神秘の美少女戦士ヴァルキュリア ~男子高校生ですが、憧れの美少女戦士を始めました~

川凪アリス

序章 始まりの変身

第1話 美少女戦士の魅力


「それにしても驚きだよね」

「なにが?」


 昼休み、湊川陽翔みながわはるとは後ろの席に座る友人の瀬野元基せのもときの呟きに答えた。


「陽翔があの白雪絆星姫しらゆききらりさんと幼馴染ってことだよ。周りの男子が知ったら、嫉妬の嵐が陽翔に向くね。僕も羨ましいと思ってるくらいだから」

「元基も絆星姫に興味があったのか?」


 元基は嘆息して言う。


「僕がさ、いくら魔法少女を愛して止まないからと言って、現実の女の子に全く興味がないってことはないよ。白雪さんはとても綺麗だ。それに、彼女の正体が魔法少女だって言われても僕は信じるね」


 他の人が聞いたら意味不明だろうが、陽翔にはなんとなく伝わった。元基は絆星姫が魅力的だと言いたいのだろう。


 幼馴染の陽翔から見ても、絆星姫は魅力的で美しい少女だ。

 セミロングの美しい黒髪はいつもさらさらで艶があり、長い睫に鮮やかな青い瞳、左目の下にはチャームポイントの泣きぼくろがある。鼻はすっと高く、口角はいつも自然に上がっており、溜め息をつきたくなるような美しい顔立ちだ。

 容姿端麗だけではなく、文武両道で天真爛漫。

 男女問わず、絆星姫の魅力に惹かれて、いつの間にか虜になってしまう。


「陽翔はさ、白雪さんとずっと一緒なのに、好きにはならないの?」

「今、俺が大好きなのはレイナちゃんだ」


 元基は呆けた顔になったが、直ぐに思い出したみたいで手を打った。


「あー、あれだ。美少女戦士ホーリーウィッチのモブ」

「モブとはなんだ! レイナちゃんの出番は少ないけど、これから必ず活躍する!」

「活躍しないし、もう出ないよ。だって、レイナは主人公の仲間の中の人が病気になって、代わりに出てきた謎のピンチヒッターでしょ。意味分かんないし、人気なかったじゃん。レイナの中の人、誰だっけ? 名前も覚えてないよ」

つむぎちゃんだ」

「そうそう、降臨結こうりんつむぎ! 変わった名前だよね、芸名かな? ちょっと調べてみたけど、無名みたいで、検索に全然ヒットしなかったよ。もう出ないだろうね」


 陽翔は態と声色を低くする。


「元基、表へ出ろ。お前の命もここまでだ」

「えー、嫌だよ。教えて欲しいんだけどさ、陽翔って、美少女戦士のどこが好きなの? 僕にも分かるように、美少女戦士の魅力を教えてよ」

「良かろう、特別に教えてやる。美少女戦士の主人公たちって、可愛いだけじゃなくてカッコいいし、強いんだよ。戦闘だけじゃなくて、恋愛や友情も見れる、人間模様も美少女戦士作品の魅力なんだ。でも、やっぱり一番の魅力は主人公たちが傷つけながらも愛する人や大切な人、人々を守るために戦うことかな。…… 俺も救われたことがあるし」

