第32話 ユキが居ません

あああ 暑い!! 夏ってこんなに暑かったっけ?

そうだ 去年までは外に出なかったから気が付かなかったんだな?

夏休みだって スクール以外は市の図書館くらいしか行かなかったもんなあ

待って!私って今年 勉強もして 毎日外にも出てって凄い進歩だよね おおおお

おばあちゃんちにだって10年ぶりに行ったんだし おおおおおお 私 凄い!

歩数計だっけ?買えばよかったなあ


レオナ自画自賛の…暴走中 右の手で左の耳を掴んで!って誰か言ってやって



テラスのいつもの席にレオナは座る 誰もいないのは想定通り トキやソラが居ないからか 日差しの入らないこの場所でも暑い


クーラーが効いているカフェの中に入ろうかな?レオナはリングノートを取り出して 眺める

最初のページには 大切な3つの約束 それから レオナの下手な絵とユキと二人で書いた 猫みたいな深淵?

ソラのページには 理央の連絡先が書いてあって…


「あ!レオナちゃん来てたんだね」

理央の声がして顏をあげる

「ユキは?」

「まだ 来てない のか 帰っちゃったんでしょうか?」


「ふーん 暑いからさぼりかな?」


理央の目が病院棟の方に向けられる


「気になりますか?ソラの事?」

「うん 本当はどんな名前だったのかな?」

「ナースステーションに居た人 多分 お母さんですよね?」

「名前 呼んでたじゃん? ちゃんと聞いておけばよかった」


「権助 とか与太郎 とかソラらしくない名前だったり?」

「よ よたろう?」

二人でクスクス笑う


「理央さんが 最初に与太郎ってつけたら ソラ怒ってどっか行っちゃっいそうですね」

「そしたら 意外とユキがフォローしてくれたかもよ?」

想像して また二人で笑う


「理央さん ソラに会いたいですか?」

「ちょっとは会いたいけどー ソラってここで会ったときに名前まで忘れてたでしょ? 今は俺たちのこと 夢だったかなってくらいにしか覚えてないんじゃない?」


「今度はちゃんと生きてほしいですね ソラも深淵も」

「夢のお告げ くらいには覚えてて欲しいな ソラ素直なヤツだったでしょ?」

「そうですね」


「ねえ 理央さん 深淵って心あるんでしょうか? ソラはパーツっていいましたよね? でも 私の指って 心を持ってるような気はしないんですよね?」



理央がポケットから碁石を2つ出して テーブルに置いて聞いた

「これって 生き物か?」


レオナが首を振る

「じゃあさ」

 と 石を二つ くっつけるように並べて置く


「お前達 仲良しだね」

と話しかけて


「なんか 楽しそうに見えてこない?」

と聞いてきた


そういわれると そんな気がしてきて ウンと頷く。


「いいんじゃん? 分からないことってあっても?

いつか分るかもしれないじゃん?」


理央らしい考え方だ


「俺ら単なる人間だもん 先の事なんてわかんないし 分からないこと考えて こうなんじゃね?って考えて で あちゃ違った?って思ったらそこから軌道修正すればいいじゃんね?

 ♪けーせらーせらー 人生は オレ次第 ♪」


突然 自作の歌を歌いだした理央に いつかのシャボン玉の中でキョトンとしていた理央を重ねて レオナは笑い出した。


笑いながら寂しさを覚える、あの時はユキも一緒に笑ったのにと


「あー 寂しいよお~ 師匠~ 早く来てくださいよお」

「え?いきなり?ユキを呼ぶの?ここに俺がいるのに?俺だけじゃダメ?」

「理央さんだけですか? いいか? トキもソラも理央さん大好きでしたもんね」

「よし レオナちゃんイイコだね トキとソラの話聞かせて」


その日は4時の鐘まで トキとソラの話を理央に語って それを元に理央が描いた二人の似顔絵は良くかけていて 二人にとても似ていた。

けれど


 とうとうユキは姿を現さなかった



***



夏休み最後の土曜日 レオナはこの日でスクールを終了する

親子でのカウンセラーとの面談の結果 ”終了”することになったのだ。

親は手続きがあると言うので スクールの前で一度別れた。


レオナは一人 図書室へ向かいながら考える

夏休みが終わり スクールも卒業したら ユキたちとどうやって会おうか 

連絡先を聞いた方がいいのかもしれないなあ


レオナの指定席には誰もいなかった

ユキを壁に押し付けたのが ずいぶん前のことのように思える

学校が始まればすぐに休み明けテストだ。

レオナはプリントを広げる


誰かが前に立った気がして 顏をあげるが 誰もいない


机の上を片付けて カフェへ行く、いつもの席には やはり誰も居ない

ユキの仕草を思い出して 背もたれに寄りかかって 遠くの空を見る


に会う前は一人だった。

みんなに会う前の”いつも” に戻っただけなのだが なんだか つまらない 何より 寂しい。


そんなこと思いながら サンドイッチと飲み物のランチをすます。

食べるのが遅いレオナが ゆっくり食べたのに誰も現れない

もう一度 図書室へ行き レオナの指定席で勉強する

せっかく勉強を教えて貰ったのだから、良い点を取って ユキに褒めてもらいたいと思う


しかし、誰も現れないまま 4時の鐘を聞く


深淵に出会うよりいいか?

テスト勉強もできたしね と 自分に言い聞かせて帰路につく


会いたかったなあ 師匠に そう思いながら

ポケットの師匠からのお守りの瓶と 台所から持ってきた桜塩を確認して 門を出た



レオナは ポケットにクッキーを取っておくのをやめた

クッキーが なくても 師匠のお守りが入ってる方が幸せな気がするからだ。









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