第38話 花ゴブリンの森③
「うん?」
よく見てみると、花ゴブリン同様、フォレストベアーの頭の上に花が咲いていることに気付く。しかし、その花は、いまにも枯れそうだ……。
「ポメちゃん? その熊ちゃんにトドメを差すのちょっと待ってくれないかな?」
草木の茂みからポメちゃんの前まで歩いて行くと、ポメちゃんが「ワオン?」と鳴いた。
試しに『治癒』の呪符を貼り付けると、みるみる頭に生えた花が元気になっていく。
熊さんが目を覚ましそうなタイミングで、熊さんの頭に生えた花を根こそぎ毟ると、熊さんは泡を吐いて気絶した。
やはり、この熊さんの頭に生えている花は、花ゴブリンの頭に生えている花と同種のようだ。
熊さんの頭から採取した花を亜空間にしまうとボクは笑みを浮かべる。
「ねえねえ、ポメちゃん? この熊ちゃん、ボクに譲ってくれないかな?」
「クーン、クーン(いいよー。弱すぎて爪とぎにもならなかったしー)」
「えっ、本当にっ!? ありがとう、ポメちゃん!」
流石はポメちゃん。可愛い奴だ。
宙をなぞり亜空間から『隷属』の呪符を取り出すと、『治癒』の呪符と共に絶賛気絶中の熊さんに貼り付ける。
すると、熊ちゃんの頭に茎が生え、大輪の花が咲くと共に熊ちゃんが目を覚ました。
「おはよう。熊ちゃん!」
「ブ、ブムッ……(お、俺は一体……)」
「えっとね。熊ちゃん。お目覚めの所、申し訳ないんだけど『命令』させてもらうね?」
「ブ、ブムッ!?(え、ええっ!?)」
「ボクがいいと言うまで動かないようにね?」
「ブ、ブム……ブ、ブムゥゥゥゥ!?(へっ、一体なにを……って、ぎゃぁぁぁぁ!?)」
『命令』で熊ちゃんを縛り、頭に生えた花を根こそぎ抜くとそのまま絶叫を上げ気絶する。それを見たポメちゃんが「クーン、クーン!(やっぱり、この人頭おかしいよー! 可哀想だよー!)」と鳴いた。
「あっ、ごめんごめん! 『鎮痛』と『睡眠』の呪符を付していなかったね!」
ポメちゃんの言う通りだ。ちょっと、うっかりしていた。
熊ちゃんに痛い思いをさせてしまったようだ。
宙をなぞり亜空間から『鎮痛』と『睡眠』の呪符を取り出すと、ボクは早速、熊ちゃんに付してあげることにした。
熊ちゃんは絶賛気絶中。『睡眠』の呪符を付したから起きることもない。
『治癒』の呪符で熊ちゃんを治し、頭に生えた謎の花を抜くこと数十分。
「わーい。熊ちゃんのお陰で一杯、花を採取することができたよっ!」
そこには、ゲッソリとした表情を浮かべるフォレストベアーと、ガタガタ震えるポメちゃんの姿があった。
「クーン、クーン(怖いよー。もう帰りたいよー)」
「うん。そうだね♪ たくさん採取できたし、そろそろ帰ろうかっ!」
頭に生えた花を採取させてくれたお礼に、亜空間にしまっておいたオークジャーキーを大量に取り出し、蒸留水と共に贈呈する。
もちろん、『隷属』の呪符はそのままだ。
もしかしたら、熊ちゃんの頭に生えていた花がものすごく高く売れる可能性もある。
そうしたら、また、熊ちゃんに頭に生えた花を提供してもらわなければならない。
「わぁー! 花ちゃん達も頑張ったねぇ♪ でも、もう一匹の花ちゃんは……苦しそうだね? 大丈夫?」
途中、一生懸命、花ゴブリンから『癒され草』を手渡された。
頭から『癒され草』を抜かれまくった花ゴブリンは虫の息だ。
千本の採取はやり過ぎだったかも知れない。
とりあえず、『治癒』の呪符を重ね掛けして延命を施し、回復するのを待つと、熊ちゃんと同様に、亜空間にしまっておいたオークジャーキーを大量に取り出し、蒸留水と共に贈呈する。
花ちゃんが命懸けで頭から抜いてくれた『癒され草』。絶対に高く納品して見せるからねっ!
そして納品したお金でオークジャーキーを一杯買ってあげよう。
頭に生えた花を提供してくれたお礼にっ!
「それじゃあ、花ちゃん! また来るねっ!」
そう言って手を振ると、『隷属』しているにも関わらず苦笑いを浮かべた。
◇◆◇
ポメちゃんに『縮小』の呪符を貼り付け、バトちゃんと同様に『憩いの宿マッチョン』に預けたボクは冒険者ギルドに向かう。
そこで、採取してきた『癒され草』とフォレストベアーの頭に生えていた花を納品すると、受付嬢さんが声を上げた。
「え、ええっ~!!! 『癒され草』をこんなに採取してきたんですかぁぁぁぁ!?」
「はい♪ 花ちゃんも熊ちゃんも協力的で、一杯手に入れることができました♪ それで、どの位のお値段になりそうなんですか?」
花ゴブリンの頭に生える『癒され草』の値段は、一本当たり銀貨一枚。
千本あるから銀貨千枚。いや……金貨百枚は下らないはずだ。
白金貨換算なら十枚。ものすごい大金である。
問題は熊ちゃんの頭から採取した謎の花の値段……。
受付嬢さんが目を血走らせながら、めっちゃ鑑定している。
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