第28話 入館証と1600度
セスタに新たな注文をお願いし、教会に帰って来た頃には日が暮れていた。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
総士郎の「ただいま」にササリアが「おかえり」を返す。
大学生の頃から老人ホームに入るまで50年以上も寂しい一人暮らしをしていた総士郎にはまだなれないやり取りだった。
「もう夕御飯にしますので。手を洗って待っていてください」
ササリアに言われて手を洗って席に付く。
夕食は貝のスープとトマトソースの平打麺のパスタ、それに付け合せのザワークラウトだった。
いつも通り美味しかった。
「これをどうぞ」
ササリアから白い木の札のようなものを渡された。
「ロシェ様がお約束していた資料室へ入るための特別な入館証ですね。資料室は2階の手前側にあります。札も掛かっているのですぐわかるはずです」
「おー、これでいろいろなことが調べられるな」
木の札には「特別入館証。資料室入室可」と書かれていた。
これでこの世界のいろいろなことが調べられる。
特に地図は真っ先に閲覧したいところだ。
「それから、祝福の泉には私とソウシロウさんと、雇われの戦士が1人、魔法使いが2人で行っていたことになったそうです」
「上手く行きそうなのか?」
「そうですね。地下迷宮に入ってくれる魔法使い2人は普通には難しい気がします。でも、祝福の水を大量に得られたことが教会内でも話題になってますね。それだけの量を手に入れたからにはそのくらいはやったのではないか?という雰囲気もあります」
「少々疑問はあるけど考えられなくはない、って感じか」
「ですね。あと、大ムカデの外骨格も買い取りなどに出してしまっていいそうです」
「了解。買い取って貰えたらササリアに銀貨20枚も渡せるな」
「明日の海畑はどうしますか?私は普通に参加するつもりですが」
「明日は海畑に出られる日か。朝は一緒に行こう。何が上がってるかで仕事も変わるからな。朝にリカード中隊長と相談するよ」
「わかりました。明日は海畑の時間、少し早めに起こしますね」
そう言ってもササリアは自分の部屋に戻っていった。
総士郎も自分の部屋に戻る。
リュックサックから鉛で作られたドングリを取り出す。
それをじっくりと眺める。
砂型同士をくっつけた部分にわずかに線が入っているが良い出来だ。
このまま、セスタにお願いすれば銃の材料は揃うと思う。
「ただなぁ」
セスタは「質のいい鉄を溶かせるほどに炉の温度を上げられない」と言っていた。
たぶんセスタの工房の炉は1200度くらいまでしか温度を上げられないのだろう。1200度なら不純物の多い比較的脆い鉄を溶かすことができる。
質の良い、不純物の少ない鉄の融点は1500度程だ。鋳造で使うなら1600度程までは温度を上げたい。
銃の銃身にはアイアン・スケルトンの鉄を鋳造で使いたいと総士郎は考えている。
そのためにはもっと高温まで上げられる炉を作るか、魔法を使うか、が必要になる。
今日、見たセスタの工房の炉は、石炭に横からフイゴで空気を吹き付ける形式だった。下からフイゴで空気を送る方式に変え、フイゴでたくさんの空気を送りこめば1600度くらいまでなら温度を上げることができるはずだ。
ただ、炉自体がそのままだと高すぎる温度で痛む可能性も高い。そこら辺の改良も必要になる。
すると魔法を使うのが手っ取り早いのだが、セスタは総士郎が風の属性に適正のある魔法使いだと知ってしまっている。
そこに炎か光の魔法にも適正があることを明かすことになる。
「技術的には条件を満たしてるんだけどなぁ」
総士郎は鉛のドングリをいろいろな方向から眺めながら呟いた。
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