ワンピースの弾き語り

トマトも柄

ワンピースの弾き語り

 ある駅前で歌声が聞こえてくる。

 その歌声に合わせて陽気なギターの音も聞こえてくる。

 駅員が掃除をしに駅前に出ると、女の子がギターを持って弾きながら歌っていた。

「今日もやってるね! 精が出るねぇ!」

 駅員に話しかけられた女の子が奏でた音を止め、駅員に話しかける。

「今のはおでの声が出てるかのテスト中なんですよ。 本番で声が出ないと大変ですから」

「レッスンもしっかりやってるなんて真面目だねぇ! ここら掃除するから少し離れて貰っても良いかな?」

 駅員がそう言うと、女の子が少し離れる。

 離れはしたのだが、女の子は駅員から目を離そうとはしない。

「ん? どうかしたのかい?」

「おでが掃除したらバイト代出る?」

「そういう求人は受けてません」

 女の子の手伝いをキッパリ断って駅員が掃除を始める。

「それにその格好で掃除したら汚れてしまうだろ? せっかくの白のワンピースが汚れちまうぞ」

 女の子は言われてハッと気付いたのか照れ隠しの笑顔を見せる。

「因みに雑談は良いぞ。 手を動かしながら話すから。 手を動かしてたらサボりには見られないからな」

「本当に!? 誰も来ないから寂しかったの!」

 女の子が笑顔を見せてると、

「あくまで掃除をしながらだからな。 作業を最優先で動くからそこまで多くは話せないぞ」

「うんうん!」

 女の子はそれでも良いと頷き、話を始める。

「駅員さんはいつも聞いてくれてるもんね! 凄い嬉しいもん!」

「それなら駅長にも言ってくれ。 あそこで窓から覗いてる」

 そう言って、駅員が窓を指したら、そこで覗いてたおじさんが気付いたのか窓を勢いよく閉めた。

「あ! バレたから閉めやがった! いっつも聞いてるくせに!」

「駅長さんはいつもおでの聞いてくれてるの?」

「聞いてるも何も大ファンだぞ。 音が聞こえてきたらこっそり窓を開けて、聴きながら作業しているよ。 隠れファンのつもりなんだろうけどバレバレだからな」

 そう聞くと女の子がニシシと笑い、

「おでにもファンがいるだなんて嬉しい! もっと良い歌聴いてもらえるように頑張る!」

「おう! 頑張れよ! そこで見てるからな」

 そう言って駅員は掃除を終えて駅に戻っていった。

 少女は笑顔になりながら帰っていった。

 ファンがいた事に喜びを感じながら帰路へ向かう。


 少女は時間の空いた時は駅に向かって必ず歌っていた。

 駅の帰りで聴き入ってしばらく立ち止まる人もいたくらいだ。

 少女はどんどん弾き語っていった。

 徐々に聴きにくる人が増えていく。


 普段は人の出入りの少ない駅ではあるが、少女の弾き語りで徐々に利用する人が増えていった。


 しばらくの月日が流れ、駅長がのんびり事務作業をしていると、無線の連絡が入る。

「トラブル発生! 信号機の故障により、電車が停止の模様」

 駅長がすぐに応答する。

「こちら白白駅。 故障の時間はどれだけかかるでしょうか? どうぞ」

「現在は不明です。 数時間かかる可能性もあります。 どうぞ」

「駅員による誘導は可能か? どうぞ」

「車掌の設備点検のため誘導の人数が足りなくて出せない模様。 どうぞ」

「こちらから駅の誘導の人員を出します。 この駅まで誘導させて乗客を待機させます。 時間の都合が分からない状態ですとその方がよろしいかと。 どうぞ」

「……お願いします。 緊急性の必要な乗客への対応と手配もお願いします。 どうぞ」

「はい。 そちらの手続きも手配します。 状況の確認も都度お願いします。 以上」

 駅長がその無線のやりとりですぐに立ち上がり、すぐに連絡を入れ駅員総動員で対応を始める。

 そして白白駅に乗客が集まり始める。

 皆電車の復旧を待っている。

 いくら手配したとは人数には限りがある。

 乗客の待ち時間が増えて皆が何もせずに立ち止まっている状態だ。

 駅員達が頭を悩ませていた頃、救世主が現れたのだ。

 その女の子は白のワンピースにギターを持って今日も歌う準備をしていたのだ。

 女の子は周りの事を気にせず黙々と準備を始める。

 そして、歌い始めた。

 自分の声で、駅まで届く歌声で、ひたすら歌い始める。

 乗客達は歌声が聴こえてきたので少しずつ様子を見るように皆が覗きに来た。

 女の子はその事を気にせずに歌い続ける。

 そして歌い終わる度に拍手の音が大きくなる。

 いつの間にか彼女の周りは観客に囲まれていた。

 彼女は笑顔で答えた。

 皆は次の曲は何かなと期待を込めた目で見ている。

「もっといっぱい歌うよー!」

 そして電車の復旧まで彼女は歌い続けた。

 休みを取らずにずっと続けて歌い続けた。

 そして彼女は歌い続けた後でアナウンスが鳴る。

 電車の復旧が終わって電車が到着したというアナウンスだった。

 皆は彼女にお礼を言って電車に乗っていく。

 彼女は手を振って笑顔で見送った。

 この事が話題となり、地方新聞にも載る事になった。

 『電車トラブル! トラブルを救ったのは一人の少女。 突如始まる路上ライブ!』

 これが話題となり、彼女の歌声を聴きにその駅には人が集まり出したのである。

 





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