12 娼館近くの店で伯爵夫人の死を語る

 俺は慌ててバーデンを探した。


「なあおい、バーデン何処だ? バーデン・デタームは!」


 同じ寮住まいの奴にあちこち訊ねた。


「たぶんあそこじゃないかなあ。啼鶯館」


 娼館の一つだった。俺は取るものも取りあえず、そこへ走った。

 お兄さん寄ってらっしゃい、の手を振りほどき、バーデンが居るか、ということを訊ねた。


「今お休みよ」


 そう言って出てきたのは、青みがかった灰色の髪、青い目の女だった。

 無論造作はまるで違う。だがその二つは。


「急ぎなんです。起こしてでも何でも。カイシャルが怒ってるって言ってやって下さい」


 はあい、と彼女はふらふらと部屋へと戻っていった。

 そして寝ぼけ眼の奴を連れてくると、またね、と唇にキスを一つ落とし、送り出した。


「あれがお前の馴染みの女か?」

「ああ」

「似てるな」

「似てねえよ」

「何と似てるって、俺まだ言ってないよ」


 ともかく、と近場で茶やコーヒーが飲める店に入った。

 チェリと違い、帝国ではコーヒーもよく飲まれていた。

 それに合う濃い甘い菓子もあった。

 奴は眠気覚まし、とばかりにコーヒーを注文し、俺は普段通りに茶を頼んだ。


「で、どんだけすげえことが起こったんだ?」

「……」


 俺は黙って手紙を渡した。

 奴はざっと目を通し――やがて表情が険しくなった。


「あの夫人が?」

「ああ。それで、ここに原因とみられることが書いてある」


 親父の手紙によると、何でもセレジュを嫁がせてからというもの、伯爵夫人は急に疲れやすくなったのだという。

 だがそれだけだった、と。

 それだけだが、じわじわと身体が弱っていって、この年一番の寒い朝、外で倒れているのが見つかったのだという。

 弱っていた身体に、急な寒さが堪えたのだろう、と医者は判断したという。

 そして更にそこに付け加えられていたのが、その死によって、今度は伯爵自身も気落ちして弱ってきている、ということだった。


「どういうことだ?」

「わからん。だからお前を呼びに来た」


 奴は注文したコーヒーが来ると、その中に水を入れ薄め、がっ、と一気に飲み干した。

 そしてお代わり、と給仕の女の子に言った。今度はミルクをたっぷり、と付け加えて。

 そして自分の頬を両手でぱん! と叩いた。


「彼女の仕業だと、バーデン、お前思うか?」

「わからん。確かに俺等は焚き付けた。だけど、そこまでするか、という気もする」

「そこまでしない、とお前は思うのか?」

「わからん。思いたいがな」


 俺は――ありうる、と思っていた。

 だが確証は無い。

 そして確証が無いなら余計に「そう」とも思えてしまう。


 ともかく親父に伯爵家のことをもっと詳しく教えてくれ、と俺は頼んだ。

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