ぱの呪文
シヨゥ
第1話
「過去に滅びた文明が正義か悪か。そんなものを論じるのは私達の仕事じゃない」
老いた魔法使いはそう言いながら朽ち果てた遺跡の奥へと歩いていく。その姿に似合わぬ健脚で気を抜くと置いて行かれそうになる。
「そこ、罠があるから注意」
足を引っ込めると床が崩れ、針山が姿を表す。
「ありがとうございます」
「聞き手に死なれては悲しいからのう。それでなんじゃったっけ?」
「正義か悪を論じるのは仕事じゃないと」
「そう。そんなものその時々の司法官の仕事だ。俺等がやるべきは真実の探求」
「真実の探求?」
「そう。破却され、何も残っていないと思わされていた過去の文明の残滓を掘り起こすことにある」
魔法使いが壁の前で立ち止まる。
「どうかされました?」
「いや何、巧妙に隠されとるなと思っただけじゃ。ついて来い」
そう言って壁に向かって歩いていく。すると姿が消えた。何が起きたか分からず見ていると、
「何をグズグズしている?」
と顔をだけ覗かせる。
「すみません!」
思い切って壁に飛び込むイメージでぶつかる。すると開けたところ出た。
「今回は当たりのようじゃ」
声の方を見ると書架の前で巻物を読んでいる。
「それは?」
「滅びた文明の魔法書といったところかのう。見たこともないが呪文が書かれとる」
「大丈夫なんですか?」
「読んで見ないとわからんのう。どれ」
そう言うやその呪文を唱えてしまう。言葉というよりは音に近いそれは、唱えられたからといって何も起きない。
「大丈夫ですか?」
「……ぱー?」
「ぱー?」
魔法使いは首を傾げる。
「ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ」
「何を言っているかさっぱりですよ」
魔法使いはこちらへ歩いてくると地面に「『ぱ』としか発音できなくなった」と書き殴る。
「どうやらこの文明は悪い文明のようですね」
「ぱー」
気の抜けると声とため息ががらんとした遺跡に響く。頼むからこの呪文が時間で解除されるものであって欲しい。今となっては成果よりもそちらのほうが重要である。
ぱの呪文 シヨゥ @Shiyoxu
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