日ノ国物語 ー許婚は蒼龍さまー
青木桃子
戦争編
第1話 お見合い相手は半獣さま
新帝が即位して数年後、
「
そう嬉しそうに父様は言った。
でもすぐに了解した。
日ノ国は
美和の母は、美和を産んですぐ亡くなり、結婚相手を決めるそのほとんどは母親が担い手になるのだが、母がいない今、降って湧いた見合い話に素直に喜んだ。
「父様、お見合い相手を紹介するなら普通は十五歳が頃合いでしょう、でもなんで今なのですか? 貴族や華族の方ならまだしもうちは平民ですよ」
(平民……というか、貧乏ですよって父様の前では言いづらい)
「ふむ、昔からの知り合いと言うか、見合い相手の父親とは、小学校の同級生だったから話が進んだが、何か事情があるかもしれん……。」
未来の夫となる青年は
「日路里って苗字…あの
「ああ、そうだ」
それを聞いた瞬間、美和の胸は高鳴った。
「すごい!すごい!父様どうして聖獣村の方が私と?」
「ああ、ただな、見合い相手の父親は聖獣村出身だが、ごく普通の人間で、
「じゃあ、聖獣としてのお仕事はしてないのか~」
(残念!でもそのお見合い相手が半獣である可能性はなくはない)
――
いつの世も私たちを守り、時には戦ってきた、みんなの憧れ、日ノ国の誇り。
(そんなすごい一族の方とお見合い? なんだか信じられないな)
これから自分の周りで何かが変わり始める大きなうねりを肌で感じ、美和はその夜、部屋の小窓から差し込む蒼い月明かりに照らされながら、なかなか寝つけなかった。
「行ってきます」
周囲を山々に囲まれ高台に建つ
「おはよう!琴ちゃん」
「おはよう。ねえ!ちょっと聞いたよ。美和ちゃん、見合い話があるって?」
山に囲まれた
「もう知っているね、琴ちゃん」
美和は恥ずかしくてうつむいた。
琴ちゃんは気にせず目を輝かせてすたすたと歩きながら話を続ける。
「でも、美和ちゃんは早くお父様から自立して楽をさせたいっていつも言っていたね。だからよかったよ」
「……まあね」
(結婚する意味での自立じゃなかったけど)
それにしてもこの分じゃ、あっという間に学校の皆に知れ渡ってしまうね。足取りが重く歩くのをためらいながらそれでも学校に向かった。
教室に入ると、男子はにやにやと笑いながらからかい、女子は「おめでとう」と「相手は誰? 誰?」ってうるさい。
机にランドセルを置いて、ふと視線を感じるので振り返ると別の組の男の子が廊下から美和を睨むように見ていた。同級生の男子から「
体育の時間、男子達は、女子とは別で剣術か武術の授業が多くなっていた。近い将来、軍隊に召集される可能性があるからだろう。
山奥の田舎なので、まだこの村の若い衆は軍隊に呼ばれた者はいない。今は都会や海沿いに住む青年ばかりだ。戦争が始まればいずれこの村にもいつ召集令状がきてもおかしくはなかった。
今日はからかわれっぱなしの一日だったけど、ようやく6時間目を終えて琴子と校門を出ようとすると、何やら騒がしく下校中の児童がその人を囲んでいた。
門から外に出た途端、みんなが振り向き一斉に美和に注目した。
「えっ何?」
数人が美和を取り囲み、みんなにキャーキャー言われながら背中を押され腕をつかまれ引っ張られ、その人の前に押し出された。
その人はすらりと背が高く中学生だろうか詰襟の学生服を着ている。髪は薄茶色で肩まで長く後ろに束ねていた。肌は白く、前髪は少し長く目にかかりその合間から蒼色の瞳をのぞかせている―美青年だ。目が合うと微笑んだ。
「こんにちは。僕は今度、お見合いすることになっている日路里蒼翼です」
「ええええええええっ」
中学3年生、齢は十五歳になるお見合相手が小学校の校門前で美和を待っていたのだ。日が落ちるのも早いので歩きながら話をすることに。
帰り道、美和と彼は二人で歩き、その後ろを琴子とやじ馬女子三人が少し離れた位置ながら、話し声が聞こえる距離でついて歩いてきている。後ろでクスクスと笑い声が聞こえる。
(背中がムズムズして恥ずかしいなぁ。暑いな。今って夏だっけ?)
頬を赤く染めた美和の表情を気にする様子もなく蒼翼は話し始める。
「突然会いに来て申し訳ない。実は今度、両家交えて正式に会う日を設けるつもりでいたけど、僕は中学を卒業したら、〈西の地〉にある日ノ国軍学校に入ることになっていて、寮生活で、その…この先なかなか会う機会もないから、思い切って会いにきた」
そう言ってこちらを見る切れ長の瞳は泉のように澄んでいて吸い込まれそう。背筋がピンとして、話し方も優しい、キレイな顔立ちの青年。一方、私は肩までかかる髪はぼさぼさ、今日はクリーム色の丸襟ブラウスによれよれえんじ色のワンピース。(わーん、来るなら事前に言ってよ。もう少しましな恰好したよ。身長も低いから兄妹に見えるかも?)
改めて会いに来た理由を話し始めた。
「日ノ国の中心都市〈東の地〉では海の向こうの大陸に在る〈
そよそよと優しい風が彼の前髪を揺らし、髪をかきあげる横顔が私は目が離せない。ふと立ち止まり、真っすぐ向き合って彼は言う。
「僕の婚約者になってくれますか」
返事をする前に後ろにいた琴子たちは絶叫していた。山に囲まれた地形のためか、その叫び声がわんわんとこだまするのでした。
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