第8話 レオナのターン と 戸惑うユキ

「そうだね 深淵の話に戻ろうか?」

ユキは 戸惑いを誤魔化すように コップに口をつける


その時 カフェの鐘が鳴った

あれ? 早くない?レオナが首から下げた時計を見ると、まだ15時だ

ユキも腕時計を見て言う


「今日は 日曜日だから 閉店時間が早いんじゃない?」

ユキに言われて 今日が日曜日だったことを思い出す

金曜が終了式だったから 夏休み2目にして曜日感覚がくるっている


「あ 閉店だったら もうここから退かなくちゃだめですね」

「ゴミさえ自分でかたずければ 大丈夫じゃないかな? このテラス チェーンとかも無いみたいだし」


言いながらユキはテラスを見回す


「じゃあ もうちょっとだけ大丈夫ですか?」

「僕は 大丈夫だよ。 

そうだなあ 今度はレオナちゃんの考えを教えて貰える? レオナちゃんだって 10年くらい 深淵を見てきたんだから もしかしたら僕よりも詳しいかもしれないよ」


「あんまり 詳しくなりたくないって思って来たんですけど…… 

お知り合いになりたくない 反社会的勢力の方みたいな? でも、 さっきのユキさんのブラックホールさんみたら見たら ちょっとお知り合いになってもいいかもって気がしてきました。

コレって 悪いやつに惹かれるってのですかね? 私 危ないヒトですかね?」


「はい ストップ ストップ 君の深淵についての考察をお聞きしたいな」


ユキが両手を上げる.

レオナは一度口を結んでから言う


「はい 先生 いえ 師匠 あ 師匠って呼ばせて頂きます!」


レオナが宣言する。

レオナにとってユキが師匠となるのは運命なのだ!ユキを師と仰ごうと決めていたのだから譲る気は無い。


だが、突然の師匠と呼びます宣言にユキは両手を上げたまま聞く


「師匠って 何の?」

「深淵使いの ですよ! 私も深淵使いになりたいんです」


そうだ レオナがなりたかったのは 深淵使いなのだ。

深淵を飼いならしたいのだ

そうしたら 欲しかったものがみんな手に入る気がする

普通の学校生活とか 普通の家庭生活とか とにかく普通の生活とか普通の中学生になって両親を安心させたいのだ


師匠と呼びたいと言われて ユキは困惑した表情で固まった。

固まったユキを見て レオナが慌てて語りだす。

ここで見捨てられない為には とにかく 包み隠さず語り続けるしかない。


「あ!はい 私と深淵の関係ですよね 

えっと 保育園通ってるくらいの時に 祖母の葬儀の時に深淵をみてから、私の視界? 生活?に深淵が入り込んできたんです

 えっと とにかく 初めて深淵を視た時には 怖いって思って … その後は もう 深淵に見つからないようにって思って生活して 深淵らしきものを見たらとにかく 避けて って生活してきたんです。

 私、すごく 怖がりになってしまって、そしたら わざと脅かす子とか出てきて

”すぐに泣く子”って言われて、それで 結局 小学校は3年生の時に転校したんですよね 引っ越しが先かな?

弟が生まれたからちょうどいいって親は言ってたんですけど…私の転校の為の引っ越しかなっと思うと 両親にも申し訳なかったと思っているんですよね。」


レオナは なるべく 深淵から離れないように注意しながら話したけれど やっぱり 支離滅裂になっていた。

 頭の中に浮かんだことを整理して話すのは苦手だと思いながら話し続けた


「次の小学校では 流石に私も頑張ったんですけど、今度は自閉症?とか言われて 

あの 人の眼の黒いとこ 瞳孔?が怖いんですよ 深淵みたいじゃないですか?


