第36話 花ゴブリンの森①

「ええっ!?」


そんなフワッとした感じで、そんな重大なことを決めて大丈夫なのだろうか?

今回、ボクが助けた冒険者見習いの中には、森の奥でビクビク震えていただけの『なんでこの人、冒険者ギルドの試験を受けたんだろう』と思う人がいた。


「いや、おめでとう! 君達は危険度Aのモンスター蔓延るダンジョンの中でも生き残ることのできた立派な冒険者だ!」

「本当に素晴らしい! 君達はエイシャ支部の即戦力だよ!」

「それだけの力があれば、Dランクから始めても問題ないな」


しかし、冒険者ギルド内に流れるこの空気……。

今更、『考え直した方がいいんじゃないですか』とは言えない。


この日、冒険者ギルド、エイシャ支部に五人のDランク冒険者と一人のFランク冒険者が誕生した。


◇◆◇


「はい。こちらがFランクのギルドカードとなります。リーメイ君も今日から立派な冒険者の一員ね。おめでとう!」

「あ、ありがとうございます」


ギルドマスターにべた褒めされた後、ボク達は冒険者ギルドの役割や昇級、依頼の受け方等、簡単なレクチャーを受講することとなった。


そしていま、初級冒険者の証であるFランクのギルドカードを受け取っている。


「それより、本当によかったの? 折角、Dランクになるチャンスだったのに……」

「はい。冒険者ギルドのことをよく理解していないボクには分不相応なランクですから」


一部の例外を除き、余程のことがない限り冒険者ギルドに加盟した者は皆、Fランクからスタートとなる。

ギルドマスターはDランクからでいいと言ってくれたが、明らかに分不相応だ。

現Dランク冒険者もあまりいい気はしないだろう。


「そうかしら? あの冒険者達の中で一番見込みがあると思ったんだけど……」

「そんなこと、ありませんよ。買いかぶり過ぎです。ねー、バトちゃんにポメちゃん?」


「ブルッ、ブルッ(ああ、まったくだ)」

「クーン、クーン(この人達見る目がないよねー)」


バトちゃんとポメちゃんもこう鳴いている。

冒険者のことや、この世界の常識をあまり理解していないボクがDランク冒険者だなんてとんでもない。

ランクは地道にコツコツ、努力重ねて伸ばしていくものだ。


「それじゃあ、早速、依頼を受けたいんですけど、Fランク冒険者でもできるお勧めの依頼ってありますか?」


ボクがそう言うと受付嬢は考え込む。


「そうですね……Fランクの依頼といえば、薬草採取や雑用が主な依頼になりますが……」


そう言いながら、数枚の依頼票をテーブルの上に並べる。


「私のお勧めはこちらの薬草採取ですね」

「薬草採取ですか?」

「はい。町を出て少し行った所にある『花ゴブリンの森』に、花ゴブリンの頭に生える『癒され草』という回復薬の原料となる薬草があるの。冒険者稼業は血生臭い仕事でしょ? 回復薬の素材は一杯あっても邪魔にならないのよ」


なるほど……確かに冒険者稼業は血生臭い仕事が多い。

受付嬢さんの言う通り、回復薬の原料となる『癒され草』はいくらあっても困らない。

しかし、これは薬草採集なのだろうか?

花ゴブリンの頭に生えている『癒され草』てなにそれっ?

初めて聞いたんですけど……。


「ただ、この『花ゴブリンの森』には、森の主である凶悪なモンスター『フォレストベアー』がいるから気を付けてね? まあ、危険度Cのフォレストベアーは森の奥深くにいるモンスターだから、滅多に遭遇しないだろうけど……」

「ええっ、危険度Cのモンスターがいるんですか……?」


なんだか怖いな……危険度Cのモンスターって、どれだけ強いモンスターなんだろ?

荒魂のアラミーちゃんくらい強いのかなぁ……。

やっぱり、この依頼を受注するの止めようか……。

しかし、依頼票に書かれた依頼金額を見て、ボクはこの依頼の受注を決断する。

『癒され草』一本に付き銀貨一枚(日本円にして約千円)。

つまり、一ゴブリン当たりの単価より高い。

ちなみに普通のゴブリンの単価は一体に付き銅貨一枚。

日本円に換算して百円である。


「……わかりました。それじゃあ、この薬草採取依頼でお願いします!」

「はい。承りました。冒険者になって初めての依頼ですね。頑張ってください」

「はい。ありがとうございます! それじゃあ、バトちゃん、ポメちゃん。外に散歩しに行こうか!」


「ブルッ、ブルッ!(俺は嫌だ!)」

「クーン、クーン!(ボクはいくよー!)」


折角の初依頼。一緒に行こうかと思っていたが、バトちゃんは嫌だそうだ。


「それじゃあ、ポメちゃん! 一緒に散歩に行こうねー!」

「クーン、クーン!(やったぁー!)」


その反面、ポメちゃんは喜んでいる。

流石はワンコ。散歩好きなのは元いた世界とまったく同じだ。


冒険者ギルドを後にしたボクは、『憩いの宿マッチョン』にバトちゃんを預け、門を通って町の外にある森へと向かうことにした。

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