第26話 全開放

 魂の籠った剣と剣がぶつかった瞬間。


 牛丼の目の前には、霧のような世界が広がった。


 そして、その中でザックの叫び声が聞こえた。


―― 助けて……くれ。

―― もう、逃げ出したいんだ。

―― 終わりにしたいんだ。

―― こんな生活、嫌なんだ。

―― 俺を……俺を助けてくれよ。

―― 誰か、俺を助けてくれよ。

―― お願いだ、神様。

―― 俺を解放してください。

―― 俺を楽にしてください。

―― お願いします……お願いします……お願いします……




 そして、霧が晴れた。


牛丼

「お前……。」


 牛丼は、込めていた力を解いた。


 そして、ザックの一撃が牛丼を襲おうとするが、牛丼は大きく上へ飛び、その攻撃をかわした。


 だが、ザックは上へ飛んだ牛丼へ向けて剣を振り下ろした。


牛丼

「辛かったな。」


 しかし、牛丼の発した一言によりザックの動きが止まった。


 その間に、牛丼はザックから距離をとった。


牛丼

「全力を出せ、ザック。」


牛丼

「これが、お前の騎士長としての最後の戦いだ。」


牛丼

「俺が、お前を騎士長の座から引きずり下ろしてやる。」


ザック

「いいだろう。」


―― ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 空気が変わった。


 牛丼も、そして、ザックも。


ザック

「【流水剣】!!」


―― ドンッ!!


ザック

「【流水剣】! 【流水剣】!! 【流水剣】!!!」


―― ドンッ! ドンッ!! ドンッ!!!


 牛丼は、ザックに近づきながら【流水剣】を全て避けていく。


 そして、数歩のところまで近づいた。


牛丼

(全ての力を絞りだせ。)


牛丼

(俺の限界の、さらにその先へ!)


牛丼

(全ての魔力を使い果たすまで!!)


牛丼・ザック

「「全解放ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」


 2人の声が重なった。


―― ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 さらに空気が重くなった。


牛丼

「【ボルケイノ】第参奥義……」


ザック

「【流水剣】奥義……」


牛丼

「【音速一閃突】ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


ザック

「【流水の粉砕】ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


牛丼・ザック

「はああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


―― ギギギギギギギギギギギギギギギギギィィィィィィィ!!


 牛丼の剣とザックの剣がぶつかり合う。


牛丼

(もっと、前へ!!)


―― ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!

―― ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

―― キンッ!!


 甲高い音がなった。


 瞬間。


 ザックの剣の刃が、ボロボロに折れていた。


 2人は、その場に倒れ込んだ。


牛丼

「剣の折れた騎士に……、戦う資格なんてないだろ?」


牛丼

「お前は、ただの勇者に負けた。そんなお前が騎士長を続けれる立場に居れるか?」


ザック

「牛丼……、お前。」


牛丼

「俺は勝ち、お前は負けた。」


牛丼

「潔く降参してくれ。そして、帰ってくれ。」


ザック

「そうする事に……しよう。」


 牛丼は、重たい身体を起こした。


牛丼

「俺は、王国の事情なんて知らないから何も言えないし、」


牛丼

「お前がどんな状況に立ってるのかなんて知らないから、言えるわけもないんだけどさ、」


牛丼

「誰にも頼れなくて、ただ自分の中で何かが溜まってくだけならさ、」


牛丼

「俺たちみたいな勇者に頼れよ。」


牛丼

「俺たちは、どんな奴の味方になる。」


牛丼

「国だろうが、そこの騎士だろうが、冒険者だろうが、商人だろうが、何だろうが。」


牛丼

「あー、でも魔物とかそういうどう見たって悪いやつの味方にはなれないけどさ。」


牛丼

「だから、ザックも俺たちを頼ってみなよ。」


ザック

「牛丼……。」


牛丼

「いつでも、俺たちが味方になってやるからよ。」


ザック

「……。」


 その時、牛丼が流し飛ばした騎士達が帰ってきた。


騎士

「大丈夫ですか!? 騎士長様!!」


ザック

「俺はもう騎士長ではない。」


ザック

「最後の命令だ。」


ザック

「王国に帰り、このように報告をしよう。」


ザック

「コンは抹殺した、と。」


 ザックは立ち上がり、騎士を連れて歩き出そうとした。


ザック

「ありがとう牛丼。」


牛丼

「俺、何かがしてあげられたかな?」


ザック

「あぁ、お前のおかげで騎士長を辞める理由が出来た。」


ザック

「ありがとな。」


 ザックは、そう言うと歩き出した。


 牛丼はそんな騎士たちの背中を見えなくなるまで見送った。


 そして、姿が見えなくなった時。


 牛丼はその場に倒れた。

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