6 幕間1 国王は息子の無知を嘆く

「ち、父上」

「……何だ…… 今はお前の声も聞きたくないというのに」


 国王は三十分の休廷時間も、その椅子から離れることができなかった。

 彼は自分の息子がここまで馬鹿であったこと、そして何者かが息子に誤った知識を植え付けていたのに誰もそれに気付けなかったこと、結果として、彼の最愛の第三側妃を自害させてしまったこと。

 第三側妃は国王にとって、ようやく手に入れた利害関係抜きの妻だった。

 それ故に若い頃もっとも多数の夜を過ごし、結果この第一王子を儲けたのだった。

 ただこの第一王子は、彼の愛した第三側妃の聡明さとは異なり、何処か抜けていた。

 それでも一応彼を王太子にすることは一応決定事項だった。

 チェリ王国では長子相続が基本であり、母方の身分は少なくとも表向き無関係である。

 ところが彼が王太子に決まると思われる時期になって、帝都から辺境伯令嬢を第一王子の婚約者とする様に、という命令が下された。

 それはすなわち、第一王子の周囲には不審な点がある、ということである。

 そのまま何も起こらず成人の年齢を迎えれば、辺境伯令嬢とそのまま結婚ということになり、問題はなかったのだが……


「教えてやろう、お前が知らなかったことを」


 王は息子に話し出した。


「お前は辺境伯の『辺境』を何処の辺境だと思っているのだ?」

「この国の辺境では…… ないのですか?」


 さすがにセインは自信無げに問いかける。


「違う。その点からお前は完全に間違っている!」

「では……」

「辺境伯の辺境とは、帝国のそれ。我が国ではなく、帝国直轄の高位貴族。すなわち、属国である我々と同身分もしくは上に当たるのだ……」

「え?」


 言われている意味がセインにはすぐには飲み込めなかった。


「特にバルバラ嬢は、わが国より広大な北方の森林地帯を含む領地を治めるザクセット家の長女だ」

「いえ、もし帝国であったとしても、帝国と我が国との関係は」

「属国ということの意味も考えたこともないんだな。幼い頃に教えられたこと、それが周囲との会話や何かからおかしいと思わなかったのか」

「わかりません、父上、我が国は、帝国と、良き関係を結んで……」

「その良き関係というのは、我が国が決して帝国のすることに逆らわない、ということだ。我が国がひとたび帝国に逆らえば、その強力な軍隊は、あっという間に我が国を蹂躙しつくすだろう。属国ということはそういうことだ。その観念がお前に無かったとは…… 全く」


 王は今更どうしようもない、とばかりに頭を抱えた。

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