第13話 ソラの独り言

長い間ここに居るような気がする。僕は何?僕は誰?なんでそんな簡単な事が分からないんだろうな?


傍らの黒いモヤモヤに話しかけるとモヤモヤは少し嗤ったように思えた。

モヤモヤはこんな黒だっただろうか?もっとはっきりした黒だった気がする。”漆黒”だったヤツが今は薄墨色だ


黒? 墨? 

♪隠れた月が 黒い黒い 真っ黒い墨にような雲に♪

誰かが歌う声がする。その誰かと山の中で見た月は明るくて でもそこに黒い雲が流れてきた 空は暗くて


空?そら ソラ 僕の名前はソラ 今日貰った名前

月を見たときに呼ばれた名前とは違うけれど ここに居ていいよっと言われた気がした


そうそう 僕はここに居たくなかったんだっけ 沢山の子供たちに囲まれて 同じ行動をとるように言われて それが 苦しくて


皆と違うことをすると何か言われたりするのが辛くて 僕は僕で居たいだけなのに、なぜ居られないんだろう?


笑っているのに 怒りたいような 微笑っているのに 泣きたいような気持の安定しない日々を過ごしていた。


そんな時に コイツが現れた。その時は真っ黒な丸い穴だった。危ない 近づくなって 僕の中ではアラームが鳴り響いた


でも


その穴はとても魅力的に見えた

こっちに来たら 自分に嘘をつかなくていいよ。こっちに来たら 嗤われないよ 穴の中からそんな声がした


僕のアラームはずっとなっていたから、後ずさった。そんなに僕を穴は「弱虫」と嘲った。


それで僕はアラームを無視して穴の中を覗き込んだら 落ちた どこまでも 落ち続けていくなかで名前を呼ばれた「!!!!!」

もう 忘れてしまった、もう 思い出せない 僕の本当の名前。必死で呼ばれる僕の名前


そうだ その名前が呼ばれるたびに 漆黒が薄墨色に変わって行った。そして 気が付いたらあの門の近くに居たんだった。


かあさん そうだ 歌を歌ったのは母さんだ。母さんが僕を大好きって言ってくれた。だから僕は変わりたくないと思ったんだ


それからその傍らにいたもう一人 とうさん?そうだ 父さん。二人が呼び続けた名前 僕の本当の名前何だっけ?


僕は僕でいるために 穴に飛び込んだはずなのに僕は僕のすべてを失ってしまった 名前さえも失ってしまった。


僕はバラの香を感じながら 門の近くに佇んでいた。モヤモヤだけが近くに居た。

門から入ろうとすると透明なバリアがあるかのうように入れない。でも 門から離れようとすると 僕の中のアラートがなった。一度間違えたから今度は間違えない。アラートに従う。そうやって 僕は門の周りをグルグル回っていた。


今日 理央が僕を見つけてくれた。「ん?」と僕を感じた一瞬を僕を見逃さなかった

理央について行ったら アーチの中に入れた。


でも 理央には僕の声は聞こえない あの一瞬だって理央に僕が見えていた訳ではないらしい


久しぶりに 生きている人間と話が出来た 怖いユキと隙だらけのレオナ  僕の、門の周りに佇むだけの生活が変わるような予感がする


バラの香りの中で 僕は何かを期待した

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