第2話
雪はくりくりといした目とは対照的に、いつも皮肉を言いたそうな唇をした。前髪の長い男子である。
「なんだ。科島か。ここの場所で働いているのがよくわかったね」
「なんだじゃなくて。うちの学校は厳しいから誰かに言いつけられると、困るんじゃないかしら?」
学校側は生徒のアルバイトを禁止していた。
雪は本しか興味のない変わったクラスメイトである。でも、学級委員の私から見ると普通過ぎる真面目な男の子だった。
「活字はいいね……。人から人へ色んなものを伝えることができるんだ。感情も思考も笑顔も」
「はあ?」
私はミステリのトリックに夢中になることはあるけれど、その時にしか面白さを感じなかった。パズル遊びに似ている。けど、大したことなんてなにもないのに。
「もうそろそろ。店主が来るぞ。帰ったら」
雪は再び本へと目を優しく注いだ。
私は溜息をつくと踵を返した。
この古書塔にはとても怖いおじさんがいた。
名前は誰も知らない。
確か小熊と言われたことがある。
万引きをしそうな人は店主の顔を見ただけで震え上がった。
もうそろそろ、お昼休みだ。古書塔の隣のコンビニでパンと缶コーヒーを二人分買った。
雪は学校の中では、一番成績優秀だった。
学級委員だからではなく。そんな雪のことを心配するのは、普通のことだと私は思っていた。
休憩時間の交代のために小熊が店内をうろついていた。
小熊のような体格に小さい顔。
しかし、人相はとても悪いと聞いた。
私はレジへ向かうと、一人分の昼食を雪に渡した。
「ありがとう……」
雪はやっと本から目を離し、パンの入った袋をぶら下げると椅子から立ち上がった。この古書塔には二階がある。狭い二階だが店員の休憩室を兼ねた小熊のねぐららしい。
普段は女子の店員は二階は使わないと聞く。
それほど、むさくるしいのだろうか?
私は雪の後を追って二階に続く古木の階段を上がった。雪はめんどくさそうな顔をしてこちらを見てから二階へと上がる。
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