第19話 聖職
「先生さようなら!」
「はい、さようなら」
7時限目のため、生物実験室を出る生徒の挨拶もさようならだ。
最後の生徒を送り出したあと、西日を遮るために実験室のカーテンをひき、女は簡易扉で繋がる実験準備室へ入った。
ここは学校における女のプライベート空間のような使われ方をしている。
化粧品、ゲーム機、タブレット、扇風機、ミニ冷蔵庫まで持ち込まれており、授業の合間の休憩場所として最適だ。これまた持ち込んだ白のゲーミングチェアに腰掛け、女は伸びをした。
伸ばした腕に当たり少しずれた眼鏡を直していると、ノックの音がした。
「はぁい」
「先生、失礼します」
男子生徒が入ってきた。
「先生、お疲れですね」
生徒はすかさず女教師の背後に回り、肩を揉み始めた。女のこりのツボを心得た手つきだ。すぐに女教師は反応した。
「そうそう、そこそこ。気持ちいい。ずいぶんうまくなったわね。手取り足取り教えた甲斐があったわ」
「ありがとうございます。先生、例の件ですが……」
「そうね。うまくいってる?」
「監禁している小高さんと中島さんですが、死なないように水と少しの食料を与えています。あと1週間ぐらいは身体は保つと思います。喉を潰したので声は出せません。誰にも見つからないでしょう」
「ありがとう。で、心気はあるの?」
「2人とも、多くはないですが含んでいます。破邪士の訓練は受けていないので自らの意思で発現はしませんが、このまま精神的、肉体的に追い込めば、反応が出てくるはずです」
「そ。食べごろはあと1週間ね。よだれが出ちゃうわ……」
「その時は、ここまで運びますか?仮にも心気を含んで発現しやすい状態の時です。暴れられると手を焼く可能性がありますが」
「何言ってんのよ。私に埃っぽい旧校舎の用務室でディナーしろって言うの?ちゃんと運ぶのよ。あんたも6割は妖魔の血が流れてんだから、小娘2人にびびってんじゃないわよ」
「は、はい。申し訳ありませんでした!」
「そんでいつまで触ってんのよ。私は男は嫌いなの! 若い女が好きって何度言ったらわかるのよ! あんたをここに置いてやってるのもね、仕事をそつなくこなすからよ。わかってる?」
男子生徒は女の肩から手を離した。
「は、はい! 僕は先生のそばにいられるだけで、幸せです!」
直立姿勢で叫んだあと、男子生徒はすぐにうずくまり、女のヒールを舐めはじめた。
「もうすぐ、もうすぐ私は、パテラの幹部妖魔に匹敵する強さを手に入れられる。
「卒業試験の課題になる討伐リストの妖魔の名は、サキュバス。7血のメス妖魔よ。普段はあおぞら飛翔高校の生物教師として勤務。この高校の女生徒が何人も行方不明になっていて、死体も見つかっていないことから、サキュバスが心気を持つ生徒を食っている線が濃厚ね。関与が疑われる生徒失踪事件の発生頻度は、最初数年間は年一件程度だったけど、ここ最近は3か月で2人のペース。加速していて、刑事の信三さんから相談があった」
「それでゴテンから派遣された調査員が調べて、過去の生徒失踪•行方不明事件と、桜井桃子こと、サキュバスがこの学校に赴任してきた時期、行動、学校に漂う妖気を総合し、妖魔絡みの事件であり、桜井桃子が妖魔当人と断定された。調査員によると7血級で、部下なのか、別の強力な妖気も捕捉されているとのことよ」
「今回の任務は、むろん討伐までいければ100点だけど、相手の戦略性から、単なる強さだけの7血とはいえない難しさがある。だから威力偵察、ないしは破邪士が見ているぞとの威嚇的な効果を与えるだけでも及第点と、ゴテンから言われたわ。あなたたちとしては、どこを目指す?」
小雪が言った。
「‥‥、討伐します」
「高校生が食われているって聞いて、討伐以外の選択肢はないです」
「だよね」
「私は試験官としての同行だから、あなたたちが死ぬような危険性が生じないと介入できない。わかるね?」
「はい」
2人が声を揃えた。
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
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