第15話 怒りの風
俺たちは敵陣のど真ん中で孤立していたギリアムさんたちと無事合流できた。
あとはここから抜け出て、ハリスさんたちのもとへ戻るだけだ。
――ただ、これが難しい。
ここまで来るのに俺とレイチェルのふたりだけだったからまだ怪しまれずに済んだ。だが、今度からは一気に人数が増える。おまけに負傷者までいるとなると、敵に発見される可能性がグッと高まるな。
だからこそ、ここからは俺の出番だ。
「よし……レイチェルはギリアムさんたちを連れて北側のルートからハリスたちと合流するんだ」
「分かった」
「うん? 君は……?」
「元風の里の者です」
「風の里だって!?」
ギリアムさんが驚くのも無理はない。
とりあえず、俺が怪しい者ではないということをレイチェルが早口で説明――その際、俺は周りで動かない兵士たちへと視線を向ける。
「……うん?」
最初は気を失っているのだと思っていた。
だが、この出血量……それに呼吸も……
「まさか……」
「どうかしたのか?」
レイチェルが俺の方へ顔を向けた瞬間だった。
「えっ!? きゃっ!?」
突然、短い悲鳴が聞こえた。その直後、彼女の体は光のリングによって自由を奪われ、その場に倒れ込んでしまう。
「レイチェル!?」
「おーっと、動くなよぉ」
近づこうとした俺を制止する声。
それは――
「驚いたぜ。風の里の生き残りがいたなんてなぁ……こりゃ神が俺に出世しろと言っているに違いない」
「ギリアムさん……」
歪んだ笑みを浮かべるギリアムさんだった。
――ここで、俺はすべてを察する。
今、目の前で起きている事態は……考えられる可能性の中でもっとも起きてほしくない事態である、と。
「五十年前に里の者は全員殺されたと帝国側の資料に残されていたが……まあ、やっぱり生き残りはいるよな。年齢からして、三代目あたりか?」
「あなたが……帝国に通じていた裏切り者だったんですね」
「裏切る? それだと聞こえが悪いな。賢い判断を下したと言ってもらいたいねぇ」
「賢い判断?」
「帝国に打ち勝つなんて望みは紙っぺらのように薄い。万にひとつとしてあり得ない話だ。そんな夢物語を信じている連中の情報を明け渡すだけで多額の謝礼と地位を得られるんだ。どっちを選択するかなんて、考えなくても分かるだろ?」
そう言った後、高らかに笑うギリアムさん――いや、ギリアム。その近くでは、レイチェルが「どうして……」と涙を流しながら呟いていた。
「もしかして……周りの兵士たちは……」
「悪いが、死んでもらったよ。仕方ねぇよなぁ、俺が生き残るためだ」
「っ!?」
こいつ……欲に目がくらんで仲間を利用したのか……!
「ついでに風の里の生き残りまで手に入った。悪いが、ついてきてもらうぜぇ?」
「……嫌だと言ったら?」
「断れる状況だと思ってんのか?」
ギリアムはパチンと指を鳴らす――と、周囲の茂みから武装した男たちが出てきて俺たちを取り囲む。
「後悔したところでもう遅ぇぞ。おまえには風の里にある風竜の魂が眠る場所まで案内してもらうからな」
「…………」
俺は黙ったまま――しかし、右腕のタトゥーは爛々と輝き始めていた。
「あん?」
それにギリアムが気づいた時には……もう遅い。
突風が巻き起こり、周りの兵士たちが怯む。
「な、なんだ、今の風は――風!?」
ギリアムが風の正体に気づいた瞬間、ヤツの顔に俺の拳がめり込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます