第16話 反撃開始!
「ぐおあっ!?」
拳を振り抜くと、ギリアムの体は吹っ飛び、真後ろにある木の幹に激突。あの勢いだと、しばらくは動けないだろうな。
「き、貴様!」
俺が武器を手にしていないことと人数差を見て勝手に「勝てる」と結果を決めつけていた連中にとって、この反撃は予想外のものだったらしい。
……そういえば、師匠が口酸っぱく言っていたな。
『勝利を確信した時こそ疑え』――と。
「痛い目に遭わなけりゃ分からねぇらしいな!」」
兵士のひとりが斧をふりかざすが、その瞬間、突風に煽られて武器を手放してしまう。
「バ、バカな!? なぜこうもタイミングよく風が――ぐはっ!?」
状況の理解が追いつかないためか、兵士たちにはことごとく隙が生じる。それを見抜いて反撃すれば、この程度の人数差など問題じゃない。
「こ、このガキ!」
今度は剣を持った男が襲ってくる。
接近と同時にまたも突風が発生する――が、さすがに今度は読んでいたようで、武器を手放さなかった。
とはいえ、そもそも実力が伴っていない。
ただ「素手の相手に比べ、こっちは剣を持っている」という優位性だけに頼った攻撃では意味がない。相手を怯ませるだけの迫力は乏しい。
そのため、俺は冷静に相手の動きを見極めることができ、カウンターで倒すことができた。
……あまりにもあっさり行きすぎている。
五十年前――俺が風の里で戦った連中はこんなものじゃなかった。それぞれが恐ろしいまでの殺気を身にまとい、俺は攻撃をさばくので手一杯。あいつらはもう殺しが生活の一部になっている、いわば「本物」だ。
しかし、今こうして対峙しているヤツらからは、そういった殺気を一切感じない。
帝国に対する忠誠心にも欠けているような気がする。
恐らく、五十年という長い年月の間に巨大化した影響で、こうした末端の兵士の質は大きく下がっているのだろうな。まさに質より量ってわけだ。
「これで残りは五人か」
ここまでは優勢に戦いを進められたが、さっきのヤツみたいにもう突風で怯んだりはしないだろう。なら、より強力な風竜の力でねじ伏せるまでだ。
そう決意した途端、風竜の魂が宿る右腕のタトゥーが輝きを増す。
こちらの意思に合わせて、威力が増しているようだ。
――やれる!
五対一という状況であっても、この力をうまく生かせばその差はあっという間に消えてなくなる。それが確信できるほど、力がみなぎっていた。
「いくぞぉ!」
腰を落とし、戦闘態勢へと移行――が、ここで敵の五人は意外な行動に出る。
「ひ、ひいいいいいい!」
ひとりの兵士がそう叫び、手にしていた武器を放り投げて逃げだしたのだ。さらに、それを追いかけるような形で残りの四人も同じ行動を起こす。
ヤツらは逃げだしたのだ。
「……つくづく腑抜けた連中だな」
俺が戦っていた時代の帝国兵ならあり得ない、無様な敗走。
敵を褒めるってわけじゃないが、恐らく、俺が里で戦った連中ならば、きっとあのような姿をさらす前に、せめて死を選ぶだろう。
とりあえず、周りから敵はいなくなったようなので、今のうちにハリスさんたちのところへ戻らないと。
……それから、
「大丈夫か、レイチェル」
「あ、あぁ……」
精神的に深いダメージを負ったレイチェルをどうにかしないとな。
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