☆【5】光

※雲雀の読み方は[ひばり]です。



「屍鬼の群れです!」


「屍鳥が混じっていますね」

「アルカードが呼んだのでしょう。屍龍の数が少ないのが、せめてもの慰めかしら」


「下がっていなさい。私が片づけます」



「っ、――」

 雲雀の唇の端から、紅い血がじわりと垂れ落ちる。

「雲雀様!」

「……大丈夫」



「あなたは、無茶ばかりする……」

「陸糸、お願いがあるの」

「何でしょうか?」


「私を不二の頂へ連れて行って」

「何をなさるおつもりですか」

「アルカードは休眠するようだわ。紀凰たちが知らせてくれた」

「眠るのですか?」

「ええ。それも、彩楼の下で。目覚めるのは十年ほど先らしいわ。だから私も眠るつもりよ」

「なぜ」

「あなたたちは餓えている。試してみたいの。私の命が、あなたたちの糧になり得るのかどうか」

「雲雀様!」

「お願いよ。私を連れて行って」

「あなたが再び目覚めるまでの間、私に何をして過ごせと?」

「王を助けて、健やかに過ごして」

「無理です」

「あなたは、いつも私を信じてくれていた。私も、あなたを信じている」

「雲雀様……」

「お願いよ。もう時間がないの。この命が尽きる前に、早く」


☆【6】十字架

 ハイデンフェルトは、食に関して特殊な嗜好を持っていた。


村人の少年、ハイデンフェルトが、同じ村に住む少女を殺して、血を啜る

少女の死体を食べる

少し前から村に滞在していたザカーが、ハイデンフェルトを見つける


「リタ=ミラを殺したな」

「ち、違う。僕は……」


「農場からお前と彼女を見ていた人間がいた」

「――誰だ?」

「おれだよ」


「お前に印をつけた。お前はもう、おれから逃げられないよ」

「あんた、あんたは一体……?」

「おれはザカー。お前と同じ血を持つ者だ」

「僕と同じ? でも、あんたはそれだけじゃない! 怖ろしい……。僕の知らない怖ろしい力を感じる!」

「ふふっ。おれは、おれたちよりも怖ろしいものに喰われちまったからな。だけど、そのお陰で強い力を得た。お前も同じ力が欲しくはないか?」

「い、嫌だ。僕はここにいる」

「駄目だよ。いいか、サージェの次男坊。お前には、おれの手助けをしてもらう」

「な、何をすれば――」

「簡単なことさ。おれの手足になってくれ。この体はもう保たない。おれと同じ血を持つお前なら、少しは長く保つだろう」


「この血を持つ者は残り少ない。お前に逢えて嬉しいよ」


 夜明け前。ハイデンフェルトは逃げるように村を出て、流れ者となった。

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