グッドルーザー【モーグル】
開幕まで一週間を切った北京冬季オリンピック
冬のオリンピックって、夏に比べると地味な印象がありますね。
競技数も少ないし、参加国も少ない。
そもそもスキーやスケートを出来る環境にある国が少ないので、必然的に競技人口が少なく、マイナー競技になりがち。
とは言え、魅力ある競技はたくさんあります。来週から2週間、オリンピックに釘付けになることは確定です。
私の一番古い冬季五輪の記憶は、1980年のレークプラシッド(アメリカ)でして、この時のメダル獲得数は1個(銀メダル)、スキージャンプの八木弘和さんだけでした。この頃の記憶は、薄っすらです。
その後、1984年の サラエボ1個、 1988年 カルガリー1個と続き、アルベールビルで7個、リレハンメル5個と続いて、長野五輪10個へと繋がります。
この時期のメダル量産は長野五輪へ向けた強化策が実ったとも言えるでしょうかね。長野五輪は盛り上がりました。
その後、低迷したり、躍進したりを繰り返し、前回の平昌では金4個を含む13個、大躍進しました。
今回も、ノルディックスキー、フィギュアスケート、スピードスケート、スノーボード、モーグル、カーリングなどなどメダル有力種目目白押し、日本勢の大活躍が観れるものと信じています。
だけど・・・
メダルだけがオリンピックじゃない、と言うのが私なりの見方でして。
メダルを取れなかった選手にも、感動的なドラマはあるし、
取れなかったからこそ、記憶に残る涙がある
その代表的な選手が、モーグル女子の上村愛子さんだと思うのです。
彼女のオリンピックデビューは長野五輪で当時18歳、JKでした。
里谷多英選手が日本女子史上初の冬季五輪金メダルを獲得した大会で、彼女は7位に入賞しています。
金メダルを獲得して満面の笑みを浮かべて喜ぶ里谷選手に、嬉し泣きしながら駆け寄り抱擁しあうシーン、なんと美しかった事でしょう。
JKで7位入賞、これも立派な成績です。笑顔が抜群に美しい彼女だって、きっと表彰台に上がる日が来るはず。私はその日を心待ちにしていました。
その後、彼女は・・・
ソルトレイクシティ五輪6位、トリノ五輪5位と、ひとつずつ順位を上げていきます。
オリンピック3大会連続の入賞、凄いことです。
でも、トリノ五輪の大会終了後、彼女はこんなコメントを残しています。
「一体どうすればオリンピックの表彰台に乗れるのかが…ナゾです…」
悲壮感こそ漂っていないものの、彼女の目には薄っすらと悔し涙が浮かんでいました。テレビで観戦していた、こちらも涙でした。
何とかメダルを取らせてあげたい、そう思った日本国民は多い筈・・・
そして彼女が迎えた四度目の冬季五輪、バンクーバーオリンピック!!
この時の彼女は、それまでとは少し違う立場だったように思います。
コーチを替え、ワールドカップ年間チャンピオンに輝き、結婚もされました。
ご本人も、「金メダルを獲得して引退する!」、と名言されていたとか???
もうあとはメダルだけ、メダルを獲得して引退の花道を・・・
愛子ファンの切なる願いでした。
しかし結果は4位・・・
「何で、こんなに一段一段なんだろう、と思いましたけど……」と泣きながら話す彼女。
私は、もはや号泣でした。
だって感情なんてとてもコントロール出来ない程、悔しい筈なのに、それでも彼女は涙の中に、少しだけ笑顔を見せてくれるんですから…
笑顔の美しさと、その裏にある悲しさ、悔しさ、そんな事を思ったら、泣かずにはいられませんでした。
これで彼女の競技人生は終わってしまう…
彼女にメダルを与えてくれなかった神様を恨みました。
だってモーグルは基本的に採点競技(タイムも採点の一部になりますが)、3位と4位、そこに明確な技術的差なんて無いと思うのです。
ジャッジの印象がちょっと良かったか、少し悪かったか、せいぜいそんなものでしょう(これは上村愛子ファンの私見ですが)
だったら彼女に勝たせてあげてよーっと
でも彼女のオリンピックストーリーはこれでは終わりません。
何と5度目のオリンピック代表選手に選ばれます。
18歳で初出場したオリンピックから16年、当時34歳。
競技者年齢が若いモーグルと言う競技では、かなりのベテランです。
前回バンクーバーの後、長期休養を取っていた事もあり、競技者のピークはもう過ぎていたと思われます。
バリバリの気合で挑んだ、前回のバンクーバーに比べると期待度もそれほど高くはなかったように思います。
それでも彼女は奮闘しました。過去4回の経験を活かして予選を通過すると、決勝一本目、二本目を際どく通過(通過者6人のうち6位)
上位6人で競うファイナルを一番目で滑った彼女は最高の演技を魅せ、残り三人の時点でトップに・・・
残り三人のうち、誰か一人が彼女の点を下回れば念願のメダル確定です。
不謹慎ではありますが、残っている選手の失敗を願いました。
モーグルと言うのは、ひとつのジャンプ、ひとつのターンの失敗でポイントが劇落ちする競技です。一人くらいやらかすだろうと思っていました。いや祈っていました…
残り三人…
まずは一人目、彼女のポイントを上回ります
続く二人目、またしても彼女の上へ・・・
この時点で彼女の順位は3位、残る選手は一人。
ラストの選手は優勝候補の筆頭、決勝2本目で最高得点を叩き出している選手。
やはり駄目なのか・・・ 諦めてムードが漂います。
でも気づきました。
彼女は過去4回のオリンピック、1つづつ順位を上げてきたことを…
神様が筋書きを書いているのだとしたら、また1つ順位を上げて最後のオリンピックで銅メダルを獲得させてくれるに違いない!
しかし…
最終競技者も彼女を上回ります。
またしても4位、メダルに届かず。
以下、彼女のコメントです。
「こんなに何本も滑るオリンピックは初めてで、決勝ではメダルが獲れなかったけど、とても清々しい気分です。3本共に全力で滑れたことで、点数も見ずに泣いてました」
「ソチを目指そうとした時、又(メダルが)取れないとか取れるとか、そういう場所に戻る自信は持てなかった。最高の滑りをしたら獲れるかもという所まで来れたのが、凄く嬉しい」
「今回の五輪は良い想い出で終われるんじゃないかと。メダルは無いんですけどね。そこは申し訳ないとしか言いようがないんですけど、頑張ってよかったなぁと思っています」
爽やかな笑顔と、史上最高に美しい涙を浮かべて彼女はそう言いました。
今、読み返しただけでも涙が出そうです。
もしも、メダルを獲得出来なかった者をルーザー(敗者)と呼ぶのなら、彼女はまさしくグッドルーザーです。
でもオリンピックよりも遥かにスケールの大きい、人生という舞台では、間違いなくウィナー(勝者)なのではないかと・・・
まもなく始まる北京五輪、彼女が放送席に呼ばれる事もあるでしょう。
そしてまた素敵な笑顔で、暖かいコメントを残してくれるものと思います。
メダルを獲得出来なかったアスリートの気持ちが、誰よりも分かる人だから…
スポーツ、やっぱりいいなぁ~
こんな筋書き、書ける人は居ないですよね。
今回の北京五輪…
上村選手が活躍したモーグルには、W杯今期3勝、絶好調の川村あんり選手(17歳)が出場します。上村選手引退後、低迷していた女子モーグル界の超新星です。
果たしてどんなドラマを魅せてくれるのか、とても楽しみです。
※2月3日:予選
※2月6日:決勝
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