04:方針
大木の前の野営地。
兎が縛り上げられた仲間の縄を、銅のナイフで切る。
解放された栗鼠が手首をさすりながら、申し訳なさそうに兎に言った。
「すまない……」
「うん、大丈夫?」
栗鼠が辺りを見渡すと、まだ五人の仲間が縛られ、転がされたままだ。
「ああ、手分けして皆の縄を解こう」
一方、焚き火の近く。
狸達三人が並んで正座させられていた。
三人とも、しゅーんと下を向いている。
その前に、仁王立ちしたベルハイド。
「ひとつ聞く。お前ら、過去に若い猫の女を
マントの下の豹柄の毛並みを見せながら訪ねる。
「四年程前だ。俺と同じような、こういう珍しい柄の猫だ」
狸達三人は顔を見合わせた後、口々に答える。
「し、しらねえ、俺らは女を攫ったりなんか、しねえよ」
「俺らはほら、ちょいと荷物を頂くだけって言うか、へへへ」
「誘拐とかそういう、悪どい事はしねえんだ」
まるで自分たちが悪どく無いかの様な口ぶりだ。
それを聞いたベルモンドはすらりと抜刀し、突きつけながら再度確認する。
「確かか?」
狸達三人はおびえた表情で、声をそろえる。
「「「はい、確かです!」」」
「ちっ……」
ベルハイドは舌打ちをすると、キン!と音を立てて納刀した。
そこへ
「こいつら、何処の集落のもんだ?」
「このあたりだと、西の谷に割と大きな山窩の集落があると聞く。おそらくそこの奴だ」
「とんでもない奴らだ、ふん縛って集落に突き返そう」
口々に怒りに満ちた声が上がる。
悪さをした毛民を捕らえたら、そいつの集落に突き返してやる。
その集落全体に、そいつのしでかした悪さを伝える。
あとの処置、どうやってとっちめるかは、その集落に任せる。
そういうしきたりだ。
狸達三人が恐る恐る聞く。
「あの~、やっぱり俺ら、突っ返されるの?」
「嫁っこに怒られるから、その……」
「そっちは結局被害が出てないんだから、無罪放免って事で、駄目?」
山窩の集落も基本的に狩猟採取生活を営んでいるだけで、山賊のような悪党集団という訳では無い。
今回のような悪さは、集落の長老や家族の目を盗んでやっていると言うわけだ。
「お前ら、ふざけるなよ!」
怒号を上げたのは犬だ。
残月に敗れ縛り上げられた負い目から、少し強めに反応してしまうのだろう。
「ああ~、もう、すぐ縛れ! 吊せ!」
悪さした者の運び方にも定番の方式がある。
長い棒に手足を縛り付けて吊し、その棒の前後を駕籠屋のように二人で担いで運ぶのだ。
本来は蝦蟇などの大きめの獲物を運ぶ方式であり、運ばれる者を懲らしめる意味合いもあった。
今回運ぶ相手は狸達三人、それぞれ吊した棒を二人ずつで担ぐので、運搬役に六人必要だ。
それに対し隊の人数はベルハイドを入れても八人であった。
栗鼠が渋い顔で頭を掻きながら、兎に言った。
「残念だが、今回の
兎はキッと厳しい顔をして反論した。
「駄目よ。探索は続行します。私は何年もこの調査の準備を進めてきたの。こんなことで中止になんか、できません」
「いや、だってよ。食料が尽きたら帰るのもままならないぞ。こんな山中じゃ、お前の好きな人参だって採れないだろう」
多様な種族、混合の調査隊である。
それぞれの隊員に適した食料を用意するには、それなりの事前準備が必要だった。
兎は目を閉じ、少し考えてから言った。
「……隊を二つに分けましょう。私とこの剣士さんの二人で探索続行。あとの皆は賊を集落に突き返した後、そのまま帰還。これでどう?」
「しかしなあ。こんな辺境の探索を二人でって言うのは無茶じゃないか? こいつらの他にも荒っぽい山窩と出くわすかも知れない。それに野営の見張りは普通、三交代制だぜ?」
すると正座したままの狸達三人が勝手な事を言い出す。
「そうだそうだ。隊を分けたら危ないぜ」
「俺らを突っ返すのは止めて、皆で探索続行だな、うん」
「そりゃあ良い! 誰も損しないな。そうしよう」
すかさず犬がぴしゃりと言い放つ。
「黙ってろ! お前らを吊して突き返すのは確定してるんだ!」
それでまた三人は、しゅーんと下を向いた。
一方、兎は兎で、どうしても中止には反対したいらしい。
「巨神の探索なのよ? 毛民社会にとってどれだけ重要か。それに、この剣士さんの腕前は皆も見たでしょう?」
「いや、ちょっと良いか?」
腕を組んで聞いていたベルハイドが割って入る。
皆がベルハイドの方を見た。
「そもそも、決定権は誰にあるんだ? この隊を率いている隊長の意見に従うべきだろう」
すると皆の視線が兎に移った。
兎がベルハイドに告げる。
「私」
ベルハイドは思わず眉をひそめ、下顎を突き出す間抜けな表情で聞き直してしまった。
「ん? ワタシ?」
「そう、私が巨神調査隊の隊長よ。なので決定権は私にあります」
隊の皆はため息をついたが、一応納得した表情だ。
確かに、決定権は彼女にあるらしい。
「私はシロップ。改めてよろしくね、剣士ベルハイド」
ベルハイドは間抜けな表情のまま固まっている。
てっきり研究熱心な隊員が駄々を捏ねていると思い込んでいたのだ。
「オホン、んーと……護衛任務続行という訳だな」
ベルハイドはキリッとした表情になおしながら、そう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます