Dia.9「カレンダーに蜘蛛の糸を」

「おいしいねぇ」

「ん」

「なんかそっけなくない?」

「……、人が食べてるときに話しかけるから」

「冗談だよ、ごめんごめん」

「怒ってない」

「わかってますよ〜。……ん、んまいねこの……何?」

「クスクスね」

「ク……なんて?」

「クスクス」

「なんでも知ってるねぇ」

「メニューに書いてたし」

「あれ、そうだっけ?」

「大丈夫?」

「いつも通りでしょ?」

「まあ、そうだけど」

「じゃあ、大丈夫だ」

「そういうものなの?」

「ソウイウモノデス」

「あ、そうですか」

「そっけなくない? 傷付いたんだけど……」

「ごめん」

「あはは。冗談ね、冗談」

「はあ」

「ほら食べなよ? 冷めるし」

「割とこっちの台詞だけどね、それ」


───────────


「は〜〜〜、おいしかった」

「うん、美味かった」

「幸せだなぁ、明日の仕事でこの気持ちに水を差したくないなぁ」

「まあ、それは、頑張ってくれ、うん」

「あー、いっそこのまま死ねたら幸せのままなのかなぁ」

「冗談がキツい」

「……ごめん、ごめん」

「……? ……。

 ……、また、来月、なんか美味いもん食べに行こう。奢るし」

「え、いいの?」

「やむを得ない」

「何が?」

「何が? ……何がだろうね?」

「珍しくはぐらかすね」

「……、いや、なんでもない。

 何がいい?」

「うーん……。

 まあ、来月決める」

「じゃあ寿司で」

「なんで?!」

「冗談だけど」

「君がそういうことを言うと調子が狂う」

「普段言われる側の気持ちが分かりましたか?」

「え、嫌だった?」

「嫌でした」

「マジ?」

「ふふ。冗談冗談」

「〜〜〜〜〜〜〜……。」

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