第6話 気配
「いいなあ。あの跳躍力」
「仕方ねえだろ。それぞれの特性だ。こればっかりは妖怪化した人間だって選べねえぞ。ほら、お前は猫になって青龍の肩に乗れ」
朱雀はそう言うと、自分は背中に翼を顕現させて飛んで行ってしまう。
「ああもう。あの二人って好戦的よね」
「はいはい。ほら、乗っかれ」
置いて行かれてサラはむすっとするが、俺が運んでやるだろと青龍に窘められる。それにやれやれと溜め息を吐きつつ、サラはくるっと空中に飛び上がって猫の姿に戻った。平安時代に飛ばされた時は子猫だったが、今では大人の猫の姿だ。二つに分かれた尻尾も、長くしなやかに動く。
「行きましょう」
「ああ」
青龍はサラを肩に乗せると、そのまま白虎のように隣のビルへと軽々と跳ぶ。
「龍の姿にはならないの?」
飛べばもっと簡単じゃないとサラが訊くと
「さすがにこんな世界でも、龍は非常識に近い存在だろ。そう簡単に元の姿にはなれねえよ」
尤もな答えが返ってきた。
まったく、本来は妖怪に区分される自分たちがあれこれ常識を気にしているのに、妖怪化した人間は全く気にしないのはどういうことか。サラは困ったものよねと、猫の姿のまま溜め息を吐く。
とはいえ、人間たちは未曾有の大災害に見舞われている時に妖怪化したのだ。その力を利用して生き残ろうとしたのだから、隠す必要もない。
ただし、その能力が強すぎて、一般の人と大きな溝を作ることになった。力があることで図に乗った、妖怪化した人たちも悪い。
「はあ。人間って学習しないわねえ」
つらつらと考えて、サラはまた溜め息だ。
権力を持つことで人が変わる場面を、何度目撃したことだろう。特に戦国時代は凄かった。今と引けを取らないのではないか。
「はっ。千年前から変わりゃしねえよ」
それに対し、青龍は軽く笑い飛ばしてくれる。
「ははっ。そのくらいで俺に勝てると思っているのか」
余計なことを考えていたら、いつの間にか現場に到着していた。対峙しているのは二人。一方は感じ取った妖気と同じ鬼の力を持つ少年。もう一人は呪術師の少年だ。似たような年齢だから、ケンカに発展しやすかったのだろう。
鬼の少年は容赦することなく、その身に宿った怪力を利用して、呪術師目がけて周辺の瓦礫を投げつけている。
呪術師の少年はそれを軽業師のように除け、時には呪術で破壊して応戦している。が、攻撃に転じる余裕はないようだ。
「加勢しないの?」
白虎たちがまだ近くのビルの屋上から見ているのに気づき、サラは止めなきゃと提案する。しかし、白虎も朱雀も動こうとしなかった。
「どうした?」
「あの呪術師のガキ、気になるんだよな」
助けたいんだが、どうにも嫌な予感がして動けないと朱雀が顔を顰める。それは白虎も同じようで、何だろうなと気配を探っていた。
「サラ、お前の得意分野だ。あの呪術師の前世を探れ」
「いや、別に得意じゃないけど」
言い訳しつつ、サラは呪術師の少年の気配に集中する。
どうしてどの時代でも晴明の生まれ変わりと再会が果たせるのか。それはサラに宿った能力のおかげだ。どういうわけか、その人の魂の系譜を読み解くことが出来る。これもまた、時空を飛ばされた影響だろう。
「見えた。って、えっ?」
感じ取れた魂の系譜に、サラは驚きの声を上げてしまう。それに、馬鹿と青龍のげんこつが飛んだ。幸い、戦っている二人には聞こえなかったようだ。
「いった」
「誰だ?」
それよりもと朱雀がせっつく。こういう時、二人は容赦がないのだ。
「
サラが頭を擦りながら答えると、白虎はやっぱりという顔になった。助けたくても助けたくない。その気持ちが芽生えた理由に納得したのだ。
道満。その名前は現代においても有名だ。安倍晴明のライバルにして、
「よりによってあいつかよ。せめて保憲がよかった」
朱雀がぼそっと呟くが、意外なことに、この千年、賀茂保憲の転生者と出会ったことはない。もちろんどこかにいるはずだが、縁がないようで出会わないのだ。
「様を付けなさいよ。再会した時に呼び捨てにして、けちょんけちょんにされても知らないんだから」
それにサラはちくっと注意しつつ、よりによってと少年を見つめる。
さすがというべきか、道満の魂の系譜を引くだけあって、少年の呪力は巨大だ。攻撃には転じれないものの、鬼の攻撃を受けることなく戦い続けている。しかし、このまま消耗戦になれば、道満が不利になるのは目に見えていた。
「どうするの?」
かつてのライバルだからと、このまま助太刀しなくていいのか。サラが四人にどう動くと相談した時――
「それは俺の獲物だ」
凛とした声が戦場に響いた。ついで、強力な呪力が爆発し、それまで優勢だった鬼を吹き飛ばす。
「ぐあっ」
「貴様」
飛ばされて呻く鬼と、急な横やりに怒りを爆発させる道満。そして、巨大な呪力を放っても余裕な顔をしている、晴明。
「晴明様!」
どうしてここでと、サラはびっくりしてしまう。それは青龍たちも同じで、あんぐりと口を開けていた。
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