Life Killing
岡山ユカ
プロローグ 死は訪れる、新しい一日が始まる度に
「…さて…今回は…この本お見ることをおすすめしますよ。この本…作者様が気に入っているので…読みたいというのであればここから先へお願いします。…それでは」
タイトル:Life Killing(生命殺し)
「…物騒なタイトルですって?何を言っているのですか。これは当たり前の事であり、私達も常にそうしている…もしくはその恩恵に肖っているのではありませんか」
きっと貴方様にはまだ理解できていないのですね。
でも大丈夫です、いつか分かります。
この本のタイトルの…ほんとうの意味が理解できれば。
Life Killing・・・・・
新しい一日が始まる事を告げる鐘が鳴った。…その鐘で俺は起きる。外で牛たちが鳴いているのが聞こえる。…あれ?俺ベッドで寝ていない…あぁ…作業台で寝てしまったのか…ってまじで…?作業台で寝ていたということは…。
「…あぁ…やっぱり…血がついているよ」
作業台には防水のシートを被せているため、血はもう固まっているが…作業台には何も影響はなさそう。だけど顔にべっとり血がついている…しかも固まっている…これは洗面所でかなり顔を洗わないと…あとシートも…洗顔し終えたら洗わないと…。まさか仕事が終わった余韻で寝落ちしてしまうとは…。
…あ、牛肉はちゃんと保存しているみたいでよかった。腐っていたら、どうしようかと思っていた。今日の商売が出来なくなる…今日が別の仕事があるせいで昨日でこっちの畜産農家の仕事を終わらせないといけないというのがなぁ…。…とりあえず服とかも洗濯機に入れて…お風呂に入って…血の匂い落ちるかな…。いつも使っている洗剤なら多分落ちるだろ。
あの服も随分血で汚れてしまったから血の匂いが少しこびりついているんだよな…。…まぁ歴戦の勇者の証?…そういう夢物語ではないけど…似てはいるかな。まだ21歳だけど組織の幹部だから…あいつらを討伐する事は多くなるだろうなぁ。…あいつらにも血は存在するから返り血で真っ赤に染まるのは仕方がない…かぁ。
風呂と洗濯を終えて、新しい服に着替えて仕事をしにいく。ただ牛肉を販売するだけの簡単なお仕事なんだが、意外に儲かる。牛肉というのは高めなお肉なのに対してこっちは結構安めだから安価で美味しい牛肉が食べられると聞いたら確かに誰でも買いそうではあるな。
牛肉を詰めたクーラーボックスをワゴンに乗せて、王国の商売する人が集まる、市場に向かう。そこでいつも商売をしている。…一応表向き、俺はただの一般市民だからな。一般市民を演じなければ市民にバレてしまう。…血の匂いはないはずだから疑われないと思うのだが。
「あ、マーダーちゃん。牛肉ちょうだいな」
「分かりました。…合計で210ゴールドです」
「いや〜やっぱり安いわねぇ」
あぁ…疑われていなさそうで良かった。
この国には「ヴァンパイア・ハンターズ」という組織が存在する。吸血鬼を狩るために作られた精鋭組織のことだ。吸血鬼は人間を襲い…食す種族だ。人間を殺す、いわば人間の敵だ。人間を殺すという行為は許されてはならない…だからこそ市民を守るためにこの組織が存在する。だけど一般市民は存在自体しか知らない。そういう組織が存在しているという事しか知らない。
なぜ一般市民に情報を出してはいけないのか。なぜなら吸血鬼が化けている…もしくはこの国に潜伏している可能性を考慮して存在自体しか明かしていない。幹部や組織に所属している人間のことについては情報を出していない。その人間が吸血鬼に狙われる可能性を考慮して情報を出していない。存在しているということだけはっきりさせておく。吸血鬼たちは流石に吸血鬼を狩る組織がいるという事は知っているだろうから。そして王国直属というのも伏せている。どこの国に所属しているのか分からなくしている。…吸血鬼たちはどこまで情報を持っているか分からないけどな。
「あ、どうぞ」
「ありがとうねぇ」
思考している間に客が並んでいる。迅速に対応しなくては。客にストレスを感じさせないようにしなければ。…吸血鬼狩りの組織に所属する俺は市民を守るのが仕事だ。いわば市民の安全と安心を担う役目を請け負っている。…市民を不安視させないようにする…これもある種の訓練なのかもしれない。
