第41話 新居でも義兄妹の朝は相変わらず

 俺と莉緒は親元を離れ、アパートで二人暮らしをすることになった。

 物件としては新築で各部屋の広さも申し分なく、文句のつけようがない。高校生二人で暮らすには勿体ないくらいである。

 そんな新たな生活がスタートした俺達だが、引っ越しをした翌日の早朝から事件は起こる。


「……重い」


 俺は体の上に何か乗っているのを感じて目を覚ます。今いるのは俺と莉緒の部屋だ。洋室が一つしかないため、俺達は一緒の部屋で寝ている。

 ちなみに、これは昨日の出来事なのだが――。

 

「莉緒、俺はリビングで寝るからな。この部屋ではお前一人で寝てくれ」


「え? どうして?」


「どうしてって……毎日同じ部屋で寝るのは俺にはちょっと無理だ……」


「別にさ、一緒のベットで寝るわけじゃないんだからいいじゃん?」


「そんな簡単に言うなよ……」


 俺は荷物の整理していた手を止め、一息ついた。


「私の家で散々一緒に寝てきたじゃん。今更言うなんておかしいよ……お兄ちゃん……」


 莉緒が寂しそうな表情で言う。


「……ちょっとだけ聞きたいことあるんだがいいか?」


「なに?」


「まさかとは思うが、寝込み襲ったりとかしてこないよな?」


「…………」


 俺の質問に莉緒は黙り込んで目を泳がせる。


「おい」


「……え?あ、何の話だっけ?」


 完全に誤魔化そうとしているな。


「寝込み襲ったりしないよなって聞いてるんだけど」


「あー、その話ね!それなら大丈夫!ばっちり自分のベッドで寝るから!」


「……信じていいんだな?」


「も、もちろんだよ!そもそも妹を信用しないお兄ちゃんとか信じられないからね!」


 お前を信用したことなんて一度たりともないんだけどな。


「……分かった。莉緒を信じるよ」


 さすがに毎日同じ部屋で寝るのは俺は嫌だった。しかし、莉緒に言われた以上、断れないのが俺なのである。莉緒のことが大好きだからしょうがない。

 そして、実際に起きた結果がこれだ――。


「どうして、こいつは俺の布団の中にいるんだ……」


 膨らんだ布団の中を覗くと、俺のお腹の上でぐっすりと眠っている莉緒の姿があった。

 俺は「はあ」と深いため息をつき、莉緒の頬を引っ張る。


「んん……いひゃい」


「おい、莉緒。起きろ」


 俺は莉緒の頬を更に強く引っ張る。

 莉緒の頬は意外にも柔らかく、マシュマロのようにモチモチだった。

 今はそんなことどうでもいいか。


「おひぃにゃん、いひゃいっひぇ」


「痛いなら早く俺の上から下りてくれ」


「わはゃりまひた」


 俺の上から下りた莉緒は目を擦ってあくびをする。


「……お兄ちゃん、おはよ……」


「おはよじゃねぇよ!お前昨日と言ってることが全然違うじゃねぇかよ!」


 俺は起きたばかりの莉緒に対して怒鳴り散らす。


「……朝からそんな大声出さないでよ、お兄ちゃん。ごめんね。わざとじゃないんだよ?ほんとだよ?」


「信用出来ませーん」


 俺は棒読みで答える。


「夜中にトイレ行ったあとにね、多分だけど寝ぼけてお兄ちゃんのベッドに入っちゃったんだよ」


「無理でーす」


 もう一度、俺は棒読み答える。


「無理ってなにさ!無理って!あとその言い方すんごい腹立つんだけど!?」


「腹立ってんのは俺の方だわ!」


「違いまーす!私の方が腹立ってまーす!」


 莉緒が負けじと挑発してくる。


「お前が腹立つのはおかしいだろ!言ったよな!俺のベッドに入らないって!」


「寝ぼけてたんだからしょうがないじゃん!それくらい許してよ!ほんとにお兄ちゃんは心が狭いんだから!それだと私以外の女の人にモテないよ!?」


「俺はお前にだけモテればいいんだよ!他の女になんか興味ねぇよ!それともなんだ?俺が他の女子のこと好きになってもいいのか?」


 俺の発言に怒りのスイッチが入ったのか、頬を赤くして涙目になっていた。


「……お兄ちゃんの……ばかぁぁぁぁぁぁ!」


「ぐはっ……!」


 莉緒の右ストレートが俺の顔面に直撃する。

 やはり莉緒の右拳は痛さが別格だ。


「べ、別に!お兄ちゃんがモテたって、私がそれ以上にお兄ちゃんのことを惚れさせるんだから関係ないんだからね!」


「そんな上手くいくとは思えないけどな」


 俺は冗談半分で言う。


「もう!せっかく引っ越し祝いで豪華な弁当にしようと思ってたのに!今日のお兄ちゃんは弁当抜きだからね!」


  莉緒は俺を軽く睨みつけてリビングへ向かおうとする。


「は!?待てよ!それはおかしいだろ!」


「私知らないもーん!お兄ちゃんのばーか!」


 莉緒は舌を「べー」と出して部屋から出て行く。

 引っ越し早々だが俺達の仲は良いのか悪いのか、相変わらず分からないままだ。

 俺達の二人暮らしはここから再スタートである。

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