「俺も救われたこと?」

「なんでもない。とりあえず、美少女戦士は最高にカッケーってことだよ!」

「最後の話は気になるなー、また気が向いたら教えてよ」

「なんでもないって言っただろ? ま、気が向いたらな」

「今さらだけど、陽翔ってさ、いつもは淡々としてる感じなのに、美少女戦士の話になると、めっちゃ笑顔だよね」

「だって、大好きだからな。胸が熱くなるんだよ。レイナちゃんや推し達が出てきた時は声が枯れるまで応援するぞ」

「分かる! 僕も最推しや推し達が出たら、心を込めて応援するよ!」


 陽翔がニヤッと笑うと、元基も同じようにニヤッと笑う。そして、お互いを認め合うように力強い握手をした。


 今年の春、高校に入学して直ぐに、陽翔は元基と仲良くなった。元基は気の合う友達の一人で、陽翔はずっと前からの友人のように感じている。


 すると、元基は陽翔の髪をじーっと見つめて言う。


「髪、また赤くなった?」

「あー、やっぱり分かるよな。最近、また赤くなり始めたんだよ」


 陽翔の髪色は元々赤みのある茶色だったが、高校生になって直ぐに赤色が濃くなり始めた。

 母親が赤毛だったので、その遺伝を強く受け継いだらしい。


「赤髪の高校生っていう見た目だけでもけっこうな厨二病だと思うけど、右腕に秘めた力とかあったら完璧だよね。くれないの陽翔って呼んであげようか?」

「止めてくれ、けっこう気にしてるんだ。赤毛に近づく度に地毛証明を出すの大変なんだよ」

「陽翔は律儀だね。誰も守ってないのに」

「俺は真面目なんだよ。元基の髪だって、いつもクルクルだろ?」

「僕のクルクルは関係ないだろ。でも、僕は陽翔みたいに気にしてないよ。むしろ、クルクルの元基って呼んでくれても構わないくらいさ。僕はこのクルクルに誇りを持っているからね」

「誇り?」

「陽翔と僕の仲だ、特別に教えてあげよう。魔法少女マジカルレモンの主人公で僕の最推しでもある、レモンちゃんのタイプの男性は天然パーマがある人なんだ」


 陽翔とは別の人が元基のこの話を聞いていたら顔をしかめたかもしれない。だが、陽翔はその理由を聞くと、とても共感して、何度もうんうんと頷いた。


「…… それは元基にとって誇りだな。俺も元基の気持ちが分かるよ」


 二人の熱い会話の終了を告げるチャイムが鳴った。もうすぐ午後の授業が始まる。

 教室の外に出ていたクラスの人たちが戻ってきた。


 クラスに戻ってきた絆星姫と目が合って小さく手を振られたが、陽翔は気づかないふりをして前を向いた。



 ◇◇◇



 陽翔たちの住む天元町てんげんちょうは東京都南西部に位置する人口約五万人の町だ。二十分ほど電車に乗れば、都内の中心部まで行ける。殆どの高校生は天元町を出て、都内中心部の高校に通う。だから、天元町には高校が二校しかない。

 陽翔の通っている都立天元東高校は不死崎ふしさき駅の近くにある。駅の近くには商店街やショッピングビルなどがあって発展しており、若者の遊び場となっている。


 陽翔は商店街の中を歩いて、自宅マンションに向かっていた。商店街を抜けて、十分ぐらいの場所にマンションはある。


 前を歩く人物が目に入った、絆星姫だ。

 同じマンションの隣室同士なので、帰宅途中に会うことが多い。

 絆星姫の隣に橋羽希はしはねのぞみがいるのを見て、声を掛けるのをやめた。歩くスピードも遅くする。


 希は絆星姫の中学からの友人で、とても仲が良い。しかし、陽翔は希に嫌われていると感じている。どうして希に嫌われているのかは分からないが、陽翔はなるべく希に関わらないようにしていた。


 陽翔は学校生活の中では絆星姫にも関わらないようにしている。中学生の時に絆星姫のことが好きな男子からやっかみを買って面倒臭い目にあったからだ。

 中学生の時も今も絆星姫の周りには好意を持つ男子も多い。絆星姫と親しくすれば、要らぬ誤解を生んで、また同じ目に遭ってしまう。

 絆星姫との関係は隠しているので、二人が幼馴染で家が隣同士だということは僅かな人しか知らない。


 商店街を抜けて住宅街に入ると、絆星姫たちがいなくなっていることに気がついた。

 商店街には色んな店があるから、知らないうちにどこかの店に入ったのだろう。


 陽翔は不思議なことに気がついて、辺りを見渡す。

 ここは住宅街なので普段は人通りが多い。でも、今は誰もいない。閑散としていた。しかも、周りの家からも人の気配が全くしない。なんだかとても嫌な感じがする。

 まるで別世界に陽翔だけ取り残されたみたいだった。


「キャァァァーーーーー!!」


 悲鳴が響いた。


 誰の声か直ぐに分かる。

 絆星姫の声だ。この近くから聞こえた。

 声の方に向かって、陽翔は全速力で駆け出した。






























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