第13話 裏切り者

 思いのほか早い敵の動きに翻弄され、俺たちは立往生を余儀なくされた。

 このまま突き進んでも成果は得られないと判断し、ここは一旦退いて体勢を立て直そうということで意見は一致。


 俺たちは後退し、途中で見つけた小川のほとりへと移動した。


「明らかにおかしい……」


 早速メンバー揃って今後の作戦について議論をしようとしたが、敵の迅速な動きに違和感を覚えたハリスさんがそう漏らす。

 

「まるでこちらの動きを事前に把握しているようでした」

 

 さらに、レイチェルが核心をつくひと言を言い放つ。


「滅多なことを言うもんじゃないぜ、レイチェル。それじゃあ、この中に裏切り者がいて、そいつが俺たちの情報を漏らしているように聞こえるぜ?」

「……その可能性はゼロではないだろう」


 ひとりの兵士の言葉に対し、ハリスさんがそう告げると、その場にいた全員が固まった。


「リ、リーダーまで仲間を疑うんですか!?」

「あくまでも可能性のひとつだ。非常に薄い確率ではあるが、向こうが取った行動がたまたまこちらの動きに合わさった偶然という線もある。或いは、どこかで俺たちの話を盗み聞きしていた第三者が密告したということだってあり得るんだ」


 そう。

 可能性は決してひとつじゃない。

 しかし、それを判断する材料があまりに少なすぎた。


 最悪のケースは裏切り者が実在していて、帝国側が待ち構えているという事態。

 ヤツらは風竜の力を欲している。

 風の里の跡地を目指している理由の本命はそっちで、反乱軍の討伐は行きがけの駄賃程度にしか思っていないのかもしれない。


 ――けど、今は俺がその風竜の力を得ている。


 これもひとつの可能性だが……昨日、俺が倒したあの男たちが、風竜の力を持った可能性のある人物がいると報告していた場合――ヤツらの狙いは俺に絞られるだろう。


「……ハリスさん」

「うん?」

「提案したいことがあります」


 そのことを踏まえた上で、俺はハリスさんにある提案を持ちかけた。それを聞いたハリスさんを含む周囲の反応は、


「いや……それはできない」


 提案の否定だった。


「リスクが大きすぎる」

「でも、これならみんな無事に拠点へ帰還することができますし、帝国側の戦力を減らせるかもしれません」

「し、しかし……我々はいいが、それでは君が――」

「俺なら大丈夫です」


 キッパリと言い切る。

 今回の作戦では、風竜の力を宿した俺自身の存在が一番重要となってくるため、どうしても危険な――それこそ、命を落とすかもしれない役目を担う必要がある。


 それでもかまわない。

 どのみち、この世界ではもう俺の知っている人は誰もいないのだ。

 帝国の連中にひと泡吹かせるためにも、ここは退けなかった。


「待て」


 沈黙に包まれる中、声をあげたのはレイチェルだった。


「おまえの覚悟は受け取った。ここはやりましょう、ハリスさん」

「し、しかし!」

「もちろん、条件はつけます。――私もついていく」

「「「「「えっ!?」」」」」


 レイチェルの言葉に、思わず俺も叫んだ。


「そ、そんな! レイチェルまで巻き込めない!」

「私は途中の手伝いまでだ。最後の仕上げに関しては……恐らく、私ひとりでは大きな足手まといとなる。だから、少しでもおまえが戦いやすい状況を作っておきたい」

「なるほど……適材適所というわけか」


 ハリスさんは妙に納得しているけど……俺としてはとても受け入れらなかった。

 ――が、


「おまえがなんと言おうと私はついていくからな」


 その強い眼差しに、抗議の言葉はあっさりと押し負けた。

 ……彼女の言うことは間違っていない。

 戦いやすい状況を作ってくれるというならば、俺にとってこれほどありがたい存在はないわけだし。


 ともかく、こうして作戦を決行する準備が整えられた。

 動きだすのは明朝。

 それまで、俺たちは交代で見張りを立てながら、深い森の中で夜を過ごすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る