第17話 絶縁と依存

 数日後。

 がらんとしたアパートで、ミチエは横になり、ぼんやりスマホの画面をながめていた。

 整形せいけいのことをマサキのタッツイーで暴露ばくろされてから、すぐ大学から遠い場所へ引っ越した。ほとんどのまま、夜逃よに同然どうぜんだったので、部屋に荷物はほとんどなかった。

 して以来、ミチエは一歩も外に出ておらず、大学にも行っていなかった。 

 ミチエはスマホでSNSを見ていた。SNSには、芸能人やアイドル、他にもたくさんの美女の写真があふれかえっていた。

 このくらいの顔じゃないと、人間になれないんだ。まだまだ自分じゃおよばない。もっときれいにならなきゃ。

 ブーっと、スマホにラインの通知つうちが来た。

『あんた親に黙って整形せいけいしたの?』

『親からもらった体をなんだと思ってるの?』

 ミチエは画面にポチポチと文字をうち、返信した。

『私はこんなブスがおに生まれたくなかった。あんたたちの子に生まれるんじゃなかった。私はもうあんたの子どもじゃない』

『私が顔のことを相談してもまともに相手してくれたことなんてなかったくせに』

『こんなときだけ親ぶるな』

 母親のラインをブロックした。

 しばらくするとスマホに親の携帯の番号から電話が来たが、ミチエはその番号を着信拒否にした。

 ブーっと、今度はカンナからラインが来た。

『ミチエちゃん元気?あの日からミチエちゃんが大学に来ないから心配だよ。整形せいけいのことみんな気にしてないから話し合おう』

 ミチエは淡々たんたんとメッセージを打った。

『引き立て役がいなくて困ってるの?』

『そんな風に思ったことなんてないよ』

『私と仲良くしてたのは私がブスだから引き立て役にしたいだけだったんでしょ』

『違うよ。ブスとか何とか関係ないよ。ミチエちゃんは大事な友達だから』

『嘘つき。美人だからブスの私を見下してたんでしょ。自分と比較させてブスは差別されろざまあって思ってたんでしょ』

『ねえ。私のこと美人美人って言うのも差別じゃないかな』

『何言ってるの?ブスをバカにしたいの?もう連絡しないで。もう友達じゃないから』

 ミチエはカンナのラインをブロックした。

 じわじわ、じわじわ、涙があふれた。ミチエは大泣きした。

「ごめんなさい。ごめんなさい。私がブスだから。ブスだから心がせまくなったの。ごめんなさい」

 ミチエはいつまでも泣きじゃくった。

 

 美容びようクリニックの手術しゅじゅつしつで、ミチエが手術しゅじゅつだいの上に横たわっていた。

 鼻にはいつもの麻酔ますいのチューブをさしていた。

 マスクと帽子ぼうしをつけた医者が、上からミチエをのぞきこんだ。

「あごと頬骨ほおぼねは2週間くらいれますが、そのあとはお金がかかった分きれいになりますからね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 アパートの冷蔵庫れいぞうこの前で、ミチエは泣きながら、はいつくばってこんにゃくを食べていた。

「う。おえ、おえ。う、うう、痛い。痛い。おえ」

 手術しゅじゅつしたあごがはれあがり、かむと痛みがした。

 

 パソコンの画面の片側にミチエがうつった。

 画面のもう片側に、ぱっと中年の男の顔が映った。

「あ、どうもー。ミチエです」

『どうもー。若いね。学生?』

「あ、元学生です。最近大学やめたんで」

『そうなんだ。こんな美人さんが相手でよかったよ』

 美人?私が?きっとお世辞せじだろう。

「お上手ですね」

『へへ。じゃあパンツ脱いで』

「あ、はい」

 この仕事は嫌いじゃない。自分が人から求められているのがわかって、うれしいから。

 

 美容びようクリニックの手術しゅじゅつしつ手術しゅじゅつだいの上に、またもや鼻に麻酔ますいのチューブをさしたミチエが横たわっていた。

 手術しゅじゅつが終わり、ミチエの鼻と目頭めがしら、こめかみに、ガーゼやテープがつけられた。

「鼻はきれいに高くなりましたよ。目頭めがしらもこめかみもきれいに切れました」

「ありがとうございました」

 

 パソコンの画面に、ミチエと男が映っていた。

『キミやせすぎじゃない?写真と全然違うじゃん』

「いや、太ってますよ」

『ふーん。まあいいや。おまた見せてよ』

「あ、はい」

 

 美容びようクリニックの手術しゅじゅつ室の手術しゅじゅつだいに横たわったミチエの顔に、医者がペンで印をつけ、手鏡てかがみでうつした。

「エラを切ったあとに、鼻のシリコンをこのあたりにいれて、人中じんちゅうは3mm切りますね。終わったらくちびる注射ちゅうしゃを打ちます」

「あの、脂肪しぼう取りはしてくれないんですか?」

「もう取れる脂肪しぼうはありませんよ」

「まだあるじゃないですか。取ってください」

「ええ?」

 

 パソコンの画面の片側にぱっと男が映り、

『うわ、化け物』

 と、ぱっと画面が切れた。

 画面片側に映ったミチエが取り残されていた。

 ほおや鼻にガーゼをつけ、目はぎょろぎょろ、ほおはこけていた。

 ミチエは画面に映った自分の顔を、左右に動かしたり、近づけたり離したりして、じっくり観察した。

「何だろう。やっぱり口がでてるからかな」

 

 美容びようクリニックのカウンセリングルームで、ミチエと医者がパソコンの画面に映るレントゲン写真を見ていた。

 レントゲン写真はミチエの横顔のもので、特に歯の部分が拡大されていた。

「本当にいいんですか?当院とういんの医師は、上顎うわあご施術せじゅつはあまり経験がないですが……」

「大丈夫です。矯正きょうせいしても口が前に出るんで」

 

 ミチエは手術しゅじゅつだいの上に寝て、手術しゅじゅつを受けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る