仲間と共にやがて最強《冒険者(トラベラー)》へ~魔法が消えた世界は、代わりに別の力が流行り出したようです。
安野 吽
第一章 黒火の少年と灰白の憂姫
プロローグ ー墜ちた少年ー
――快晴。
凪いだ海をひっくり返したような澄んだ空。
そこに浮かぶきつい日差し放つ太陽をを遮るように一つの影がよぎり、あるところで止まった。
ただただ巨大なその影は手足を縮め、滑空するような姿勢で空に浮かぶ。錐のように尖った尻尾や、角有りの頭部、蝙蝠のような翼は明らかに鳥類の物では無い。
――
どういう理屈で浮いているのかはわからないが、理由の方はすぐに分かった……その背中から、豆粒のように小さいものがポロリと落とされたからだ。
錐もみ状に回転しながら落下するそれは徐々にそれは大きくなり……。
「――――――!! ァ――――――――――!!!!!!」
ズドゥォオオォォン……!!
轟音が大地を揺らす。
それは絶叫を上げながら地面に到達し、辺りはたった今掘り返された土砂で白く煙る……風で取り払われる砂影から露わになったのは、逆さに突きささった少年の体だった。
足をイソギンチャクのようにバタバタと動かして上半身を引っこ抜き、生きていた彼は両手をわななかせて勢いよく口から砂を噴射する。
「ブバッハァ――ッ!」
そのままくしゃみごと全て吐き出すと、彼は顔を空へ向ける。
衝撃で背が縮まったのか思う程ちんまりと小柄な体をした、尖った髪も目も真っ黒で他はまるで特徴も無い普通の少年。彼は怒りのまま指を突き上げ、開口一番怒鳴り上げた。
「馬っ鹿師匠――!! 殺す気か――アホボケカスこんにゃろ――っおわぁ!!」
スッ、それを予期したようなタイミングで空から黒い影が伸び――。
ズドシュッ……!
流星のような勢いで目の前にぶっ刺さり、再度砂塵が辺りを染めて彼を隠す。
「……がほっ! げはっ……チックショー……!」
小規模に陥没した地面から少年が片手で抜いて掲げたのは――飾りも鞘も何もかもが光を吸い込むように黒い、重厚で武骨な豪剣。それを突き上げる少年の姿は、あたかも
ピラ……ピラ……。
貼りついた紙片が情けなく風にはためき、表にこう書かれていた。
――『忘れ物よ、せっかちさん♡』
「んがぁっ! 違ぁーう!
少年は怒りの声を上げながら紙を噛み千切って破り捨て、せめて少しでも台無しになった雰囲気を元に戻そうと剣を外套で拭い再び持ち上げる。
「これでよし……。てか壊れてねえだろうな……? にしてもフツー空から蹴り落とすか!? 俺じゃ無かったら死んでたぞ!? 戻って一発ぶん殴りてェ――!!」
のたうち回る少年はその内一人芝居が恥ずかしくなったらしく、深呼吸を一つして気分を落ち着ける。そして未だ空中へとどまる巨大な竜へビシッと指を突き付け、思いの丈をぶつけた。
「聞こえてるよな師匠! 三年だッ! 三年以内に必ず俺は【時】と【魂】の《神器》を手に入れて戻る。そうしたら約束通り妹を……シィを元に戻してもらうからな! 覚悟しとけ、若作りの派手好きババァ――! バーカ、バーカ、ベロベロバー!」
『ギュアァァァッ!』
舌を出しておちょくる彼の言葉に答えたのは背中の人物ではなく竜の咆哮。滑空する巨体の先端――カパッと九十度開いた口の奥に小さな火が点灯する。
「ヤッベェッ!!?? うぉ、おおぁぉあ来た来た来たっ、ブレスッ来たァ――――!」
いらないことをした所為で返って来た
目前は断崖……だが躊躇せずに最高速度で突っ走り……。
「あぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃぃぃ……ィヤッハァ――――!!!!」
そして――そのまま飛び出し急降下――。
くるっと裏返って空を見上げ、背中で風を受けながら大きく手を振って笑う。
「じゃあ、またな――ッ!!」
空から一匹と一人に見守られながら元気な別れの言葉を響かせ、ただ一人の家族を救う為の少年の冒険が今、慌ただしく始まりを告げた。
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