今は 錬心学園の中二です。錬心は 変わり者が多いって言われているのご存知ですか? 他人から見たら私も変わり者らしいんですけど… 

あ 前に"深淵も見ている"って言葉教えてくれた あっちゃんも錬心なんです


深淵の事は ちょっとだけ人に話したことあるんですけど、今のところ 見えてる人は 師匠しか会ったことないんです」


レオナはチラリとユキを見た。興味深げに聞いているようだったので とにかく話そう、見捨てられないようにとにかく話をつなげようと思った


「亡くなった祖母は すごく私の事可愛がってくれてて、私のレオナって名前つけてくれたのも祖母です。


だから 祖母のお葬式に行かなければよかったなあって思っちゃうの嫌で

でも 行かなかったら 私 もっと 普通に生きてこれたかなって思うと やっぱり 行かなければよかったなあっとか 思っちゃうこともあって…」


レオナは優しくて 楽しい祖母が大好きだったハズなのに 祖母を思い出すと同時に深淵も思い出してしまう。

深淵を否定しようとするのは 祖母を否定することになる。 それは嫌だ 祖母を否定はしたくない。でも …

では どうしたらいいのか? 解らなくて 泣きたくなる。


小さいころ 自分で勝手に転んでおきながら

「おばあちゃんのせい」

っと 祖母にすがって泣いたら よしよしと慰めてくれたように、祖母のせいにしても祖母はただ慰めてくれるだろう。 


そう思うと ますます 自分が情けなくて涙があふれてきた。


おばあちゃんごめんなさい

おばあちゃんごめんなさい

私が弱虫だから おばあちゃんのせいにして ごめんなさい

強くなれなくてごめんなさい


ユキが 遠慮がちに 泣いているレオナの頭を撫でてくれた。


レオナは 2つ目の小学校に移った時に もう人前では泣かないと決めていた 

悲しくなったり 困ったときに無表情になることはあるが泣くことは無かった。

5年間 泣くときは一人の時だけだった それなのに今 涙が止まらない。


ポロポロと涙を流すレオナの頭をユキは優しく撫でる。



ユキにとっての深淵は 決して否定するものではない。

避けたい どころか 見つけたいくらい好きなモノだ。


レオナとの違いはどこから来るのだろうか?


ユキが初めて会った深淵が暖かくて優しい深淵だった事か?

その持ち主の有がレオナの言葉を借りれば、優秀な深淵使いで、幼いユキに短いけれど適切なアドバイスをくれた事か?


ユキの冷静な性格も 深淵と付き合うのには良かったのかもしれない。

ユキはごく普通に 子供が石や虫に興味を持のと同じように 深淵に興味をもって近づいた。

ただ 慎重な性格ゆえ 毒がある虫に注意するように深淵にも注意して接してきた。


それに比べてレオナは 深淵について何かを教えてくれる人に出会う事も無く、一人で正体不明の深淵に怯えてきたのだ。


ユキと正反対の角度から深淵と対峙する少女、彼女は今 目の前で泣いている。


ユキは レオナの頭を撫でながら いろいろと考えを巡らせていたようだが、やがて 撫でていた短い髪の頭を ポンポンと優しくたたいて


「レオナちゃん 僕 良い師匠になれるかはわからないけれど、レオナちゃんがちゃんと深淵使いになれるように協力してあげよう 頑張ろうね! 弟子くん」


ユキはふざけた言い回しが得意でないのだろう お道化た言い方がいかにもぎこちない。

そのユキの言葉にレオナは顏を上げて 赤い目と鼻で


「はい!!お願いします お師匠サマ」


と言って 頭を下げた。


その拍子に 机に置いてあった ペンがコロリと落ち、 レオナがそれを拾おうとして 今度はノートがバサリと落ちた。ユキがノートを拾ってレオナに渡しながら言う 


「今日の修行はここまで!」


「ありがとうございました ご無礼致します」


レオナは俯いたまま ユキに告げてテラスから速足でガーデンの出口に向かう


はあ。。。。人前で泣いてしまった。出口付近に深淵が居ないのを確認してガーデンを出る。

レオナは家に出るまでほとんど顏をあげる事無く帰り 玄関を入ったところで ほっと一息ついた時に気が付いて 叫んだ


「あ!師匠と次の約束をしてない!!」

 

その少し前、 一人テラスに残って 自分の芝居じみた言動に赤面しながら レオナの話を反芻していたユキも 同じことを思い 呟いた


「まあ ご縁があればすぐに会えるんだろうな」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る