第41話 ペットから目を離した隙に……
「そ、そうですか? あー、リーメイさんは優良物件な上、良い子ですね~。あと三年経てば成人ですし……どうしましょう?」
「えっ? 『どうしましょう』ってどういうことですか?」
ボクがそう言うと受付嬢さんは黒い笑みを浮かべながら口にする。
「いや、なんでもありませんよ。ただ優良物件同士がくっ付かないよう妨害工作をするだけです」
受付嬢さんはなにを言っているのだろうか?
「ええっ!? どういうことですか? そ、そんなことはしなくていいんじゃないかと思うんですけど」
「まったく……優良物件は皆そう言います。でもね。これは戦争なんですよ! 優良物件を抑えるための戦争! 優秀な冒険者にはすぐ女という名の虫が付くものです!」
「そ、そうなんですか……」
それ以外に、なにも言えることはない。
女性社会の厳しい一面を知ってしまった気分だ。
「そうです。その通りです! もし、私が唾を付けたリーメイさんに対して、他人が新たな唾を付けようもんなら、私は断固として抗います!」
「そ、そうなんですか?」
お、女の人って怖い……。とりあえず、ここから立ち去ろう。
金貨を受け取り、それを亜空間に収納すると、受付嬢さんが笑みを浮かべる。
「ああ、リーメイさんは『収納』持ちの冒険者さんなんですね♪」
「え? ええっ、まあそんな所です」
厳密にいえば、このスキルは『収納』ではない。
収納を模倣した……いや、収納より有用な『亜空間』というスキルだ。
亜空間に収納した物は、時間経過による劣化が生じず、鮮度そのままに取り出すことができる。
また、『亜空間』には、生き物も収納可能で、ボクの感情赴くままに、放り込むことも可能だ。
ただし、生き物をそんな空間に放り込んだ場合、当然、その生き物の時間は、放り込まれた瞬間に止まる。もし万が一、ボクが死んでしまった場合、その生き物は永遠に亜空間を彷徨うことになる。
話が脱線した。そろそろ、受付嬢さんとの話を切り上げ『憩いの宿マッチョン』に戻ろう。バトちゃんとポメちゃんがボクの帰りを首を長くして待っているはずだ。
「そ、それじゃあ、ボクはそろそろ、置賜させて頂きますね!」
そう言い残すと、脱兎の如く駆け出した。
「あ、あー、リーメイ君っ!」
受付嬢さんがなにか言っているが、ボクは気にしないことにした。
それに今日はなんだか疲れた。
バトちゃんとポメちゃんを抱き枕代わりにゆっくり眠りたい気分だ。
冒険者ギルドを出ると、ボクは一目散にバトちゃんとポメちゃんの待つ『憩いの宿マッチョン』に向かった。
◇◆◇
「ただいまぁ〜バトちゃん、ポメちゃん! 大人しくしてた? なーんて……ね。えっ?」
そう言いながら、部屋のドアを開ける。
すると、そこには……。
「ブルッブルッ!(そのソファは俺のだ!)」
「キャンキャン!(なにをー! それは僕のだっ!)」
そう鳴き声を上げ乱闘しているバトちゃんとポメちゃんの姿があった。
備え付けのベッドやソファ、テーブルが破壊され、あちこちに木片が散乱している。
「い、一体なにが……」
突然突き付けられた混沌とした状況に唖然とした表情を浮かべていると、背後に人の立つ気配を感じた。
憩いの宿の店主、マッチョンの登場である。
「……それはこっちのセリフだよ。それで? 当然、弁償してくれるんだろうね……?」
「は、はいっ……」
とりあえず、これ以上、被害が広がらないようバトちゃんとポメちゃんの頭に拳骨を落とすと、その場で土下座した。
「も、申し訳ございませんでしたぁー!」
部屋を滅茶苦茶にされ激怒するマッチョンに土下座すると、亜空間から、つい先ほどもらったばかりの金貨を取り出す。
「ど、どうぞ、こちらをご査収下さい。足りない分に関しましても、すぐに弁償させて頂きます!」
ペットのやらかした責任は飼い主にある。
これはバトちゃんとポメちゃんの気性を考えず、部屋に一緒に放置したボクの責任だ。
袋一杯に入った金貨を手渡すと、マッチョンさんは唖然とした表情を浮かべる。
「あ、あんたっ……このお金は……」
「は、はい。つい先ほど、冒険者ギルドで受け取った『癒され草』と『癒し草』の報酬です。た、足りない分はもう少し待って頂けるとありがたいです……」
すると、マッチョンさんは呆れたかのような表情を浮かべる。
「被害額は部屋の調度品に、割れた窓ガラス、ベッドにテーブル、穴の開いた床に壁。締めて金貨一千枚といった所かね……」
「ううっ……すいません」
「……まあ、反省しているみたいだし、足りない分に関しては、おいおい払ってくれればいいさ」
マッチョンさんの言葉を聞き、ボクは顔を上げる。
「えっ? 許してくれるんですか?」
「ああ、ちゃんと反省している見たいだし、金を踏み倒して逃げるような輩には見えないからね。でも、今回だけだよ」
「は、はい! ありがとうございます! 残りのお金も必ず支払います!」
マッチョンさんが優しい人で助かった。
ありがとうございます。マッチョンさん!
「……しかし、あんたも大変だね。なんなら、どっちか私が引き取ろうか?」
「えっ? そ、それは……バトちゃんとポメちゃんの気持ちを聞かないと……」
バトちゃんも、ポメちゃんもボクの家族(みたいな存在)だ。
気性が荒く反発しあうからどちらか片方だけ引き取ってもらうというのも……。
すると、ボクに拳骨を落とされ、口から泡を噴いていたバトちゃんが復活すると首を振り一言鳴いた。
「ブルッブルッ(俺はここに残りたい)」
「ええっ!?」
それを聞いたボクは唖然とした表情を浮かべた。
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