父の疑惑

@purate-ro

第1話 父の浮気疑惑

「マジで?」

 思わず昭和言葉が出てしまった。

 だって、あの父が浮気をしているというのだ。あの真面目だけが取り柄のチチが。

「まだ疑惑だけどさ。わたしゃ、間違いないと思うんだよ」

 電話の向こうで母が唾を飛ばさんが勢いでしゃべっている。

「で、なんでそんな疑惑が?」

 浮上したというのだ。

「それがさ、お父さん、定年退職してからずっと図書館と家の往復生活だったんだよ」

 それはわたしも知っている。

 父は大学卒業してから四十三年勤めた会社を八年前に退職した。その後は会社に行く代わりみたいにして毎日図書館通いをしている。

「でも、最近、どうも図書館に行ってない日があるみたいなんだよ」

 そばに誰もいないはずなのに母は声をひそめる。

「違うって。これは女のカンってやつよ」

 母は荒い鼻息と共に言った。

「勘違いじゃないのかなあ」

 そう言っても、母は全く聞き入れない。

 もう母の頭の中は父への疑惑ではち切れそうになっているのだろう。

に見えていた。

「で、どうするの?」

 半ばため息交じりにわたしは聞いた。

「あんたがスパイをするのよ」

「は?」

「だから、あんたがお父さんのあとをつけて浮気の証拠を見つけるのよ」

「マジで?」

「マジもマジ、大マジよ。晴美、あんたはむかし忍者になりたいって言ってたでしょ。忍者ってスパイなんでしょ。だから、あんたにぴったりよ。明日、家の前で待ち伏せして、お父さんのあとをつけてちょうだい」

 母は言うだけ言って、電話を切った。

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