・・・・・
「…売り切れたな」
安めに設定すれば意外と儲かる。…まぁ本業はこっちじゃないから安めに設定できるんだけどな。あっちは給料が良いし。…良いのは恐らく命がけの仕事だからな。
「ちょっとすいません…」
「なんですか?牛肉は売り切れ…。…あんたか」
客かと思ったら俺と同じ最高位クラスの幹部に所属するやつだ。名前はモエギ・エメラルド。…話しかけてきたということは何か本業に関しての事か?俺とこいつが出会うのは大体本業関係だ。それ以外はあんまり関わることはない。
「それで?今回は何の要件だ?」
「あぁ、実は特攻隊に新人が入ってきたんだ。それで教育をお前に任せようかとした」
「…普通に実力の高いやつから教育すればいいのに…」
「彼女、結構身体能力が高くてな。ポテンシャルはかなりあるから幹部であるお前に教育させたほうがいいんだ」
「身体能力が…?吸血鬼じゃないだろうな?」
吸血鬼は人間より身体能力が高いという特徴がある。爪と牙もかなり鋭利で人間とは違うところがたくさんあるが人間に化けることは簡単だ。…女性の吸血鬼は普通にいるからそいつが吸血鬼である可能性はあるはずだ。
「あぁ大丈夫だ。聖堂に連れて行って十字架を見せても何も体に異常がなかったからな。吸血鬼ではない」
吸血鬼は十字架が苦手という特徴が存在する。他にも様々な弱点と特徴があるがそこは省く…時間がないからな。
「じゃあ、ワゴンを片付けたら王宮にいく」
「分かった。彼女の教育よろしく頼む」
…吸血鬼ではないというのなら教育しても問題なさそうだな。さて、どういう子なのか…。身体能力が高いのならいい人材になりそうだ。
・・・・・
裏道を通って俺は組織の人間が集まるいわば拠点のようなところに行く。誰かに見られてまずい。吸血鬼狩りだと知られてしまうからな。…というか新人はどうやって吸血鬼狩りの事を知ったんだ?モエギにそれを聞くのを忘れたな…。…スカウトか?それとも俺たちのボスであるアイボリーの知り合いか?…本人に直接聞いてくるか。
「…お前か?今日から入る新人というのは…」
「あ…は、はい。私はコンプリス・サンドル…と申します。し、新人です!」
…目が赤くない…カラコンっぽくもないし…そして誰からもらったのか知らないが十字架のアクセサリーをつけている。…確かに人間だ。血の匂いもしない。…綺麗な銀髪だな。見た目だと身体能力がそこまで高いとは思わないが…。
「マーダー・スカーレット。この組織の幹部…称号「ホーリーロート」だ。まぁ特攻隊の指揮官という認識で良い」
「そ…そんな偉い人が…」
…だいぶ控えめだな。だけど本性は違う場合があるからそこは気をつけていかないと。控えめを装う事なんて簡単だからな。…簡単すぎてよくスパイが使う手口だ。…だけど人間である事は間違いないから警戒心は少し持っているだけでいいか。
「それでお前の教育担当になった。…というかコンプリス…長いからプリスでいいか。お前はどうやって吸血鬼狩りの組織に入った」
「あ…モエギさんから…実力を買われたんです。…元々…旅芸人として王国で稼いでいたのですが…それで…モエギと会ったんです…。それで…あの…スカウトされたんです…。芸で…結構身体能力を…見せたら」
…なるほど、旅芸人をしていたのか。ということは色々な土地のことを知っていそうだ。身体能力も高ければ色々なことを知っている…かなり役に立ちそうな人材だ。とりあえず教育をしていくか…と言いたいところだが…まずは…。
「ちょっと教育するのは待ってくれ。…報告係のブラッド、昨夜の犠牲者は何人だ?」
後ろに犠牲者の数を報告する人であるブラッドがいる。アクア・べヴァイス…特攻隊ではなく情報・隠密隊所属の隊員だ。…情報を集めるというのが仕事だ。
「…犠牲者は…二人です」
…こんな組織が結成しても誰かが毎夜に殺される。鐘を鳴らして対策しても…夜にうろつかないよう注意しても…。
結局…誰かが死ぬ。
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