第11話 戦うために

 風の里の跡地を目指して進行中だというグワーム帝国の軍勢を迎え撃つ。

 反乱軍の次なる行動はそう決まった。


 あと、思わぬ追加情報がもたらされた。


「今回、帝国軍を率いているのは……火喰いの男です」

「火喰い?」


 聞き慣れない名前に、俺は思わず尋ねた。その疑問に、ハリスさんが答えてくれた。


「火喰いとは、ここ数ヶ月のうちに名を挙げた帝国の兵士だ。本名は不明だが、炎魔法のスペシャリストだと聞いている。……それも、前例の魔法だそうだ」

「そ、それって……」


 レイチェルの視線が俺へと向けられる。

 俺の持つ風竜の魂による攻撃も、言ってみれば前例のない風魔法のようなものだしな。それと同じということは、


「その火喰いというのは……聖竜の力を宿している可能性がありますね」

「ヤツも五十年前の人間だというのか!?」

「断言はできませんが」


 動揺するレイチェルだが……そうとも言い切れないだろうな。こればっかりは、直接会ってみないと。


 そんなわけで、俺たちはただちに移動を開始することにした。

 この拠点から風の里の跡地まではかなり距離がある。

 そのため、撤退した反乱軍の仲間を救出するには、すぐに出発する必要があった。


「ということは……馬車の中で会議を?」

「そうなるな」


 というわけで、反乱軍の中でも腕利きの者たち三人と一緒に、俺は馬車へと乗り込んだ――と、その時、


「私も行きます!」


 名乗りを挙げたのはメイジーだった。


「メ、メイジー様!? 危険ですよ!?」

「覚悟の上です」


 レイチェルを含む反乱軍の面々は一斉にメイジーの同行へ反対する。それについては俺も同意だ。自ら前線に出ようとする熱意は買うが、話を聞く限り、帝国側との戦力差は相当なものと思われる。


 その状況下で、彼女を守りながらの戦いは不可能だ。

 戦闘力があるとも思えないし、ここは――


「君の気持ちはよく分かる。だけど、今度の戦いはかなり危険だ」

「そ、それは……」


 彼女もそんな予感がしていたらしい。

 それでも、王家の人間としてジッとしてはいられないということだろう。

 ……そういうところは、俺の時代の国王陛下と似ているな。

 

「? どうかしましたか?」

「っ! い、いや、なんでもない」


 思わず見つめてしまっていた……そう思ってみて見ると、どことなく陛下の面影がある気がするな。――って、今はそれどころじゃない。


「と、ともかく、メイジーはここで待っていてくれ」

「で、でも!」

「最高の報告を持って帰ると約束する」

「! わ、分かりました」


 ここでようやくメイジーが折れてくれた。


「大見得を切ったんだ。必ず生きて成果を持ち帰るぞ」

「当然だ」


 俺はレイチェルと拳を突き合わせる。

 戦力差は明白。

 それでも、ここで引き下がるわけにはいかない。

 仲間の救出と、なくなってしまったとはいえ、多くの仲間が眠る風の里への侵入を許さないために――俺は新しい仲間である反乱軍とともに戦う道を選んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る