第2話
君と僕が出会ったのはもう随分と前のことだと思う。君はまだ覚えているかな。覚えていてくれたら嬉しいけれど、やっぱり忘れていて欲しい気もする。結局僕はどっちを望んでいるのだろう。考えても答えが出るはずはなく、僕は考えることを放棄した。
僕は君と出会った時のことを未だに覚えている。忘れてしまいたいけれど、忘れられない。忘れたくない。忘れてしまえば君のことも忘れることができるかもしれない。けれど、せめて僕の中には君を残しておきたい気もする。やっぱりどうしたいのか僕には分からない。結局君は僕の中に居座り続ける。いつまで僕の中にいる気なのか。僕には分からない。
初めて会った時、君は笑顔で話しかけてきた。僕は人見知りが激しい。突然話しかけられて驚きつつ、なんとか会話を続ける。周りから見たら相当変なやつだったと思う。それでも君は気にせず話しかけてきた。僕はなんとか会話を続けた。しばらくして僕も会話に慣れてきた。やっと普通に話せるようになり、君は「やっと慣れてきた?緊張する必要ないのに。」と初めから分かっていたかのように言ってきた。僕はいつも話したいけど緊張して話せないだけなのに、話したく無くて無愛想になっているのだと勘違いされる。それなのに君はそんなこと気にせず話しかけてくる。いつもするのは他愛無い会話ばかり。今日テレビでこんなのがやってた。だとか、この小説が面白かった。だとか、雨が降っていて憂鬱だ。だとか、昨日は星が綺麗だった。だとか、僕たちはなんの意味もない会話をした。その会話にはなんの意味もないのに何故か僕は楽しかった。そんな日々が続いていき、気づいた時には僕にとって君は特別な存在になっていた。
いつも話してくれて、相談に乗ってくれて、陰で支えてくれて、笑わせてくれて。
君にとっても僕が特別な存在になれればよかったのに。僕は力不足だった。僕がもう少し君を支えられていたら、君の心の拠り所になれていれば良かったのに。僕は幾度となく考えた。けれど、結局は考えるだけで終わってしまうのだ。結局全部僕の理想論で、夢物語で、叶うわけのないことなのだ。僕には君の力になれるほど力はないし、君を支えられるだけの余裕もない。いつも僕が寄りかかってばかりで、君に支えてもらってばかりだった。こんな頼りない僕に相談なんて出来るはずがない。
僕は気づくのが遅すぎた。もう少し早く気づいていたら、あともう少しだけ早く気づいていたらまだ君はここに居てくれていたかもしれない。どれだけ後悔しても意味が無いことは分かっている。それでも、僕には後悔することしか出来ない。
あの日、君にあんなことを言わなければ良かったのだろうか。他の言葉言えば良かったのだろうか。今になっても未だに分からない。どれだけ考えても何ひとつとしてしっくりとくる言葉なんてものはない。結局しっくりとくるものなんてないのではないか。僕がどんな言葉をかけようと、どんな行動をしようと、結局は何も変わらなかったのではないか。いつかはこの結末になっていたのではないか。1度考え出したら止まらない。結局僕のしたことは全て無駄だったのではないか。君と出会ったこと、他愛ない会話をしたこと、一緒に出かけたこと。僕にとってはとても大切で、忘れることの出来ない思い出だ。でも、君にとっては違うのかもしれない。忘れてしまいたい過去なのかもしれない。覚えている必要のないくらいくだらない日々だったのかもしれない。僕はそんなことを考えては、君も僕とすごした日々を楽しく思っていてくれればいいのに。思い出として覚えていてくれればいいのに。と何度も願った。
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