第12ー2話 7月第1日曜


蝉時雨 昼下がりの平和なカフェテラス 日陰のテーブルに 学生3人と小学生の人外 実に平和な風景…なのだろうか?


「ねえ レオナちゃん 僕 そんなに視えるわけじゃないって前に言ったの覚えてる?」


ユキがレオナに問いかけ レオナは頷く


「多分、なんだけど さっきレオナちゃん僕の後ろに隠れたでしょ? 僕とレオナちゃんが接触すると僕の視える力と レオナちゃんの視える力がパワーアップする気がする。接触した方が僕の深淵を見やすいだろうとは思ったんだけど 他のモノまで視えるようになるとは想定外だったなあ。

理央はしょっちゅう 深淵連れて来るから 何か連れてる気配の時もあったんだけど 人型で、こんなにハッキリ視えるのは初めてなんだ だから ちょっと動揺してる」


ユキはあまり表情が出る方ではないから 今も平然としているように見えるが 実は初めて見る幽霊?に混乱しているらしい。だが すでにユキとの接触でユキの深淵やバラ園での深淵を視ているレオナは意外にも平常心でユキに確認する。


「それって…メガネかけるカンジですか?私 メガネかけないからわかんないですけど?」

「レオナちゃん メガネかけないならその例えはダメなんじゃない? それよりさあ、俺もユキやレオナちゃんに接触すれば視えるのか?!」

「理央はちょっと黙って! こら 暑苦しいから近寄るな!!」


ユキから離れれば見えなくなるのだろうか?でも 見えなくなっても存在している状態と見えている状態とどちらがマシなのか?レオナはそっとユキから距離を取ってみる が 少年も深淵も相変わらずそこに佇んでいる。


レオナがユキを見上げて首を振るとユキも困ったような顔で目を合わせてきた


「レオナちゃんもまだ視える?僕も視えるよ」

「ねえ 俺だけ仲間外れにしないでよ!俺も入れてよ!!」


理央がユキに触ろうと席を立った拍子に 理央の身体が少年を突き抜ける あまりいい眺めとは言えなくて ユキもレオナも顔を顰める


「ダメだ 俺には何も視えない…」

「ふーん そっちのお兄さんも僕が見えるんだ?」


ユキと腕を組んだ理央の声と被って 生意気な声がした。


「レオナちゃんは ちょっと こっちに来て」

ユキがレオナを少年から離すように 自分のそばに引っ張る


「君 名前は?」

ちょっと 冷たい口調でユキが少年に聞く 深淵を連れている少年に用心しているようだ 少年は 頭を掻いて

「分かんない。 無かった? のか それとも忘れちゃったのか?気が付いたら あそこにいた」


っと ガーデンの門のあたりを指さす。以前 レオナが感じた深淵はこれだったのだろうか?


「師匠 深淵だけでなく 幽霊も守備範囲ですか?」


ちょっとずれたことをレオナが聞くが ユキは首を振る


「レオナちゃんのおかげでこんなにはっきりと見えて 会話を交わせているんだと思うよ? レオナちゃんにしてもお互い様だろうけど…」


それから また少年の方を向いて ピシャリと言う


「分かっているだろうけど 目上に使う言葉と態度で接しろ」


いつものおだやかなユキと違う厳しい態度にレオナは驚くが 理央は慣れた様子でユキの目線の先を探している


少年は わずかに瞠目し ユキの目線を受け止めて謝る


「すいません ずっと 人と話していなくて」


「覚えていることはある?」


相変わらず ユキの声は冷たい


「僕の事 誰も気が付かなかったんですけど そこのお兄さん、 理央さんは一瞬目が合った気がして付いて来たら ここまで来ることが出来ました。レオナさんと ユキさんは 僕の事 確実に見えてますよね? 会話も交わせているし」


