あれがゲーマーの指だ!(3)
ソソミの話では、どうやら御美玉駅を通過したあたりまでは連絡が届いていたらしい。御美玉駅は天堂家の豪邸から約10分ほどである。ということは、待望のミニファニコンはソソミ邸から数分のところで足止めを食ったことになる。
女中いわく、犯人は脅迫電話をかけてきたらしい。なんでも、
――ミニファニコンの試作品を返してほしくば『みのりの森』に来い。
とのたまったという。
「いったいなにが目的なんでしょうか」
沈黙のリムジン。あすくが革のシートから身を乗り出し、歪にねじ曲がった口でもっともな疑問を投げかけた。彼は興奮すると口を〈ひょっとこ〉のようにねじるくせがあるのだ。そのせいで幼少期に顔面神経痛になったことがあった。
「もしかしてライバル企業の妨害とか?」
ジャレ子も不謹慎に興奮しながら云ったが、ソソミはさきほどからの険しい表情をいっそう深ませながら、ウーンと唸るばかり。
その様子を察した別斗が、
「もしかしてソソミ先輩、なにか心当たりがあるんじゃないっすか?」
と促すと、おもむろに重い口を開いた。
「みんな、eスポーツはご存じかしら?」
「eスポーツって、ゲームで対決するプロ競技のことですよね?」
「たしか世界大会とかも開かれてて~、海外ではものすごいブームなんだっけ~」
「ええ、日本は海外に遅ればせながらも、最近はメディアで取りあげられるほどその熱が高まりつつある、新しいスポーツのことね」
「それがどうしたんすか?」
「実は我が社もその気運を受けて、国内向けの大会を主催したりしているのだけれど、最近ある勢力から大会を批判するケースが報告されているのよ」
「批判?」
ジャレ子とあすくが顔を見合わせ、
「いったい、どんな批判ですか?」
「eスポーツの盛りあがりを否定するようなものよ。その勢力にとってeスポーツの存在自体が間違っているというような、根本を見直せというような、思想の強制じみたことよ」
「なんすかそれ、ひとりよがりもいいとこだな。きっとyoutubeとかのゲーム配信でボロ儲けしてるやつに嫉妬してるような、しょうもない連中じゃないっすか?」
「わたくしも最初はそう思っていた。ガチのアニオタがにわかオタクを叩くような、取るに足らない戯れ言だと。でも違ったの。その勢力は大会の優勝者や、世間的に名の知れたゲーマーを襲撃するといった過激な行動をとっていることがわかったの」
「襲撃って、すごい物騒な話ですね。夜にうしろからバットでガーンとかですか~?」
ジャレ子のアホ面を横目に、ソソミはあくまで滔々と静かに語った。
「いいえ、ゲーム対決よ。腕の立つゲーマー相手に勝負を挑み、勝つことによってeスポーツ大会の真価を地に落とすと同時に、相手を
「再起不能って、格闘マンガじゃあるまいし」
馬鹿馬鹿しい。そう吐き捨てる別斗に、
「そういえば」
と、あすくが牽制してきた。
「ネット配信も行っていたプロゲーマーの下山ミネオが、先のeスポーツの大会で優勝してからというものの、一ヶ月くらい配信が止まってるってウワサを聞いたな」
「あ、それ私も聞いたことある。なんでもゲームができない身体になったとかって話で、病気だか事故だか云われてるよね」
ソソミは相好を崩さずふたりの会話を聞き遂げ、ひと呼吸ついてから続けた。
「このあいだ、その謎の勢力から我が社を脅迫する文書が届けられたの。内容は〈来年に開催される一大ゲームイベント・『天下一e武闘会』を中止せよ〉というものだったわ」
「『天下一e武闘会』の中止だって?」
「なんだよ、あすく。その天下一なんとかって」
「知らないのか別斗、ニャンテンドーが主催する世界規模のゲーム大会だよ。スポーツゲーム、格闘ゲーム、パズルゲームなどなど、あらゆるジャンルのゲームを一堂に会して優勝者を決める、いわば〈ゲームのオリンピック〉と云われているイベントなんだ。206の国と地域が参加し、32のメジャー企業がスポンサーとして協力する、まさにかつてないeスポーツの祭典さ」
「ますますわかんねえな。それを中止させたとして、いったいどんなメリットがあるっていうんだよ」
「そんなこと、当事者じゃないかぎりわからないよ。なにかとんでもない野望を秘めているのかもしれない。いまやeスポーツ産業は莫大な金が動くメガコンテンツだからね」
「その連中と今回の連中が同一だという根拠はないけれど、わたくしはなんだか不穏な気配を感じざるを得ないの。なにかいまに、とんでもないことが起こるのではないかという予感が渦巻くのよ」
「ソソミ先輩……」
重苦しい沈黙が支配したリムジンは国道を一本はずれ、御美玉市役所のある通りに入った。
『みのりの森』は、ここ御美玉市の歴史資料館として市役所そばに併設し、その周囲を市民憩いの場として整備された緑豊かな公園のことだ。
その『みのりの森』の白い案内板が見えると、一行の背筋はピンッと張りつめた。この先に、いったいなにが待ち受けているのか。
入口から一番近い駐車場に停車し、四人はリムジンを降りる。
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