ。それどころか、魔王を全部やっつけてエイダン達が危ないことをしなくていいようにしてあげるんだから」


「それは楽しみですね」とラッセンソンが言った。


「やれやれ」

言葉そのままにステンドの顔にもそれは出ていた。


「とても仲がよろしいようですが、お知り合いなのですか?」とエルエは聞いた。



「そうだ。俺たちは天上界のマッカサス国出身でね。クラスアとはまぁまぁよく知った仲ってわけだ」とエイダンが答えた。


「まぁまぁなの?」クラスアは不満げだった。



「それで魔王を倒す話だがな」

扉政影が話に割って入った。

「本当に魔王を倒せるかもしれんぞ」



「でもその魔王の場所がわからないんじゃ倒しようもないんだけどね」とクラスアは残念そうに言った。


ふんとエイダンが鼻を鳴らした。


「聞いて驚け、クラスア」


「何よ」


「俺たちは魔王の魔力の痕跡を見つけたんだ」


「それで?」クラスアはよくわかっていないという顔だ。


「魔王の居場所を突き止めた」エイダンは自信満々に話した。


「ふーん」クラスアは全然驚かない。


「なんだ、つまらんやつだな。魔王の居場所だぞ」エイダンは肩を落とし逆にクラスアが驚かないのがわからないという表情だ。


「魔王だって私が倒しに行ったら逃げるでしょうけど、どうせ魔王城とかにいるんじゃないの」クラスアは謎の自信を見せつけた。


「魔王城の場所が今までわからなかったんだから、人類にとってとんでもない、一歩だぞ」エイダンはだんだん悲しくなってきた。


「ふーん、そういうもんか。私が本気で魔王を倒そうと思えばきっとすぐ見つかるわよ」


ステンドもラッセンソンもやれやれという顔をしていた。もしかしたらメーラムもそんな顔をしていた気がする。



皆は部屋を移し、ネオ人材派遣会社田中マックスに今日の出来事を報告した。

報告を受けたミーユはものすごい功績だと驚いていた。


「それでは、危険地域での調査任務とその大成果と魔人討伐の報酬は、おひとり当たり3億円です」ミーユ・ホレットは皆に報酬を渡した。



「我々ももらえるのか」

とラッセンソンが言った。


これは、エルエが調査代だけ受け取ったが討伐報酬を断って、エルエ以外が受け取った金額であった。


「しかし、報酬が高いのはいいことだが、調査報酬だけでもかなり高額になりますね。仕事の依頼をしていればあっとゆう間にマッカサスの財源はそこを尽きてしまう」

ラッセンソンは少々困ったという顔をした。


「今回はラッセンソンさんからのお仕事の依頼ということでしたが、魔王関係の情報や、魔人や魔王軍の幹部などは、どの世界でも迷惑な存在として嫌われています。そこでまだ人類世界が崩壊していない4つの世界の政府など国際的な組織からお金が支払われることになっています」

ミーユは報酬の発生場所を説明して、ラッセンソンの心配を取り除いた。


「なるほどそれは助かりますね、それならばどんどん調査隊や討伐隊を送り込むことができます」とラッセンソンは言った。


「ですが、お気を付けください。魔王、魔人、幹部の情報が得られたり、討伐できれば4つ世界の国際機関からお金が出ますが、それ以外であったり、情報が得られないで空振りに終わった時や討伐失敗など他諸々、そういった場合には仕事の依頼主が従来どうり報酬を支払わなければなりません」

ミーユは注意を促した。


「承知しました」

ラッセンソンはそれを理解した。

「それでは我々は国へ帰らせてもらおう。帰って国王と今後の方針について話し合わなければならないのでね」


「クラスアお前もくるか」

ステンドはクラスアを誘った。


「いい、まだ帰らない。私が帰るのは魔王を倒して勇者として帰るって決めてるから」

クラスアは断った。


「そうか、わかった」



エイダン、ステンド、ラッセンソンは地下のゲートルームから扉政影にマッカサスへのゲートを開いてもらって帰って行った。クラスアはその場で挨拶だけをした。




マッカサス王国に帰ってきたラッセンソンたちはことの次第を国王に話した。



「魔王を見つけたのはよくぞやった。これで魔王城に攻め込めるといいたいところではあるが、魔王城までは距離も遠く、そこまでの道のりも激しい戦いが繰り返されるだろう。今すぐにというわけにはいかんな」

マッカサス王は苦々し気に話を続けた。


「当分は防衛を最優先しながら、モンスターを倒しては少しずつ魔王軍の領土を切り取り、あわよくば幹部や魔人を減らしていく戦いになろう。やつらが神出鬼没の侵攻をできなくなったことと、いざという時に逃げられないというのは大きなことだ」



「魔王軍の調査にしても討伐にしても、3剣士の内2人とラッセンソンがいて、他も手練れの戦士がいたと聞く、それで魔人になんとか勝ったとなれば、戦力が足りぬな。集めよ。勇敢で実力のとびぬけた勇者や戦士を」




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