レオナたちの会話から 名前を推測したらしく レオナ達のことを名前で呼び分ける 頭もよさそうだし きちんと話す事もできるらしい。顏だって小学生にしては整っている。


黙って頷くユキに少年が続ける


「えーと 気が付いたら あの門の所に居て 長い間…… とは言っても あの門の近くのバラのゲートのバラが咲いたのは 一回しか見てないので 二年は経ってないと思います。 一日中 あの門のあたりをフラフラしているだけで 正直 もう 飽きちゃいました。 僕 幽霊なんですか? 死んだら あの世とかに行くと思っていたのに 何でこんなことになってるんですか?」 


自分のことなのに 分からないという顔で 苦笑しながら少年が言う。その表情は

ずいぶん大人びて見えた


「スズキリオさんが連れてきた名無しの幽霊(深淵付き) 小学生? 自覚無? 幽霊歴? 」


レオナがノートの新しいページを開いて書き込むが 分からないことだらけだ。


少年が見えない理央が そのレオナのノートを覗き込んで、「みせて」と口だけでいう。


レオナがノートを渡すと胸ポケットからボールペンを出して スズキリオの下に自分の名前を漢字で書き 隣に電話番号、ご丁寧に携帯と自宅を綺麗な字で書く、それから 名無しの幽霊の所に↓をして ソラ と書き込んだ


「ソラ?」

「その 名無しの名前」


理央が少年と全く関係の無い方向を指さして言う


「理央 名前を付けちゃダメって前も教えたよな?名前を付けたらお前が責任もって面倒みるんだぞ 何が起きても責任をとるんだぞ 教えたよな?」


ユキが理央を指さしながら叱っている 捨て猫でも拾って来た時に親に言われるセリフに似ている。


「うん でも俺見えないじゃん… ユキ、助けてくれるだろ?」


捨て猫を拾って来た子供よりもかなり無責任にあっけらかんと言う理央に ユキが再び頭を抱えた。少年は理央の背中にぶら下がって嬉しそうに言った


「サンキュ 理央さん名前をくれて! 僕今日からソラね! うん、いい名前 気に入った。レオナさん、伝えて ソラが喜んでいるって」


レオナが

「理央さん ソラが 喜んでいるって伝えてっだそうです」


というと 理央は 嬉しそうに笑い ユキは溜息をついて レオナに言う


「理央は、初めてじゃないんだよね、わけのわからない”気配”つれてきたの。視えないから何を連れてるのかはわからなかったけど 名前だけは付けちゃダメっていってあったのに…はあ…」


ユキが何度目かの溜息をつく 今日の師匠はいつもの何でも知っている師匠と大分 違う


「理央はさあ 悪い深淵に落ちそうになった事だって有るのに アッチの方から寄ってきちゃうんだろうなあ……

 アイツ いつか 悪い深淵に取り込まれちゃいそうでホントに心配なんだよね…はあ…」


誰に言うともなく言い また溜息をついた。



16時の鐘がなった。

今日は そろそろ帰らなければと遠慮がちに言うレオナにユキが言う


「レオナちゃん ごめん  ちょっと理央に説教したいし、ソラにも話があるから ここでごめんね  次はいつにする?」


当然の様に次の約束を決めようとしてくれることをレオナは嬉しく思う。明日も 昼過ぎにはここに来ると約束をして レオナはガーデンの出口に向かう。


「アレ 持ってる?」


ソラの深淵をチラリと見て ちょっと暗い気持ちになったレオナにユキが聞く レオナはポケットからソラに貰ったボトルを出して見せる。実は反対のポケットには台所から拝借した「桜塩」のボトルも入っている。


ガーデンの門を出て 歩道橋を上る。ガーデンが丘の上にあるから眼下に街並みが一望できる。先週まではあそこに あの深淵達がうごめいていると思うと 足がすくんだが今日は コレがあるから大丈夫 ユキからもらった瓶を握り締めてレオナは 歩道橋を下りた。

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